院外心停止患者に対する病院到着前アドレナリン投与、長期予後を改善/BMJ

提供元:ケアネット

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公開日:2014/01/08

 

 院外心停止に対する救急隊員による救命処置時のアドレナリン(エピネフリン)投与により、患者の長期的な予後が改善することが、聖マリアンナ医科大学の中原慎二氏ら日本の研究グループによって明らかにされた。院外心停止患者に対する救命処置や心肺蘇生術、自動体外式除細動器の早期施行は明確な生存ベネフィットをもたらすが、病院到着前アドレナリン投与は自己心拍の再開の改善は示されているものの、長期的な予後改善効果は確立されていない。また、その有害作用を示す観察試験がある一方で、最近の無作為化試験ではわずかながら良好な効果(有意差はなし)が報告されているという。BMJ誌オンライン版2013年12月10日号掲載の報告。

傾向スコア・マッチング法を用いた後ろ向きコホート試験で評価
 研究グループは、院外心停止患者に対する救命処置時の病院到着前アドレナリン投与の有効性を評価するために、レトロスペクティブなコホート試験を行った。対象は、年齢15~94歳で、その場に居合わせた第三者によって目撃された院外心停止患者とした。

 日本の全国的なレジストリーデータベースから、2007年1月~2010年12月までに発生した院外心停止患者を抽出し、心室細動(VF)または無脈性心室頻拍(VT)の患者と、非VF/VT患者に分類した。時間依存性の傾向スコアに基づくマッチング法を用いて、アドレナリン投与例と非投与例のペアを作成した。

 主要評価項目は、1ヵ月後または退院時の全生存率および神経学的後遺障害のない生存率とした。

全生存率が、VF/VT患者、非VF/VT患者ともに改善
 43万8,005例の心停止患者のうち患者選定基準を満たしたのは9万6,079例で、VF/VT患者が1万4,943例、非VF/VT患者は8万1,136例であった。VF/VT患者の16.5%(2,464例)、非VF/VT患者の13.5%(1万957例)に、病院到着前にアドレナリンが投与された。投与例と非投与例のマッチングを行い、VF/VTのペア1,990組(3,980例)および非VF/VTのペア9,058組(1万8,116例)について解析を行った。

 VF/VT患者の全生存率は、アドレナリン投与群が17.0%と、非投与群の13.4%に比べ有意に改善された(未調整オッズ比[OR]:1.34、95%信頼区間[CI]:1.12~1.60)が、神経学的後遺障害のない生存率は両群ともに6.6%(OR:1.01、95%CI:0.78~1.30)であり、有意差は認めなかった。

 非VF/VT患者では、全生存率はアドレナリン投与群が4.0%、非投与群は2.4%(OR:1.72、95%CI:1.45~2.04)、神経学的後遺障害のない生存率はそれぞれ0.7%、0.4%(1.57、1.04~2.37)であり、いずれも投与群で有意に良好だった。

 著者は、「院外心停止患者に対する救急隊員による救命処置時の病院到着前アドレナリン投与は、患者の長期的な予後を改善した。一方、神経学的後遺障害のない生存には影響を及ぼさなかった」とまとめ、「今回の解析法を用いれば、否定的な結果を報告している以前の観察試験のデータの再解析も可能と考えられる」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)