現行の肝臓移植ガイドラインでは、移植用臓器は死亡リスクが最も高い患者に提供されることになっている。米国では肝移植のための移植片は医学的な緊急性に基づいて配分されるが、その緊急性は2002年からModel for End-Stage Liver Disease(MELD)スコアを基に判定されている。MELDスコアは短期間の予後予測に使われるもので、血清ビリルビン濃度、プロトロンビン時間、血清クレアチニン濃度の3つを指標とし、スコア40以上で3ヵ月後の死亡率80%以上と判定するが、さらに最近、肝硬変患者にとって血清ナトリウム濃度が重要な予後因子であることが認められつつあり、MELDスコアとの関係が議論されている。本論は、メイヨー・クリニック医科大学のW. Ray Kim氏らの研究グループによる、血清ナトリウム濃度の指標としての有用性についての報告。NEJM誌2008年9月4日号より。
MELDスコアに血清ナトリウム濃度を死亡予測変数に追加
Kim氏らの研究グループは、2005年と2006年に米国のOPTN(the Organ Procurement and Transplantation Network:臓器提供ネットワーク)に登録され、初めて肝臓移植を受けた全成人のデータを用いて、登録後90日の死亡率を予測する多変量生存者モデルを開発・検証した。予測因子変数は、MELDスコアに対する血清ナトリウム濃度の追加の有無。MELDスコア(6~40のスケールで、値が高いほど重篤)は血清ビリルビン濃度、クレアチニン濃度、それと国際標準比に基づくプロトロンビン時間で算出した。
2005年、OPTNのウェイティングリスト登録者は6,769人だった(肝移植を受けた1,781人と、登録後90日以内に死亡した422人を含む)。
MELDNaスコアはMELDスコア単独より高率で死亡を予測
解析結果から、MELDスコアと血清ナトリウム濃度はいずれも死亡率と有意に関連していることが明らかになった(死亡危険率はMELDポイントにつき1.21、血清ナトリウム濃度125~140mmol/Lの範囲内で1単位減少につき1.05、いずれの変数もP<0.001)。さらに、MELDスコアと血清ナトリウム濃度の間には、MELDスコアが低い患者ほど血清ナトリウム濃度の影響が大きいことを示す有意な相関が見つかった。
これを2006年のデータに当てはめてみると、ウェイティングリスト登録後3ヵ月以内に死亡した患者は477例となり、MELDスコア単独で割り出した32例(7%)においては、MELDスコアと血清ナトリウム濃度の組み合わせ(MELDNa)から割り出したスコアのほうが、MELDスコア単独のスコアよりかなり高かった。このように、MELDNaスコアに従って危険率を判定していれば移植の優先順位が移り、少なくとも32例の死は防げた可能性が示唆された。研究グループは、今回の大規模研究によって、MELDNaスコアが肝移植待機者の生存にとって重要な予測因子であることが示されたと結論している。
(武藤まき:医療ライター)