慢性疾患で通院中の患者の健康不安に対する認知行動療法は、不安症やうつ病への持続的な効果があることが多施設無作為化試験の結果、示された。コストへの有意な影響はなかったという。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのPeter Tyrer氏らが報告した。これまで、健康不安を訴え精神科部門に紹介受診する患者について、セラピストによる専門的な認知行動療法により、一部ではあるが特異的なベネフィットがあることが報告されていた。しかし通院治療中の患者に対する効果については、きちんと検討されたことはなかったという。Lancet誌オンライン版2013年10月18日号掲載の報告より。
1年時点の健康不安改善状況と、2年間のコスト面について評価
本検討は、有効性が示されたパイロット試験を踏まえて行われた。試験は、2次機能を有する医療機関において循環器、内分泌・代謝、消化器、脳神経、呼吸器の部門に通院中の健康不安を有する16~75歳の患者を対象とした多施設無作為化試験であった。被験者は、病院周辺の地域住民で、慢性疾患で通院中の、病状が安定している患者を対象とした。
適格患者となった患者はコンピュータで無作為に、通院先の病院のセラピストによる認知行動療法(5~10回のセッション)を受ける群と通常の治療のみを受ける群に割り付けられ追跡を受けた。
主要アウトカムは、1年時点の健康不安症状の変化(Health Anxiety Inventory[HAI]で評価)であった。また主要副次仮説として、2年間の健康・社会的ケアコストの総額に差異がないこと(同等性マージン:150ポンド)についても評価した。
健康不安の標準レベルへの改善達成、認知行動療法群が通常ケア群の約2倍
21ヵ月間(2008年10月~2020年7月)に2万8,991例の患者がスクリーニングを受け、444例が無作為化された(認知行動療法群219例、通常ケア群225例)。このうち主要評価には、認知行動療法群205例、通常ケア群212例が組み込まれた。
結果、1年時点の健康不安の改善は、認知行動療法群のほうが通常ケア群よりも2.98ポイント高かった(95%信頼区間[CI]:1.64~4.33、p<0.0001)。健康不安が標準レベルに改善した人の割合は、認知行動療法群のほうが通常ケア群より約2倍多かった(13.9%vs. 7.3%、オッズ比[OR]:2.15、95%CI:1.09~4.23、p=0.0273)。同様の差は、6ヵ月時点、また2年時点でもみられた。
また全般的不安(HADS-Aで評価)も改善がみられ、うつ病も健康不安でみられたほどの差はないが認知行動療法群での改善がみられた。
死亡は9例で、6例が通常ケア群であった。死亡は全例、既往の疾患によるものであった。
社会的機能や健康関連QOLについては、両群で有意な差はみられなかった。
2年間の総コストについて同等性は得られなかったが、有意差はなかった(補正後平均差156ポンド、p=0.848)。
(武藤まき:医療ライター)