抗レトロウイルス薬によるfirst-line治療を受けているHIV感染例においては、個々のモニタリング戦略(臨床観察、ウイルス量、CD4細胞数)のベネフィットはほぼ同等であることが、英国Royal Free and University College Medical SchoolのAndrew N Phillips氏らの検討で明らかとなった。WHOは、低所得国におけるHIV感染例の治療アプローチとして、標準化されたレジメンによる抗レトロウイルス治療とともに、ウイルス量よりもむしろ臨床観察あるいは可能な場合はCD4細胞数のカウントによるモニタリングを推奨している。同氏らはこれを検証し、Lancet誌2008年4月26日号で報告した。
2nd-lineへの切り替えを決めるモニタリング法が、アウトカムに及ぼす影響を評価
研究グループは、医療資源が限定的な状況において、HIV感染例に対する個々のモニタリング戦略がアウトカムに及ぼす影響についてコンピュータシミュレーションモデルを用いた検討を行った。
臨床観察、ウイルス量、CD4細胞数に基づくモニタリング戦略を解析の対象とした。現在のHIV感染例に対するWHO推奨のfirst-lineレジメンは、スタブジン(国内商品名:ゼリット)、ラミブジン(ゼフィックス)、ネビラピン(ビラミューン)を用いた抗レトロウイルス療法である。これを2nd-lineレジメンに切り替える時期を決定する方法として、どのモニタリング法が優れるかを検討するために、生存率、耐性発現などのアウトカムの評価を行った。
抗レトロウイルス薬への広範なアクセス可能性が最優先
5年生存率の予測値は、ウイルス量のモニタリング(ウイルスコピー数>500コピー/mLとなった時点で2nd-lineレジメンに切り替え)が83%、CD4細胞数のモニタリング(ピーク値から50%低減した時点で切り替え)が82%、臨床的なモニタリング(WHO stage 3の新規イベントが2つあるいはWHO stage 4の新規イベントが1つ発現した時点で切り替え)が82%であった。
20年生存率の換算値はそれぞれ67%、64%、64%であった。ウイルス量のモニタリングは生存期間がわずかに延長していたが、費用効果が最も優れるわけではなかった。
Phillips氏は、「スタブジン、ラミブジン、ネビラピンによるfirst-lineレジメンを受けたHIV感染例において、2nd-lineレジメンへの切り替えを判断するモニタリング法としては、ウイルス量あるいはCD4細胞数のモニターが臨床観察を上回るベネフィットはわずかなものであった」と結論し、「安価で有効性の高い薬剤の開発が重要だが、現時点における最優先事項は、モニタリングの有無にかかわらず抗レトロウイルス薬への広範なアクセス可能性である」と考察している。
(菅野守:医学ライター)