米国疾病管理予防センター(CDC)は、米国内のヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染状況が予想をはるかに上回り、2006年には5万6,300人が新規に感染したうえ、HIV陽性者は累計123万人に達していると公表した。CDCのH. Irene Hall氏らがまとめた新たな手法による推計報告が、JAMA誌2008年8月6日号に掲載された。
22州の患者から血清を採取し感染の新旧確認
米国におけるHIV発生状況はこれまで、直接的な方法では測定されなかったが、CDCは、新規感染と長期感染を区別する最新の分析法を導入し、HIV発生の推計を改善した。
まず22州で、2006年に新たにHIVと診断された13歳以上の患者から、残遺物診断用血清標本(Remnant diagnostic serum specimens)を採取して、BED法(BED HIV-1 capture enzyme immunoassay)で感染の新旧を検査。同年における22州の発生率をテスト頻度で補正した統計的手法で、全米のHIV発生状態を推定した。
さらに、1977~2006年の間に40州で診断されたHIV発生状況と、50州およびワシントンD.C.のAIDS発生率から逆算して、その結果を補強した。
依然として新規感染者は黒人と男性同性愛者に集中
2006年にHIVと診断されたのは22州で約3万9,400例。そのうち6,864例をBED法で検査した結果、2,133例(31%)は最近の感染と分類された。これらのデータに基づき、同年の全米の推定新規感染者数は5万6,300例(95%信頼区間:4万8200~6万4500)に達し、推定罹患率は人口10万当たり22.8(95%信頼区間:19.5~26.1)と推計されている。人種・民族別感染者数では45%が黒人で、全体の53%は男性同性愛者だった。
2003~2006年の年間新規感染者の推計5万5,400例(95%信頼区間:5万~6万800)から逆算した2006年末のHIV/AIDS患者は123万例だった。HIV発生率は1990年代半ば以降増加を続け、1999年以後はわずかに低下したが、その後は横ばいであることもわかった。
CDCは、米国のHIV発生状況に関して、以前は臨床ベースの設定に頼る実験室的手法しかなかったが、新たな手法によって初めて直接的な推定が可能になったとし、その結果を踏まえ「米国の新規HIV感染は、依然として男性同性愛者と黒人に集中している」と警告している。
(朝田哲明:医療ライター)