米国・テキサス大学サウスウエスタン医療センターのRohan Khera氏らは、医療研究品質庁(AHRQ)が構築した大規模データベースNational Inpatient Sample(NIS)のデータを用いた研究について、「最近公表された120件の多くがAHRQの必須研究基準を順守していないことが示された」とする検証結果を報告した。一般公開されているデータセットには多くの可能性があるが、それらには特定の解析法が必要なのではないかとする意見が示されていた。著者は今回の結果を踏まえ、今後の課題として「NISを用いた研究の質を改善するための戦略を明らかにするとともに、公開されている他のデータセットを用いた研究で、同様の問題がないかを評価する必要がある」と提言している。JAMA誌2017年11月28日号掲載の報告。
米国NISのデータを使用した研究120件について調査
研究グループは、2015年1月~2016年12月に発表された、NISを用いた研究1,082件から、代表サンプル120件を選び、研究のデザインおよび実施が、AHRQの基準を順守しているかをシステマティックに評価した。
評価項目は、AHRQの推奨に基づく必須研究基準7つで、次の3項目についてまとめた。(1)データの解釈(患者固有というより入院記録としてデータを解釈する)、(2)研究デザイン(不適当な州・病院・医師レベルの評価での使用を避けている、院内イベントを研究するための非特異的な二次診断コードを使用していない)、(3)データ解析(NISの複雑な調査デザインと経時的なデータ構造の変化を説明している)。
必須研究基準7項目をすべて満たしていたのはわずか15%
120件のうち、85%(102件)が必須研究基準を1つ以上順守しておらず、62%(74件)が2つ以上順守していなかった。2015~16年に発表されたNISを用いた研究1,082件全体では、それぞれ925件(95%信頼区間[CI]:852~998)、および696件(95%CI:596~796)と推定された。
また、120件中、標本誤差・クラスタリング・層別化の影響を説明していなかった研究が79件(1,082件全体での推定値68.3%[95%CI:59.3~77.3%])、院内イベント推定のために非特異的な二次診断コードを用いていた研究が62件(同54.4%[95%CI:44.7~64.0%])、個々の患者として入院を誤分類していた研究が45件(同40.4%[95%CI:30.9~50.0%])、推定量を州レベルで解析していた研究が10件(同7.1%[95%CI:2.1~12.1%])、医師レベルでの解析が3件(同2.9%[95%CI:0.0~6.2%])あった。
NISのデータ構造に大きな変化があった期間のデータを用いた研究は27件あったが(全体では推定218件[95%CI:134~303])、このうち21件(77.8%)はその変化を説明していなかった(全体では推定79.7%[95%CI:62.5~97.0%])。
インパクトファクターが10以上の雑誌に発表された24件中、16件(67%)が1つ以上の、9件(38%)が2つ以上の必須研究基準を順守していなかった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)