早期発症の重症胎児・新生児溶血性疾患(HDFN)では、母体の抗赤血球IgG同種抗体が経胎盤的に胎児に移行することで胎児貧血が引き起こされ、これによる胎児水腫や胎児死亡を回避するために高リスクの子宮内胎児輸血が行われている。米国・テキサス大学オースティン校のKenneth J. Moise氏らは「UNITY試験」において、重症HDFNのリスクが高い妊娠では、胎児性Fc受容体(FcRn)阻害薬nipocalimabが、過去の基準値(historical benchmark)と比較して胎児貧血とこれに対する胎児輸血を遅延または予防することを示した。研究の成果は、NEJM誌2024年8月8日号に掲載された。
国際的な単群第II相試験
UNITY試験は、重症HDFNのリスクが高い妊婦の胎児輸血回避におけるnipocalimabの安全性と有効性の評価を目的とする国際的な非盲検単群第II相試験であり、2019年4月~2022年11月に参加者を登録した(Janssen Research and Developmentの助成を受けた)。
年齢18歳以上、早期発症の重症HDFNのリスクが高い単胎妊娠の妊婦に対し、妊娠14~35週にnipocalimab(30~45mg/kg体重)を週1回、静脈内投与した。7ヵ国8施設で13例(平均年齢35.8±4.8歳、白人12例[92%])の妊婦(14件の妊娠)を登録し、生児出生12例を解析に含めた。
主要エンドポイントは、胎児輸血なしでの妊娠32週以降の生児出生とし、過去の基準値(0%)と比較した(臨床的に意義のある差は10%)。
54%で主要エンドポイント達成
胎児輸血なしでの妊娠32週以降の生児出生は、13件の妊娠中7件(54%、95%信頼区間[CI]:25~81)で認め、これは過去の基準値との臨床的に意義のある差(10%)を有意に上回った(p<0.001)。
胎児水腫の発症はなく、6例(46%)は出生前輸血も新生児輸血も受けなかった。胎児輸血を受けたのは6例(46%)で、このうち5例は妊娠24週以降であり、1例は妊娠22週5日に受けた後に死亡した。
生児出生12例の分娩時の妊娠期間中央値は36週4日だった。このうち1例が1回の交換輸血と1回の単純輸血を受け、5例が単純輸血のみを受けた。
さらなる評価を進めることを支持する結果
母体の検体と臍帯血に、同種抗体力価とIgG値の治療関連の低下を認めた。母親と生児に、まれな感染症はみられなかった。
重篤な有害事象は、母親13例中5例(38%)、生児12例中5例(42%)にみられ、重度有害事象はそれぞれ6例(46%)および4例(33%)で発現し、HDFN(黄疸、高ビリルビン血症、貧血)、未熟性(呼吸困難)、妊娠に関連したものであった。とくに注目すべき有害事象は、母親5例(38%)および生児4例(33%)で発現した。
著者は、「これらの予備的な有効性の結果は、予備的な安全性のデータや予想される薬効機序のエビデンスと共に、重症HDFNにおけるnipocalimabのさらなる評価を進めることを支持するものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)