騒音性一過性閾値変化(TTS)の予防に、新規グルタチオンペルオキシダーゼ1(GPx1)様物質ebselenの投与(400mgを1日2回)は有効かつ安全であることが示された。米国・Sound Pharmaceuticals社のJonathan Kil氏らが、若年成人を対象とした第II相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果を報告した。先行研究において、急性騒音曝露後にGPx1活性が減少することや、ebselenが一過性騒音性難聴および永久性騒音性難聴の両方を軽減させることが動物実験で示されていた。騒音性難聴は、職業性または娯楽に関連した難聴の主たる原因であり、加齢性難聴の主要な決定要素でもあるが、その予防薬あるいは治療薬は開発されていない。著者は、「今回の結果は、急性騒音性難聴におけるGPx1活性の役割を支持するものである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2017年7月14日号掲載の報告。
騒音曝露後の一時的な聴力低下をebselenとプラセボとで比較
研究グループは2013年1月11日~2014年3月24日に、フロリダ大学単施設で試験を実施した。対象は18~31歳の健常成人83例で、ebselen 200mg、400mg、600mgまたはプラセボを1日2回4日間経口投与する群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた(無作為化は独立した第三者機関が作成した割り振り順番を用いて実施)。治験薬投与開始2日後に来院してもらい、騒音を再現した負荷試験(calibrated sound challenge:ロックもしくはポップスの楽曲を4時間、挿入型イヤホンを介して聞いてもらい、リアルワールドの複合的騒音を体験させる)の前および15分後、1時間15分後、2時間15分後および3時間15分後に純音聴力検査を行った。
主要評価項目は、負荷試験15分後の4kHzの平均TTSで、プラセボ群と比較してebselen群で50%減少した場合を臨床的に意義があると判定した。統計解析は、治験薬を1回以上服用し負荷試験を受けた参加者を有効性評価解析対象とし、また無作為化された参加者全員を安全性解析対象とした。
ebselen 400mg群で4kHzの平均TTSが68%減少
83例(ebselen 200mg群22例、400mg群20例、600mg群21例、プラセボ群20例)中、ebselen 200mg群の2例が選択基準を満たさないため負荷試験前に中止となり、有効性解析から除外された。
4kHzの平均TTS(±標準誤差[SE])は、ebselen 400mg群1.32±0.91dB、プラセボ群4.07±0.90dBであり、ebselen 400mg群で68%有意に減少した(差:-2.75dB、95%信頼区間[CI]:-4.54~-0.97、p=0.0025)。また、プラセボ群と有意差はなかったが、ebselen 200mg群で21%減少(3.23±0.91dB vs.プラセボ群4.07±0.90dB、差:-0.84dB、95%CI:-2.63~0.94、p=0.3542)、ebselen 600mg群で7%減少した(3.81±0.90dB vs.プラセボ群4.07±0.90 dB、差:-0.27、95%CI:-2.03~1.05、p=0.7659)。
ebselenのすべての用量群について忍容性は良好であり、血液学的、血液生化学的および放射線学的検査に関して、ebselen群とプラセボ群で差は認められなかった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)