低分子RNA干渉薬ALN-PCSによる前駆蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9(PCSK9)の合成阻害は、LDLコレステロール(LDL-C)を低下させる安全な作用メカニズムである可能性が、米国・Alnylam Pharmaceuticals社のKevin Fitzgerald氏らの検討で示された。研究の詳細はLancet誌オンライン版2013年10月3日号に掲載された。2006年、セリンプロテアーゼであるPCSK9の機能喪失型遺伝子変異によってLDL-Cが低下し、冠動脈心疾患のリスクが著明に低減することが確認された。それ以降、PCSK9を標的とする新たな脂質低下療法の開発が活発に進められ、これまでに抗PCSK9抗体のLDL-C低下効果が確認されているが、RNA干渉に基づくPCSK9合成阻害に関する報告はないという。
健常者における安全性を無作為化第I相試験で評価
研究グループは、健常成人におけるALN-PCSの安全性と有効性を評価する単盲検プラセボ対照無作為化第I相用量漸増試験を実施した。
対象は、年齢18~65歳で、血漿LDL-C値の上昇(≧3.00mmol/L)がみられるが脂質低下療法を受けていない健常者とした。被験者は、ALN-PCSを静脈内単回投与(0.015~0.400mg/kg)する群またはプラセボ群に3対1の割合で無作為に割り付けられた。
主要評価項目は安全性および忍容性とし、副次評価項目はALN-PCSの薬物動態(PK)特性およびPCSK9、LDL-Cに及ぼす薬力学(PD)作用とした。被験者には治療割り付け情報がマスクされ、per-protocol解析が行われた。
PCSK9が約70%、LDL-Cが約40%低下
2011年9月21日~2012年9月11日までに32人が登録され、ALN-PCS群に24人(年齢中央値51.0歳、男性22人)が、プラセボ群には8人(41.5歳、8人)が割り付けられた。ALN-PCS群の用量別の内訳は、0.015mg/kg群3人、0.045mg/kg群3人、0.090mg/kg群3人、0.150mg/kg群3人、0.250mg/kg群6人、0.400mg/kg群6人であった。
治療関連有害事象の発症率はALN-PCS群が79%(19人)、プラセボ群は88%(7人)と両群で同等であった。ALN-PCSは血漿中に迅速に分布し、注入終了時あるいは終了後まもなくピーク濃度に達した。また、ほぼ用量に比例してピーク濃度および曲線下面積(AUC)が上昇した。
最大用量の0.400mg/kg群では、投与後3日目の空腹時血漿PCSK9のベースラインからの平均変化率が、プラセボ群に比べ69.7%低下した(p<0.0001)。また、0.400mg/kg群では、空腹時血清LDL-Cのベースラインからの平均変化率が、プラセボ群に比べ40.1%低下した(p<0.0001)。
著者は、「LDL-Cが上昇している健常者において、RNA干渉によるPCSK9合成の阻害は、LDL-Cを低下させる安全な作用メカニズムであることが示唆される」とまとめ、「スタチン治療中の患者を含む高コレステロール血症患者において、ALN-PCSのさらなる評価を進めることを支持する知見が得られた。また、RNA干渉薬が、臨床的な妥当性が確認されているエンドポイント(すなわちLDL-C値)に影響を及ぼすことが、ヒトで初めて示された」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)