インフルエンザ流行時期の高齢者肺炎に対するインフルエンザワクチンの効果は予想よりも低い可能性があることが、地域住民をベースとした調査で明らかとなった。肺炎は高齢者のインフルエンザ感染における最も頻度の高い合併症であり、それゆえインフルエンザワクチンは肺炎の予防に有効な可能性がある。しかし、これまでに報告されたワクチンの有効性を示唆する検討には根本的なバイアスが含まれるため信頼性は高くないという。米国シアトル市のGroup Health Center for Health StudiesのMichael L Jackson氏が、Lancet誌2008年8月2日号で報告した。
ワシントン州西部の地域住民をベースとしたnested case-control study
本研究は、2000年、2001年、2002年のインフルエンザ流行前および流行時期に、ワシントン州西部の健康維持組織である“Group Health”に登録された65~94歳の免疫応答が正常な高齢者を対象に実施された地域住民ベースのnested case-control studyである。
症例は市中肺炎で外来通院中あるいは入院中の患者(診療記録あるいは胸部X線所見で確定)とし、それぞれの症例群に対し年齢および性別をマッチさせた2つの対照群を無作為に選択した。診療記録を評価して、交絡因子として喫煙歴、肺疾患および心疾患への罹患とその重症度などを規定した。
ワクチンは高齢者の市中肺炎のリスクを低減させない
1,173例の市中肺炎症例および2,346人の対照が登録された。診療記録審査に基づいて規定された併存疾患の存在および重症度で補正したところ、インフルエンザ流行期間中にインフルエンザワクチンを接種しても、高齢者の市中肺炎のリスクは低減しないことが示された(オッズ比:0.92、95%信頼区間:0.77~1.10)。
著者は、「インフルエンザ流行時期の高齢者肺炎に対するインフルエンザワクチンの効果は予想よりも低い可能性がある」と結論したうえで、1)インフルエンザ感染を原因とする高齢者の肺炎はわずかであり、そのため感染リスクを低減しても肺炎は減少しない、あるいは2)ワクチンは、肺炎のリスクを有する高齢者におけるインフルエンザ感染リスクの低減にはそれほど有効ではないという2つの可能性を示唆し、「これらの可能性はワクチン開発およびその接種勧告においてまったく異なる意義を持つことから、基礎研究で確定されたエンドポイントを用いた臨床試験を行う必要がある」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)