上皮増殖因子受容体(EGFR)を標的とする完全ヒト型モノクローナル抗体であるパニツムマブ(Pmab、商品名:ベクティビックス)は、KRAS遺伝子エクソン2の変異を有する転移性大腸がん(mCRC)患者では効果が低いことが報告されている。フランス・Institut de Cancerologie de l’ Ouest(ICO)Rene GauducheauのJean-Yves Douillard氏らは、PRIME試験についてバイオマーカー解析を行い、KRAS遺伝子エクソン2変異以外の遺伝子変異も、Pmabの負の効果予測因子となる可能性を示した。NEJM誌2013年9月12日号掲載の報告。
変異有無別の有用性を、前向き、後ろ向きに解析
PRIME試験は、mCRCの1次治療においてPmab+FOLFOX4(オキサリプラチン/フルオロウラシル/ロイコボリン)併用療法とFOLFOX4単独療法の有用性を比較する国際的な多施設共同無作為化第3相試験。
今回、研究グループは、前向きおよび後ろ向きのバイオマーカー解析を行い、
RAS遺伝子(
KRASと
NRAS)または
BRAF遺伝子の変異の有無別に、Pmab+FOLFOX4併用の有効性と安全性をFOLFOX4単独と比較した。
KRAS遺伝子エクソン2の変異のないmCRC患者639例には、
KRAS遺伝子エクソン3、4、
NRAS遺伝子エクソン2、3、4、
BRAF遺伝子エクソン15のうち1つ以上の変異が認められた。遺伝子変異の検査結果は、
RAS遺伝子が90%(1,060/1,183例)から、
BRAF遺伝子は52%(619/1,183例)から得られた。
RAS遺伝子変異のない患者には有効
RAS遺伝子変異のない512例における無増悪生存期間(PFS)中央値は、Pmab+FOLFOX4併用群の10.1ヵ月に対し、FOLFOX4単独群は7.9ヵ月であり、有意な差が認められた(併用療法による病態進行または死亡のハザード比[HR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.58~0.90、p=0.004)。全生存率(OS)中央値も、併用群が26.0ヵ月と、FOLFOX4単独の20.2ヵ月に比べ有意に延長した(同:0.78、0.62~0.99、p=0.04)。
RAS遺伝子変異のある548例では、PFS中央値は併用群が7.3ヵ月、FOLFOX4単独群は8.7ヵ月(HR:1.31、95%CI:1.07~1.60、p=0.008)、OS中央値はそれぞれ15.6ヵ月、19.2ヵ月(同:1.25、1.02~1.55、p=0.03)であり、併用群が有意に不良であった。
KRAS遺伝子エクソン2に変異がなく、他の
RAS遺伝子変異を有する108例のPFS中央値は、併用群が7.3ヵ月、FOLFOX4単独は8.0ヵ月(HR:1.28、95%CI:0.79~2.07、p=0.33)、OS中央値はそれぞれ17.1ヵ月、18.3ヵ月(同:1.29、0.79~2.10、p=0.31)であり、いずれも両群間に差を認めなかった。
KRAS遺伝子エクソン2の変異を有する440例のPFS中央値は、併用群が7.3ヵ月、FOLFOX4単独群は8.8ヵ月(HR:1.29、95%CI:1.04~1.62、p=0.02)、OS中央値はそれぞれ15.5ヵ月、19.3ヵ月(同:1.24、0.98~1.57、p=0.07)であり、
KRAS遺伝子エクソン2に変異がなく他の
RAS遺伝子変異のある患者とほぼ一致していた。
BRAF遺伝子変異は不良な予後の予測因子である可能性が示唆された。また、新たな有害事象の発現はなく、
RAS遺伝子変異のない患者および変異のある患者の安全性プロフィールは、
KRAS遺伝子エクソン2変異のない患者と同じであった。
著者は、「
KRAS遺伝子エクソン2変異に加え他の
RAS遺伝子変異を有する転移性大腸がん患者では、Pmab+FOLFOX4併用療法は有効ではないことが予測される。
RAS遺伝子変異のない患者では本併用療法が有効であった」とまとめ、「これらの知見を確定するには抗EGFR療法に関する統合解析またはメタ解析を要する」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)