費用対効果分析(CEA)におけるスポンサーバイアスの影響力は大きく、隅々にまで及んで、さまざまな疾患や試験デザインにわたって存在することを、カナダ・マックマスター大学のFeng Xie氏らが、企業スポンサー(医薬品、医療機器、バイオテクノロジー企業)と費用対効果との関連性を検証したレジストリベースの解析結果を報告した。多くの国で、製薬企業は新薬の保険適用申請の際にCEAの提出を求められているため、過去数十年で経済性評価に関する研究が急速に拡大したが、先行研究においてCEAの約20%が製薬企業の資金提供を受けていることが示されている。また、業界の資金提供による経済評価は、スポンサーに有利な費用対効果の結果を報告する傾向にあることが、これまで一貫して示されてきた。ただし、それら研究のほとんどが、特定の疾患や治療に限定されたもので、システマティックレビューに基づく最新の分析は15年以上前に発表されたものであった。著者は今回の結果を踏まえて、「独立機関が実施するCEAを用いることで、支払者はより低価格で交渉することができる可能性がある。そのような公平性を用いることは、独自の経済分析能力が限定的で、保険適用に関する政策決定の情報を、公表されたCEAに依存する国にとって、とくに重要である」とまとめている。BMJ誌2022年6月22日号掲載の報告。
1976~2021年に公表されたすべての費用対効果分析を調査・解析
研究グループは、Tufts CEA Registryを利用し1976~2021年の期間にMedlineで公表されたすべてのCEAを特定し、その中から、質調整生存年を用いた増分費用効果比(incremental cost effectiveness ratio:ICER)が報告されており、ICERの程度や位置付けについて十分な情報が提供されていた8,192件を適格とした。
記述的分析を用いて企業スポンサー有無別のCEAの特徴を描出して比較するとともに、ロジスティック回帰分析により企業スポンサーと費用対効果の関連性を、選択閾値(5万ドル、10万ドル、15万ドル)を用いて確認した。また、企業スポンサーとICERの大きさとの関連をロバスト線形回帰にて分析した。すべての回帰分析は、疾患および試験デザインの特性について調整を行った。
プラスの増分費用と質調整生存年を報告したCEAでは、企業スポンサーのICERが33%低い
解析に組み込まれた8,192件のCEAのうち、2,437件(29.7%)が企業から出資を受けていた。企業がスポンサーのCEAは非企業がスポンサーのCEAと比較して、選択閾値が5万ドル未満(補正後オッズ比[aOR]:2.06、95%信頼区間[CI]:1.82~2.33)、10万ドル未満(2.95、2.52~3.44)および15万ドル未満(3.34、2.80~3.99)と、いずれにおいても、介入が比較対象よりも費用対効果が高いと結論づける傾向が認められた。
プラスの増分費用と質調整生存年を報告したCEA 5,877件において、企業がスポンサーの研究のICERは、非企業がスポンサーの研究のICERと比較して33%低かった(95%CI:-40~-26)。
(医学ライター 吉尾 幸恵)