経膣分娩時にオキシトシンの予防的投与を受けた女性において、トラネキサム酸の併用投与はプラセボ群と比較し、500mL以上の分娩後出血の発生を有意に低下しなかった。フランス・ボルドー大学病院のLoic Sentilhes氏らが、トラネキサム酸の予防的投与追加による分娩後出血の発生率低下を検証した多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「TRAAP試験」の結果を報告した。分娩直後のトラネキサム酸の使用により、分娩後出血に起因する死亡率低下が示唆されているが、トラネキサム酸の予防的投与の有効性を支持するエビデンスは十分ではなかった。NEJM誌2018年8月23日号掲載の報告。
オキシトシン+トラネキサム酸vs.オキシトシン+プラセボ
研究グループは2015年1月~2016年12月の期間に、妊娠35週以上で経腟分娩予定の単胎妊娠女性を、分娩後オキシトシンの予防投与に加え、トラネキサム酸1g(トラネキサム酸群)あるいはプラセボを静脈内投与する群に無作為に割り付けた。
主要評価項目は、分娩後出血とし、目盛付き採集バッグによる測定で500mL以上の出血と定義した。
4,079例が無作為化され、このうち3,891例が経腟分娩であった。
トラネキサム酸追加で、医療者評価の臨床的に重大な分娩後出血発生率は低下
主要評価項目である分娩後出血の発生率は、トラネキサム酸群8.1%(156/1,921例)、プラセボ群9.8%(188/1,918例)で有意な差はなかった(相対リスク:0.83、95%信頼区間[CI]:0.68~1.01、p=0.07)。
トラネキサム酸群ではプラセボ群と比較し、医療提供者評価による臨床的に重大な分娩後出血の発生率は有意に低下し(7.8% vs.10.4%、相対リスク:0.74、95%CI:0.61~0.91、p=0.004、多重比較事後補正後p=0.04)、子宮収縮薬の追加投与も有意に少なかった(7.2% vs.9.7%、相対リスク:0.75、95%CI:0.61~0.92、p=0.006、補正後p=0.04)。他の副次評価項目については、両群間に有意差は確認されなかった。
分娩後3ヵ月間の血栓塞栓性イベントの発現率は、トラネキサム酸群とプラセボ群とで有意差はなかった(それぞれ0.1%および0.2%、相対リスク:0.25、95%CI:0.03~2.24)。
なお、著者は研究の限界として、分娩前のヘモグロビン値測定などは多くが外来で実施されるため、評価時期が標準化されていないこと、重度の分娩後出血に対するトラネキサム酸の有効性や、治療法としてのトラネキサム酸の使用に関しては検出力不足であったことなどを挙げている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)