ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者の死亡率は、良好な治療を受ける機会に恵まれた先進国では劇的に減少し、現在では非感染者集団の死亡率に近づいている可能性がある。HIVに関するEUの大規模国際共同研究(CASCADE)グループは、HIV抗体陽転後の感染者と非感染者(一般)の死亡率の比較について、多剤併用抗レトロウイルス療法(HAART)導入前後の変化を評価。HAART導入後は5年死亡率が一般死亡率とほぼ変わらないほど改善されていると報告した。JAMA誌2008年7月2日号より。
感染者と非感染者の超過死亡率を比較
試験は、HIV抗体陽転後コホートの死亡率と予測死亡率(非感染者死亡率として想定した一般死亡率を因子補正しはじき出した率)とを比較するようデザインされ行われた。HIV感染者の経年変化が評価できるよう感染期間で補正構成されたPoisson-based modelが用いられている。
データはヨーロッパ各国での1981~2006年のHIV感染者の死亡リスクデータを2007年9月時点で集計したもので、2008年3月に分析された。
主要評価項目は、HIV感染者と非感染者の超過死亡率の比較。
多剤併用抗レトロウイルス療法後は超過死亡が低下
抗体陽転後コホートは、中央値6.3年(範囲:1日~23.8年間)の追跡調査が行われた被験者1万6,534例を含み、うち2,571例が死亡していた。これを予測死亡率推計ではじき出された非感染者死亡235例と比較検討された。
研究グループが注目したのは超過死亡率(1,000人/年につき)の経年変化。
HAART導入前(1996年以前)は40.8(95%信頼区間:38.5~43.0、超過死亡は3万1,302人/年につき1275.9)だったが、2004~2006年には6.1(95%CL:4.8~7.4、1万4,703人/年につき超過死亡89.6)へ低下。
1996年以前と2004~2006年の補正超過ハザード比は0.05(95%信頼区間:0.03~0.09)。
2004~2006年の性感染患者については、HIV抗体陽転から5年間の超過死亡は観察されなかった。ただし、15~24歳の被験者では、抗体陽転後10年間で4.8%であり(95%信頼区間:2.5~8.6%)、より長期間では、累積的な超過死亡の可能性は残っている。
以上から、HIV感染者の死亡率は、HAART導入以来、一般死亡率に非常に近づいたと結論。先進国では、HIV感染後の期間が長くなると超過死亡率が上がるが、性交渉で感染した人は、感染後の5年死亡率は、一般集団と同レベルになっているようだと報告された。
(朝田哲明:医療ライター)