股関節または膝関節の中等度~重度変形性関節症患者に対する待機的全人工関節置換術により、重症心血管イベントの発生リスクが低下することが、カナダ・トロント大学のBheeshma Ravi氏らの検討で示された。身体活動性の低下は心血管リスクを増大させる因子であることが示唆されている。65歳以上の40%以上に身体活動性の低下がみられ、その原因の多くを変形性関節症が占める。全人工関節置換術は変形性関節症患者の疼痛、運動能、歩行能、QOL、全般的な身体機能を改善するが、心血管リスクへの影響は不明であった。BMJ誌オンライン版2013年10月30日号掲載の報告。
心血管リスクの抑制効果をランドマーク解析で評価
研究グループは、股関節または膝関節に対する全人工関節置換術が、中等度~重度の変形性関節症患者における重症心血管イベントを抑制するかを検証するために、傾向スコア・マッチング法を用いたランドマーク解析を行った。
1996~1998年に、カナダ・オンタリオ州で年齢55歳以上の股関節または膝関節の変形性関節症患者2,200例(年齢中央値71歳、女性72.0%)を登録し、死亡または2011年まで前向きに追跡した。ベースラインから3年以内に、待機的な初回全人工関節置換術を受けた患者と、受けなかった患者において、重症心血管イベントの発生状況を比較した。
傾向スコアをマッチさせたコホートとして、153組の置換術施行例と非施行例、合計306例が解析の対象となった。試験開始日をランドマークとして、中央値7年間追跡した。
イベントが約40%低下、絶対リスク減少率は約12%
7年間に、全体で111件(36.3%)の心血管イベントが発生した。
3年以内に全人工関節置換術を受けた患者は、非施行群に比べ重症心血管イベントの頻度が有意に低かった(ハザード比[HR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.43~0.74、p<0.001)。また、7年間の絶対リスク減少率は12.4%(95%CI:1.7~23.1)で、治療必要数(NNT)は8例(95%CI:4~57)であった。
膝関節の全人工関節置換術を受けた94例は、非施行の94例に比べ重症心血管イベントの頻度が有意に低かった(HR:0.46、95%CI:0.29~0.75、p=0.0017)。しかし施行群で男性が有意に多く(26.6 vs 19.1%、standardized difference:18%)、両群間のバランスがとれていなかった。一方、股関節の全人工関節置換術を受けた49例は、非施行の49例に比べ重症心血管イベントの頻度が有意に低かった(HR:0.61、95%CI:0.38~0.99、p=0.0442)が、施行群で年齢が高く(70 vs 68歳、standardized difference:16%)、また平均BMIも高い値を示し(32.8 vs 29.2、standardized difference:32%)、バイアスの可能性が残された。
著者は、「股関節または膝関節の中等度~重度変形性関節症患者に対する3年以内の待機的初回全人工関節置換術の心血管保護効果が確認された」とまとめ、「本研究は観察試験であるが、傾向スコア・マッチング法を用いることで交絡因子を調整し、有効性を示すことができた。われわれの知る限り、これは全人工関節置換術の心血管保護効果を示した初めての研究である」と報告している。
(菅野守:医学ライター)