前立腺選択的α遮断薬は、転倒および骨折のリスク増大とわずかだが有意に関連していることが、カナダ・ウェスタンオンタリオ大学のBlayne Welk氏らによる住民コホート試験の結果、明らかにされた。また、頭部外傷、低血圧症のリスク増大も認められた。前立腺選択的α遮断薬は高齢男性の前立腺肥大症の治療薬で、これまでに、重篤有害事象の1つとして低血圧症があり、それが重大な転倒・骨折、頭部外傷の誘因となっている可能性が指摘されていた。しかし先行観察研究では、前立腺選択的α遮断薬にフォーカスした検討はされておらず、また治療開始と転倒・骨折リスクに関して相反する結論が報告されていた。BMJ誌オンライン版2015年10月26日号掲載の報告。
住民コホート試験で曝露群 vs.非曝露群について検討
前立腺選択的α遮断薬による治療を開始した男性で転倒・骨折リスクの増大がみられるかを検討した試験は、カナダ・オンタリオ州の医療管理データベースを基にコホートを作成して行われた。66歳以上男性で2003年6月~13年12月に前立腺選択的α遮断薬(タムスロシン、alfuzosin、シロドシン)を初回外来処方された(曝露コホート)群14万7,084例と、傾向スコアモデルを用いて適合した同薬を開始していなかった同数(非曝露コホート)を比較検討した。
主要アウトカムは、曝露後90日間での転倒または骨折による病院救急部門(ER)受診または入院とした。
曝露群でわずかだが有意にリスクが増大
結果、曝露コホートは非曝露コホートに比べて、転倒リスクの有意な増大が認められた。各コホートの転倒発生は、2,129例(1.45%)、1,881例(1.28%)で、絶対リスク増大は0.17%(95%信頼区間[CI]:0.08~0.25%)、オッズ比(OR)は1.14(95%CI:1.07~1.21)であった。また、骨折リスクも有意に増大した。発生例は699例(0.48%)、605例(0.41%)で、絶対リスク増大は0.06%(0.02~0.11%)、ORは1.16(1.04~1.29)であった。これらの増大リスクは、前立腺選択的α遮断薬使用前の期間には観察されなかった。
また、副次アウトカムの低血圧症(OR:1.80、95%CI:1.59~2.03)および頭部外傷(同:1.15、1.04~1.27)も、曝露コホートで有意な増大がみられた。
著者は、「両コホートは、98の異なる変数(人口統計学的、併存疾患、使用薬物、医療サービス利用、既往歴)について類似していた。潜在的な未知の交絡因子(体調不良、運動機能障害、状況的リスク因子など)は除外することが可能である」と述べたうえで、「主要アウトカムに用いられたデータの感度は限定的であり、絶対リスクは過小評価の可能性がある」と指摘している。また、被験者が66歳以上であり、曝露群の84%がタムスロシンを処方されていたことから、「結果は、より若い男性には該当しない。また薬物間のアウトカムの差がわずかであることを示す統計的検出力にも乏しいものであった」と述べ、同薬物治療の導入について引き続き検討すべきだとしている。
(医療ライター 武藤 まき)