貧しく医療サービスを十分受けられない患者を主に診療する「セーフティネット病院」はそれ以外の病院と比べて医療の質が低いといわれている。報道やペイ・フォー・パフォーマンス(治療成績に応じた医療費支払い)制度は医療の質が低い病院を改善させる影響力を持つはずだが、セーフティネット病院にはそのための投資ができない可能性をはらんでいる。そのため、これらの刺激がかえって病院間にある差異を増幅させる可能性があると懸念を表明する向きもある。米国フィラデルフィアにある退役軍人医療センターのRachel M. Werner氏らは、メディケイド(低所得者向け医療保険)患者の割合の高低で、病院間に医療の質の差があるかどうかを調べた。JAMA誌2008年5月14日号より。
メディケイド患者の比率の高低で病院パフォーマンスを比較
Werner氏らが行ったのは、2004年から2006年にかけての病院パフォーマンスに関する公式データを用いて、病院パフォーマンスとメディケイドがカバーした患者範囲との相関についての縦断研究。
メディケイド患者の比率に応じて病院への支払い額を見積るためシミュレーション・モデルが用いられた。
主要評価項目は、2004~2006年にかけての病院パフォーマンスの変化とし、メディケイド患者の比率によって医療成績の差に変化があったかどうかを検証した。
治療成績に基づく報奨制度は病院間の質の差を助長
調査対象となったのは4,464病院で、3,665病院(82%)が最終分析に残った。
このうちメディケイド患者の比率が高い病院は2004年の治療成績は低く、改善の度合いも、メディケイド患者の比率が低い病院と比べてわずかだった。一方、メディケイド患者の比率が低い病院での急性心筋梗塞の治療成績は3.8パーセンテージ・ポイントで、同じく比率が高い病院の2.3パーセンテージ・ポイントを絶対差で1.5(P=0.03)、相対差で39%上回った。メディケイド患者の比率が低い病院で治療成績の向上が同じように大きかったのは、心不全(1.4パーセンテージ・ポイント差、P=0.04)と肺炎(1.3パーセンテージ・ポイント差、P<0.001)。
最終的に、メディケイド患者の比率が高い病院は、治療で高成績を上げる可能性は低かった。シミュレーション・モデルでは、これらの病院はパフォーマンスの低さから財務面でペナルティを課される可能性があり、特別手当を支給される可能性はまずないと判断された。
こうした分析結果から研究グループは、医療成績を測る尺度において、セーフティネット病院は非セーフティネット病院と比べて、3年の全調査期間にわたって成果は小さく、好成績を達成できなかったと結論づけると同時に、比較基準に基づいた報奨制度は、病院間の質の差を増幅させるとも付け加えている。
(朝田哲明:医療ライター)