入院時のPCR法によるMRSA迅速検査は感染率を低減しない

提供元:ケアネット

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公開日:2008/05/16

 

入院時にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の全数スクリーニングとしてpolymerase chain reaction(PCR)法による迅速検査を実施しても一般病棟のMRSA感染率は低減しないことが、英国Guy's and St Thomas' NHS Foundation Trust感染症科のDakshika Jeyaratnam氏らの検討で明らかとなった。MRSA感染症は罹患率および死亡率が高く、入院期間を延長し、医療コストの増加をもたらす。英国では、MRSAを含む感染症関連保健医療の低減が政府の優先課題とされる。BMJ誌2008年4月26日号(オンライン版2008年4月16日号)掲載の報告。

迅速PCR法と従来の培養検査のMRSA感染率を比較




研究グループは、MRSAスクリーニングへの迅速検査の導入が一般病棟のMRSA感染率を低減させるか否かを評価するために、クラスター無作為化クロスオーバー試験を実施した。

試験期間は2006年1月~2007年3月。3ヵ月のベースライン期間、5ヵ月の介入期間ののち、1ヵ月のウォッシュアウト期間を置いてクロスオーバーを行い、さらに5ヵ月間の介入を行った。

対象はロンドン市の2つの地区(Guy's、St Thomas')の教育病院に入院した症例であり、入院時にMRSA陰性で、退院時にスクリーニング検査を受けた患者とした。MRSAの入院時スクリーニング検査としての迅速PCR法を従来の培養検査と比較した。主要評価項目はMRSA感染率(入院時MRSA陰性例が退院時に陽性となった割合)とした。

退院時のMRSA感染率は両群間で有意差なし




病棟に入院した9,608例のうち8,374例が症例選択基準を満たし、データをすべて取得できたのは6,888例(82.3%)であった。そのうち3,335例が培養検査群(対照群)に、3,553例が迅速検査群に割り付けられた。

全体の入院時MRSA感染率は6.7%であった。入院から検査結果の報告までの所要時間(中央値)は、対照群の46時間に対し迅速検査では22時間と有意に短縮した(p<0.001)。不適切な予防的隔離の日数も、対照群の399日に対し迅速検査では277日と有意に減少した(p<0.001)。

退院時のMRSA感染率は対照群が3.2%(108例)、迅速検査群は2.8%(99例)であった(非補正オッズ比:0.88、p=0.61)。事前に規定された交絡因子を考慮した場合の補正オッズ比は0.91(p=0.63)と両群間に有意な差は見られなかった。MRSA感染、創傷感染、菌血症の発現率も両群間に差を認めなかった。

Jeyaratnam氏は、「迅速検査は検査結果の報告を速やかにし、病床稼働率にもインパクトを与えたが、MRSA感染率を低減させるというエビデンスは得られなかった」と結論し、「従来の培養検査との比較において、迅速検査に伴う医療コストの上昇は正当化されない」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)