膝関節炎および股関節炎の管理では、用量にかかわらずパラセタモール(日本ではアセトアミノフェン)に治療上の役割はなく、現時点では疼痛緩和と機能改善の両面でジクロフェナク150mg/日が最も有効とのネットワークメタ解析の結果を、スイス・ベルン大学のBruno R da Costa氏らがLancet誌2016年3月17日号で報告した。関節炎による疼痛に非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を処方する際、医師は多くの種類の製剤とさまざまな用量に直面することとなり、臨床的な意思決定上の課題となっている。また、NSAIDによる初回治療は薬剤の変更や投与中止で特徴づけられるが、これが不適切な疼痛管理の原因となっている可能性があるという。これまでの系統的レビューは、個々のNSAIDの疼痛緩和という限られた効果をプラセボと比較した試験を対象としているが、ネットワークメタ解析では直接的および間接的なエビデンスを統合することで、個々の製剤のさまざまな用量での効果の評価が可能とされる。
約5万8,000例で、8製剤、23種の介入の効果を比較
研究グループは、膝・股関節炎による疼痛の治療において、NSAID、パラセタモール、プラセボを比較した試験を対象にネットワークメタ解析を行った(スイス国立科学財団などの助成による)。
Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)を検索して、1980年1月1日~2015年2月24日までに公表された臨床試験(各群に100例以上を登録)の論文を選出し、関連論文の文献リストにも当たった。
効果量(effect size:ES)の解析には、ベイズ統計のランダム効果モデルを用い、複数の薬剤の比較を行った。事前に規定された主要評価項目は疼痛であり、副次評価項目は身体機能とした。
74件の無作為化試験に参加した5万8,556例が解析の対象となった。7つのNSAID(ロフェコキシブ、ルミラコキシブ、エトリコキシブ、ジクロフェナク、セレコキシブ、ナプロキセン、イブプロフェン)とパラセタモール、プラセボの合計23種の1日用量について評価を行った。
中等度~最大用量の間欠的短期投与が好ましい
用量にかかわらず、すべての製剤でプラセボに比し疼痛症状の推定値が改善された。
以下の6つの処方で、臨床的に意義のある最小疼痛緩和効果(ES:-0.37)の達成を支持する統計学的に十分なエビデンスが得られた(プラセボとの差が、事前に規定された閾値である-0.37か、それを下回る可能性が95%以上ある)。ジクロフェナク150mg/日、エトリコキシブ30mg/日、同60mg/日、同90mg/日、ロフェコキシブ25mg/日、同50mg/日。
承認を得ている最大1日用量では、ジクロフェナク150mg/日(ES:-0.57、95%信用区間[credibility interval:CrI]:-0.69~-0.46)およびエトリコキシブ60mg/日(ES:-0.58、95%CrI:-0.73~-0.43)が最良の介入となる可能性が最も高く、いずれも臨床的に意義のある最小変化量に達する可能性は100%であった。
どの製剤も用量が多くなるに従って治療効果が高くなったが、検定でリニアな用量反応に有意差を認めたのは、セレコキシブ(p=0.030)、ジクロフェナク(p=0.031)、ナプロキセン(p=0.026)だけであった。また、治療期間によって治療効果が変化するとのエビデンスは確認されなかった。
モデル適合度は疼痛、身体機能とも良好(good)で、試験間の異質性(heterogeneity)や非一貫性(inconsistency)はすべての解析において低い(low)と判定された。また、すべての試験が、患者の盲検化に関するバイアスのリスクは低いとされた。さらに、効果の推定値は、2つの統計モデルを追加した感度分析を行っても変化しなかった。
著者は、「すべてのNSAIDには消化管や心血管への有害作用があるため、製剤のタイプや用量は、本研究で示した個々の製剤の短期~中期の鎮痛効果に基づいて選択すべきである。また、必要とされる用量の中等度~最大の用量を短期間投与し、これを間欠的に繰り返す投与法が、固定用量の長期投与よりも好ましいと考えられる」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)