スペインでは、全死因死亡率は大不況以前と比較して大不況中に低下し、その傾向がとくに下位の社会経済的集団で確認されたという。スペインのマドリード・コンプルテンセ大学のEnrique Regidor氏らが、異なる社会経済的集団の死亡率に対するマクロ経済変動の影響を検討する目的で、“Great Recession(サブプライム・ローン問題に端を発した金融危機による大不況:2007年8月~2009年6月)”の前と最中とで死亡率の傾向を解析し、各社会経済的集団での変化を調査した結果を報告した。この死亡率低下について著者は、「おそらくリスク因子への曝露が減少したことによると考えられる」と述べている。Lancet誌オンライン版2016年10月13日号掲載の報告。
3,600万人を追跡し、社会経済状態別に全死因死亡率に対する大不況の影響を解析
研究グループは、2001年の国勢調査データを用い、2001年11月1日時点のスペイン居住者を2011年12月31日まで追跡し、大不況前の4年間(2004~07年)と大不況以降の4年間(2008~11年)に分け、各年10~74歳であった2001年時点の生存居住者3,595万1,354人の全死因死亡率および選択死因別(がん、心血管疾患、呼吸器疾患、消化器疾患、自動車事故、他の不慮の事故、自殺)死亡率を解析した。対象者は、2つの家計資産指標(居住場所の延べ床面積[72m
2未満、72~104m
2、104m
2超]、世帯構成員が所有する車の台数[0、1、2以上])により、社会経済的状態が下位、中位、上位の3群に分類された。
統計解析には、ポアソン回帰分析を用い、2つの家計資産指標それぞれについて、また、選択死因別に、社会経済的集団別に大不況前と大不況中の死亡率の年低下率等を算出して評価した。
大不況中に、社会経済的下位集団で全死因死亡率の低下が増大
居住面積指標と保有車数指標それぞれについて、低・中・高位の群別を問わず、2004年から2011年にかけて全死因死亡率は低下していた。
全死因死亡率の年低下率は、居住面積指標分類では、大不況前が下位群1.7%(95%信頼区間[CI]:1.2~2.1)、中位群1.7%(1.3~2.1)、上位群2.0%(1.4~2.5)であったが、大不況中ではそれぞれ3.0%(2.5~3.5)、2.8%(2.5~3.2)、2.1%(1.6~2.7)と、下位群での増大が認められた。また、保有車数指標分類でも、大不況前は低位群0.3%(-0.1~0.8)、中位群1.6%(1.2~2.0)、上位群2.2%(1.6~2.8)であったが、大不況中はそれぞれ2.3%(1.8~2.8)、2.4%(2.0~2.7)および2.5%(1.9~3.0)となっていた。
選択死因別死亡率も全死因では同様に、2つの資産指標それぞれについて、2004年から2011年にかけて低下傾向を示した。しかし、死因別にみると、大不況前にがん・呼吸器疾患・不慮の事故による死亡率について上昇傾向がみられる群(例:がんについて居住面積指標低位群は上昇など)、また大不況中にがん死亡率の上昇傾向がみられた群(がんについて居住面積指標高位群は上昇)が確認された。
両資産指標ともに、下位群で、低下率増大に関する最大の効果量が認められた。選択死因別にみると、下位群で効果量が大きかったのは、自動車事故、他の不慮の事故、呼吸器疾患であった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)