実際の認知症の有病率はもっと高い?

提供元:ケアネット

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公開日:2008/08/21

 

DSM-IVの認知症判定規準は実際の有病率を過小評価する可能性があり、特にこの緊急の公衆衛生学的問題に対する認識が低い地域でその傾向が強いことが、低~中所得国で実施された横断的研究で明らかとなった。認知症有病率は開発途上地域のほうが先進地域よりも低いとされてきたが、世界的な高齢化が急速に進むなか、65歳以上の高齢者の2/3が暮らす低~中所得国では認知症の急増が懸念されている。キューバHavana医科大学のJuan J Llibre Rodriguez氏が、Lancet誌2008年8月9日号(オンライン版2008年7月25日号)で報告した。

7ヵ国11地域の65歳以上の住民を対象とした横断的研究




研究グループは、7つの低~中所得国(中国、インド、キューバ、ドミニカ、ベネズエラ、メキシコ、ペルー)の11地域で65歳以上の住民(1万4,960人)を対象に認知症の有病率および重症度について横断的な調査を実施した。

認知症の診断は、文化的および教育的な感度の高い10/66認知症診断アルゴリズムに従って行った。このアルゴリズムは、南米、アジア、アフリカの25の医療施設において、DSM-IVの認知症判定規準をコンピュータを用いて適用することで事前に妥当性が確認されていた。個々の試験地域のDSM-IV規準による認知症有病率とヨーロッパの試験で得られた推算値を比較した。

先進国と開発途上国の有病率の差は思ったほど大きくない可能性が




DSM-IV規準に基づく認知症の有病率は、インド農村部の0.3%(95%信頼区間:0.1~0.5%)からキューバの6.3%(5.0~7.7)にまで広範にわたり、地域差が大きかった。年齢および性別で標準化したところ、南米都市部のDSM-IV規準による認知症有病率はヨーロッパの4/5であったが(標準化罹患率比:80、95%信頼区間:70~91)、中国の有病率は1/2にすぎず(中国農村部で56、32~91)、インドおよび南米農村部ではヨーロッパの1/4以下であった(インド農村部で18、5~34)。

10/66認知症規準に基づく有病率はDSM-IV認知症規準よりも高く、地域間の差も中国農村部の5.6%(95%信頼区間:4.2~7.0)からドミニカの11.7%(10.3~13.1)までと一致率が高かった。10/66認知症規準で認知症とされたもののDSM-IV認知症規準では確定されなかった1,345例のうち847例は、高度な認知症関連の身体機能障害の発現[WHO機能障害評価スケジュールIIスコアの平均値33.7(SD 28.6)]によってその妥当性が確認された。

著者は、「10/66認知症診断アルゴリズムとの比較において、DSM-IV認知症判定規準は実際の有病率を過小評価している可能性があり、特にこの緊急の公衆衛生学的問題に対する認識が低い地域でその傾向が強かった」と結論し、「今回の調査結果が、見過ごされがちな認知症の実際の有病率に皆の目を向けさせるきっかけとなることを期待したい。先進国と開発途上国の有病率の差は思ったほど大きくないのかもしれない」と考察している。

(菅野守:医学ライター)