有効な治療が行われていれば、異性間性交渉によるHIV感染リスクは低いがまったくないとはいえず、男性の同性間性交渉における感染リスクは曝露を繰り返す間に高くなることが、数学的モデルによる解析で判明した。Swiss Federal Commission for HIV/AIDSのコンセンサスでは、有効な抗レトロウイルス療法によって血漿HIV RNAが検出されなくなった症例(<40コピー/mL)からは性交によるHIV感染はないとされていたが、これを覆す知見が得られたことになる。オーストラリアNew South Wales大学、国立HIV疫学・臨床研究センターのDavid P Wilson氏がLancet誌2008年7月26日号で報告した。
一方がHIV感染例のカップルでパートナーへの長期的な感染リスクを推算
本試験は、Swiss Federal Commission for HIV/AIDSのコンセンサスの一般集団における意義を解析する目的で行われた。
研究グループは、単一の数学的モデルを使用して、有効な治療を受けているHIV感染例(HIV RNA<10コピー/mL)からの長期にわたる累積HIV感染率を推算した。対象は、いずれか一方のみがHIVに感染しているカップル(serodiscordant couple)とし、1回の無防備な性交ごと、および多くの性交の累積におけるHIV感染リスクを調査した。
有効な治療を受けていても、感染率はコンドーム使用時の4倍に
個々のカップルが年に100回の性交渉をもつと仮定すると、HIV非感染のパートナーへの年間累積感染率は、女性から男性への感染の場合は0.0022(uncertainty bounds:0.0008~0.0058)、男性から女性の場合は0.0043(0.0016~0.0115)であった。
1万のserodiscordant coupleの集団において、10年間に非感染パートナーがHIV抗体陽性化(seroconversion)する予測数は、女性から男性への感染の場合は215(80~564)、男性から女性の場合は425(159~1,096)であり、男性から男性では3,524(1,477~6,871)であった。これは、コンドームを使用した場合の感染率の4倍に相当する。
Wilson氏は、「有効な治療が行われていれば、異性間性交渉によるHIV感染リスクは低いがまったくないとはいえず、男性の同性間性交渉における感染リスクは曝露を繰り返す間に高くなる」と結論し、「有効な治療によってHIV RNAが検出限界を下回る非感染状態にあることが広く受け入れられる場合でも、そのためにコンドームの使用が減少すれば、HIV感染は実質的に増加する可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
(菅野守:医学ライター)