臨床的に前立腺がんのリスクを有する生検未施行の男性の診断では、生検の前にMRIでリスク評価を行い、がん病変が陽性の場合に標的を絞って生検を行う方法(MRI標的[狙撃]生検)が、従来の標準的な経直腸的超音波(TRUS)ガイド下生検よりも有益であることが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのVeeru Kasivisvanathan氏らが行ったPRECISION試験で示された。研究の成果は、NEJMオンライン版2018年3月19日号に掲載された。標準的な10~12コアのTRUSガイド下生検は、高Grade(臨床的に意義のある)前立腺がんを過少に検出し、低Grade(臨床的に意義のない)がんを過剰に検出する可能性が指摘されている。一方、マルチパラメトリックMRIは、結果が陰性の場合は生検を回避するトリアージ検査として用いられ、陽性の場合は前立腺の異常領域を標的に生検が行える。MRI標的生検は標準的生検に比べ、臨床的に意義のあるがんの検出率が同等またはそれ以上とする報告のほか、臨床的に意義のないがんの検出率は低いとの報告がある。
前立腺がん診断におけるMRI標的生検の非劣性を検証
PRECISIONは、前立腺がんが疑われる男性の前立腺がん診断における、MRI標的生検のTRUSガイド下生検に対する非劣性を検証する多施設共同無作為化試験である(英国国立健康研究所[NIHR]などの助成による)。
対象は、前立腺生検を受けたことがなく、PSA上昇または直腸指診の異常所見、あるいはこれら双方により前立腺がんが疑われた男性であった。
被験者は、MRI標的生検または標準的TRUSガイド下生検を受ける群に無作為に割り付けられた。MRI標的生検群は、MRIで前立腺がんが示唆された場合に標的生検を受け、示唆されない場合は生検が提示されなかった。標準的生検群は、10~12コアのTRUSガイド下生検を受けた。
主要アウトカムは、臨床的に意義のあるがんの診断を受けた男性の割合とし、副次アウトカムには、臨床的に意義のないがんの診断を受けた男性の割合などが含まれた。95%信頼区間(CI)の下限値が-5ポイントより大きい場合に非劣性とし、0より大きい場合には優越性ありと判定することとした。
2016年2月~2017年8月の期間に、試験に参加した11ヵ国25施設のうち23施設で500例が登録され、MRI標的生検群に252例、標準的生検群には248例が割り付けられた。
前立腺がん診断のための生検を28%で回避、検出率の優越性を確認
ベースラインの平均年齢は、MRI標的生検群が64.4±7.5歳、標準的生検群は64.5±8.0歳であり、PSA中央値はそれぞれ6.75ng/mL(IQR:5.16~9.35)、6.50ng/mL(5.14~8.65)、前立腺がんの家族歴ありは19%、16%、直腸指診異常所見ありは14%、15%だった。MRI標的生検群のうち71例(28%)で前立腺がんが示唆されず、これらの男性は生検を受けなかった。
臨床的に意義のあるがんの検出率は、MRI標的生検群が38%(95/252例)であったのに対し、標準的生検群は26%(64/248例)であった(補正後群間差:12ポイント、95%CI:4~20、p=0.005)。MRI標的生検群は標準的生検群に対し非劣性であり、95%CIはMRI標的生検群の優越性を示すものであった。
臨床的に意義のないがんの検出率は、MRI標的生検群が9%(23例)であり、標準的生検群の22%(55例)に比べて低かった(補正後群間差:-13ポイント、95%CI:-19~-7、p<0.001)。
最大コア腫瘍長(maximum cancer core length)は、MRI標的生検群が7.8±4.1mm、標準的生検群は6.5±4.5mmであった(補正後群間差:1.0mm、95%CI:0.0~2.1、p=0.053)。また、がんが陽性であったコアの割合は、MRI標的生検群が44%(422/967本)、標準的生検群は18%(515/2,788本)だった。
著者は、「医療経済学的な観点からは、MRI標的生検は臨床的に意義のあるがんを早期に検出し、意義のないがんの検出や生検の反復を抑制することで医療費を削減する可能性があり、また長期的に費用対効果が優れることを示唆する研究もある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)