2件の試験コホートの高齢参加者を対象に、股関節痛の主訴とX線画像診断結果との一致について調べた結果、乖離が認められることが、米国・ボストン大学のChan Kim氏らによる検討の結果、示された。股関節痛を訴え画像所見で変形性股関節症(OA)が確認された患者は9.1~15.6%の一方、画像所見で股関節OAが認められるが疼痛なしの患者は20.6~23.8%であった。また、疼痛主訴の部位を鼠径部などに限定した場合の診断感度は16.5~36.7%などとなっており、著者は「X線所見に依拠すると、診断医は多くの高齢者の股関節OAを見逃す可能性がある」と指摘している。BMJ誌オンライン版2015年12月2日号掲載の報告。
2つのコホートを対象に痛みの主訴と画像所見の一致率を調査
股関節OAは重大な疾病要因であり、疼痛、歩行・機能障害を引き起こす。米国では過去30年で60歳以上人口が倍増しており、変形性関節症およびそれに伴う疾患コストが増加し続け、OAに関するコストは年間約1,855億ドルに上ると試算されているという。
通常、股関節痛を訴える患者にはX線画像診断が行われ、痛みとX線上のOAが認められれば股関節OAと診断づけられるが、研究グループは、股関節痛とX線上のOAの一致率がどれくらいなのか診断検査試験にて調べた。
試験は、マサチューセッツ州フラミンガム住民対象の「フラミンガムOA試験」コホート(2002~05年)、および全米多施設長期に行われた「OAイニシアティブ試験」コホート(2003~05年、4施設)を対象とした。
股関節の視覚的表現を用いて、1日中続くような股関節痛があったかどうか、また疼痛部位(前部、鼠径部、側部、臀部、腰部)を調べた。フラミンガムOA試験では、股関節痛を訴えた患者について、内旋時の股関節痛についても調べた。
それら報告を基に著者は、X線上の股関節OAと股関節痛の一致について分析した。また、股関節痛の股関節OA示唆に関する感度、特異度、陽性適中率、陰性適中率を算出し、診断検査におけるX線画像診断の価値を調べた。
結果は見逃しが多く存在することを示唆
フラミンガムOA試験参加者(946例、63.5歳)において、股関節痛を訴えた患者のうちX線上で股関節OA所見が認められたのは、15.6%のみであった。また、X線上で股関節OA所見が認められた患者で疼痛があったのは20.6%であった。
股関節痛を鼠径部に限定した場合、X線上で股関節OA所見が認められる感度は36.7%、特異度は90.5%、陽性適中率6.0%、陰性適中率98.9%であった。この結果は、他の部位の股関節痛や内旋痛についても同様であった。
また、変形性関節症イニシアティブ試験参加者(4,366例61.0歳)では、股関節痛を訴えた患者のうちX線上で股関節OA所見が認められたのは9.1%のみで、X線上で股関節OA所見が認められた患者で疼痛があったのは23.8%であった。
同様に鼠径部に限定した場合の診断感度は16.5%、特異度94.0%、陽性適中率7.1%、陰性適中率97.6%であり、他部位の股関節痛についても同様の結果が示された。