米国・クリーブランドクリニックのRandall C. Starling氏らは、著者の施設を含めた3施設で行った調査の結果、植込み型補助人工心臓「HeartMate II」について、デバイスに関連したポンプ血栓症の発生が増加しており、病的状態や死亡と大きく関連していることが明らかになったと報告した。HeartMate IIの重要試験および市販後臨床試験の結果では、血栓症の発生は2~4%と報告されているが、著者の施設の質的レビューで、ポンプ血栓症の発生が予想外に突然、増大していることが観察され本検討を行ったという。NEJM誌オンライン版2013年11月27日号の掲載報告より。
3施設で施術を受けた837例について調査
Starling氏らは複数施設において、ポンプ血栓症、乳酸脱水素酵素(LDH)値上昇の発生について調べ、LDH値が塞栓症(あるいは関連する溶血反応)の発生を予測するかどうか、また、異なる治療マネジメント戦略のアウトカムを調べた。
2004~2013年半ばまでに、3施設(クリーブランドクリニック、ワシントン大学バーンズ・ジューイッシュ病院、デューク大学医療センター)で施術を受けた患者837例(デバイス895個)のデータを解析した。被験者の平均年齢は55±14歳だった。
主要エンドポイントは、確認されたポンプ血栓症で、副次エンドポイントは、確認・疑い例を含む血栓症、LDH値の長期的変動、ポンプ血栓症後のアウトカムなどであった。
2年間でポンプ血栓症が2.2%から8.4%へ上昇、前兆はLDH値の倍増
確認されたポンプ血栓症は総計72件(患者66例)だった。さらに36件の血栓症がデバイスと関連している可能性があった。
デバイス留置後3ヵ月時点の確認されたポンプ血栓症の発生率は、2011年3月頃では2.2%(95%信頼区間[CI]:1.5~3.4%)だったが、2013年1月1日には8.4%(同:5.0~13.9%)に上昇していた。
また、2011年3月1日以前は、デバイス留置から血栓症発生までの時間中央値は18.6ヵ月(95%CI:0.5~52.7)であったが、2011年3月1日以降は、2.7ヵ月(同:0.0~18.6)だった。
留置後3ヵ月以内のLDH値上昇の発生は、血栓症の発生を反映していた。確認されたポンプ血栓症の発生前6週間で、平均して同値が540 IU/Lから1,490 IU/Lへと上昇していたことが認められ、「LDH値の倍増」が血栓症発生の前兆であることが示された。
血栓症の治療管理は、患者11例は心臓移植によって(1例は移植後31日で死亡)、21例はポンプの代替によって行われた。これらの治療を受けた患者の死亡率は、血栓症が発生しなかった患者と同程度だった。心臓移植やポンプ代替を受けなかった患者は40例(血栓症40件)で、これら患者のポンプ血栓症発生後6ヵ月時点の保険統計上の死亡率は、48.2%(95%CI:31.6~65.2)であった。
結果を踏まえて著者は、「われわれは左室補助装置(LVAD)が、多くの進行性心不全患者の生命を維持する治療法であることは認める。しかし、LVADの治療レコメンデーションにおいて、この最新のリスクベネフィットの概要について説明されるべきである」と指摘している。
(武藤まき:医療ライター)