卵の中等度の消費(最大1日1個まで)は、心血管疾患全般のリスクを増加させず、アジア人ではむしろリスクを低下させる可能性があることが、米国・ハーバード公衆衛生大学院のJean-Philippe Drouin-Chartier氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2020年3月4日号に掲載された。卵の消費と心血管疾患リスクの関連は、この10年間、激しい議論を呼ぶ主題となっているが、これまでに得られた知見では結論が出ていないという。
コホート研究とこれを含むアップデートメタ解析
研究グループは、卵の摂取と心血管疾患リスクの関連を評価する目的で前向きコホート研究を行い、この研究結果を含めたアップデートメタ解析を実施した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。
米国の3つのコホート研究(Nurses’ Health Study[NHS、1980~2012年]、NHS II[1991~2013年]、Health Professionals’ Follow-Up Study[HPFS、1986~2012年])のデータが用いられた。ベースライン時に心血管疾患や2型糖尿病、がんに罹患していない集団(NHS[女性]8万3,349例、NHS II[女性]9万214例、HPFS[男性]4万2,055例)が解析に含まれた。
卵摂取の頻度で6つの群(月1個未満、月1~4個未満、週1~3個未満、週3~5個未満、週5~7個未満、1日1個以上)に分けた。卵は、卵黄を含む全卵とし、焼いた製品(例 ケーキ)や液状卵、卵白のみの場合は除外された。
主要アウトカムは、初発の心血管疾患(非致死的心筋梗塞、致死的冠動脈性心疾患、脳卒中)とした。
次いで、今回の研究と既報の前向きコホート研究のアップデートメタ解析が行われた。
卵消費量が相対的に低い点に留意
米国の3つのコホート研究では、最長32年のフォローアップ期間(554万人年以上)に、1万4,806例が初発の心血管疾患を発症した。卵の消費量は、多くの参加者が週に1~5個未満だった。
卵の摂取量が多い参加者ほど、BMIが高く、身体活動が少なく、喫煙者が多かった。また、卵摂取量の多い参加者は、スタチン治療の割合や心筋梗塞の家族歴が少なく、2型糖尿病が多かった。さらに、高い卵摂取量は、高いカロリー摂取量と関連し、未加工の赤身肉、ベーコン、その他の加工肉、精製穀物、ジャガイモ、高脂肪分牛乳、コーヒー、砂糖入り飲料の摂取量が多かった。
多変量統合解析では、卵摂取と関連のある生活様式や食事因子で補正すると、1日1個以上の卵消費は、初発心血管疾患のリスクと関連しなかった(1日1個以上と月1個未満の比較のハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.82~1.05、p=0.16、1日1個増加のHR:0.98、0.92~1.04)。冠動脈性心疾患(p=0.22)および脳卒中(p=0.53)にも有意な関連は認められなかった。
一方、アップデートメタ解析では、この研究を含む28件の前向きコホート研究(日本のNIPPON DATA80、NIPPON DATA90などのデータを含む)が対象となった。
このアップデートメタ解析(リスク指標[risk estimate]33個、参加者172万108例、心血管疾患イベント13万9,195件)では、1日の卵摂取が1個増えても、心血管疾患リスクは増加しなかった(統合相対リスク[RR]:0.98、95%CI:0.93~1.03、I2=62.3%)。同様に、卵摂取量が最も多い集団と少ない集団の間にも、心血管疾患リスクには差がなかった(0.99、0.93~1.06、52.9%)。
冠動脈性心疾患(リスク指標21個、参加者141万1,261例、イベント5万9,713件、統合RR:0.96、95%CI:0.91~1.03、I2=38.2%)および脳卒中(22個、105万9,315例、5万3,617件、0.99、0.91~1.07、71.5%)についても、1日の卵摂取が1個増えた場合のリスクに差はなかった。いずれの疾患も、最高摂取量集団と最低摂取量集団の間にリスクの差はみられなかった。
卵摂取の1日1個増加と心血管疾患リスクの関連に関する地理的な層別解析(相互作用のp=0.07)では、米国(RR:1.01、95%CI:0.96~1.06、I2=30.8%)と欧州(1.05、0.92~1.19、64.7%)のコホートでは関連がなかったのに対し、アジア人のコホート(リスク指標10個、参加者68万5,147例、イベント9万100件、0.92、0.85~0.99、I2=44.8%)では逆相関の関係が認められた。
著者は、「この研究に含まれるコホートの平均的な卵消費量は相対的に低い。週に1~5個未満の参加者が多く、1日1個以上の参加者は相対的に少ないため、結果を解釈する際は、この消費レベルを考慮する必要がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)