米国・ワシントン大学のKyle J. Foreman氏らは、195の国・地域における2016~40年の平均余命、全死因死亡、250項目の死因別死亡を予測し、多くの国では死亡率の継続的な低下と平均余命の改善が示されることを明らかにした。一方で、良い/悪いシナリオについて差がみられ、将来の展望は不安定であることも示唆された。著者は、「技術革新の継続と、世界の貧困層の人々に対する開発援助を含む医療費の増加は、すべての人が寿命を全うし健康な生活を送ることができる将来図を描くために不可欠な要素である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2018年10月16日号掲載の報告。
世界疾病負担(GBD)研究2016のデータを用い、新たなモデルで評価
研究グループは、2017~40年の予測を立てるために、GBD(the Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study)2016のデータを用い、250の死因および死因分類を作成した。この予測枠組みは、79の独立した健康要因の変化に基づいている。
3つの構成要素(リスク因子の変化と選択された介入に起因する要素、1人当たり所得・学歴・25歳未満の合計特殊出生率に応じた各死因の基礎となる死亡率、時間との関連が不明の変化に対する自己回帰和分移動平均モデル)から成る死因別死亡のモデルを開発し、さらに、健康に関する良いシナリオと悪いシナリオ(GBDのすべてのリスク因子、1人当たり所得、学歴、選択された介入の範囲、過去の25歳未満の合計特殊出生率に関する年換算変動率の、それぞれ85および15パーセンタイル)を作成した。そしてこれらのモデルを用い、年齢・性別ごとの全死因死亡率、平均余命、および250の死因に関する損失生存年数(YLL)を算出した。
世界の平均余命は2040年で男女とも4.4歳延長するも、シナリオによって差
世界的に、ほとんどの独立した健康要因が2040年までに改善するが、36の健康要因は悪化すると予測された。世界の平均余命は、2040年までに男性で4.4歳(95%UI:2.2~6.4)、女性で4.4歳(2.1~6.4)上昇すると予測されたが、良い/悪いシナリオに基づくと、曲線は、男性で7.8歳(5.9~9.8)上昇から0.4歳(-2.8~2.2)低下まで、女性で7.2歳(5.3~9.1)上昇から変化なし(0.1歳[-2.7~2.5])の範囲にあった。2040年における平均余命は、日本、シンガポール、スペイン、スイスでは男女共に85歳を超え、中国を含む59ヵ国では80歳を超えると予測された。一方、中央アフリカ共和国、レソト、ソマリア、ジンバブエでは65歳未満になると予測され、生存期間の世界格差は継続する可能性がある。
YLL予測値は、人口増加や加齢が部分的に関与するいくつかの非感染性疾患(NCD)による死亡の増加を示唆した。参照シナリオと代替シナリオの差は、HIV/AIDSで最も顕著であり、2016~40年の悪いシナリオにおいて、YLLが120.2%(95%UI:67.2~190.3)増加する可能性がある。2016年と比較すると、2040年までにNCDはすべてのGBDにおいてYLLの大部分(67.3%)を占めるが、依然として多くの低所得国においては感染性・妊産婦・新生児・栄養に関する疾患(CMNN)が2040年のYLLの大部分を占めると予想された(例:サハラ以南のアフリカでYLLの53.5%)。ほとんどの国では、医療の適応となる代謝系リスク(例:高血圧や空腹時血糖高値)と、集団レベルなどで最も目標とされるリスク(例:タバコ、高BMI、微小粒子状物質汚染)に、参照シナリオと良いシナリオとの間の最も大きな差が確認された。ただし、サハラ以南のアフリアは例外で、多くのリスク(例:危険な水と衛生、家庭内空気汚染、小児栄養失調)が貧困と発展レベルの低さに関連していることが示唆された。
(医学ライター 吉尾 幸恵)