ACSのPCI後、短期DAPT後チカグレロルvs.12ヵ月DAPT~メタ解析/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2024/09/13

 

 急性冠症候群(ACS)患者の冠動脈ステント留置後の標準治療は、12ヵ月間の抗血小板2剤併用療法(DAPT)となっている。この標準治療とDAPTからチカグレロルへと段階的減薬(de-escalation)を行う治療を比較したエビデンスの要約を目的に、スイス・Universita della Svizzera ItalianaのMarco Valgimigli氏らSingle Versus Dual Antiplatelet Therapy(Sidney-4)collaborator groupは、無作為化試験のシステマティックレビューおよび個々の患者データ(IPD)レベルのメタ解析を行った。とくにACS患者では、12ヵ月間のDAPT単独療法と比較して、DAPTからチカグレロルへの段階的減薬は、虚血のリスクを増大することなく大出血リスクを軽減することが示された。Lancet誌2024年9月7日号掲載の報告。

チカグレロル単独療法の有効性と安全性をIPDレベルメタ解析で評価

 研究グループは、冠動脈薬剤溶出ステントを用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた患者における短期DAPT(2週~3ヵ月)後チカグレロル単独療法(90mgを1日2回)について、12ヵ月DAPTと比較した有効性と安全性を評価するため、システマティックレビューおよびIPDレベルのメタ解析を行った。

 対象試験は、冠動脈血行再建術後のP2Y12阻害薬単独療法とDAPTを比較した中央判定エンドポイントを有する無作為化試験とし、Ovid MEDLINE、Embaseおよび2つのウェブサイト(www.tctmd.comおよびwww.escardio.org)を各データベースの開始から2024年5月20日まで検索した。長期の経口抗凝固薬適応患者を含む試験は除外した。

 Cochrane risk-of-biasツールを用いてバイアスリスクを評価。適格試験の主任研究者から匿名化された電子データセットでIPDの提供を受けた。

 主要エンドポイントは、主要有害心血管または脳血管イベント(MACCE[全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合]、per-protocol集団で非劣性を検証)、Bleeding Academic Research Consortium(BARC)出血基準タイプ3または5の出血(ITT集団で優越性を検証)、および全死因死亡(ITT集団で優越性を検証)の3つとし、階層的に解析した。すべてのアウトカムは、Kaplan-Meier推定値で報告された。非劣性の検証は片側α値0.025を用い、事前規定の非劣性マージンは1.15(ハザード比[HR]スケール)であった。その後に順位付け優越性の検証を両側α値0.05を用いて行った。

とくに女性で、チカグレロル単独療法にベネフィットありの可能性

 合計8,361件の文献がスクリーニングされ、うち610件がタイトルおよび要約のスクリーニング中に適格の可能性があるとみなされた。その中で患者をチカグレロル単独療法またはDAPTに無作為化した6試験が特定された。

 段階的減薬は介入後中央値78日(四分位範囲[IQR]:31~92)で行われ、治療期間の中央値は334日(329~365)であった。

 per-protocol集団(2万3,256例)において、MACCE発生は、チカグレロル単独療法群297件(Kaplan-Meier推定値2.8%)、DAPT群は332件(3.2%)であった(HR:0.91[95%信頼区間[CI]:0.78~1.07]、非劣性のp=0.0039、τ2<0.0001)。

 ITT集団(2万4,407例)において、BARC出血基準タイプ3または5の出血(Kaplan-Meier推定値0.9% vs.2.1%、HR:0.43[95%CI:0.34~0.54]、優越性のp<0.0001、τ2=0.079)および全死因死亡(0.9% vs.1.2%、0.76[0.59~0.98]、p=0.034、τ2<0.0001)は、いずれもチカグレロル単独療法群で低減した。

 試験の逐次解析で、被験者全体およびACS集団におけるMACCEの非劣性および出血の優越性の強固なエビデンスが示された(z曲線は無益性の境界を越えたりnull値に近づいたりすることなく、モニタリング境界を越えるか必要な情報サイズを満たした)。

 治療効果は、MACCE(相互作用のp=0.041)、全死因死亡(0.050)については性別による不均一性がみられ、女性ではチカグレロル単独療法のベネフィットがある可能性が示唆された。また、出血は臨床症状による不均一性がみられ(相互作用のp=0.022)、ACS患者ではチカグレロル単独療法にベネフィットがあることが示唆された。

 これらの結果を踏まえて著者は、「チカグレロル単独療法は、とくに女性において生存ベネフィットとも関連する可能性があり、さらなる検討が必要である」と述べている。

(ケアネット)

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コメンテーター : 後藤 信哉( ごとう しんや ) 氏

東海大学医学部内科学系循環器内科学 教授

J-CLEAR理事