患者安全は国際的な問題だが、その指標づくりは容易ではない。アメリカには、医療研究品質機構(AHRQ:Agency for Healthcare Research and Quality:http://www.ahrq.gov/)が病院診療データを基に開発した患者安全の指標があり、数ヵ国がその指標を自国の患者安全指標づくりに活用しているがイギリスでも活用できないか。Healthcare Commission(ロンドン)のVeena S Raleigh氏らが、29あるAHRQの指標のうち9つについて症例対照試験を行い有用性を検証した。BMJ誌2008年11月22日号(オンライン版2008年10月17日号)掲載より。
「病院エピソード統計」から症例群、対照群を引き出し入院期間、死亡率を比較
試験はAHRQの9つの指標で、イギリスの全NHS(国民医療保健サービス)トラストを対象とする「病院エピソード統計」(2003-2004、2004-2005、2005-2006)から患者安全の指標、有害転帰の指標を引き出せるか検証された。9つの指針は、「死亡率が低い疾患医療での死亡数」「医原性気胸」「褥瘡」「医療処置が必要となった待機感染症」「術後股関節骨折」「術後敗血症」、および産科的外傷についての3指針(後産期分娩時器具あり・なし、帝王切開時)。
指標を経験していると判定された患者症例群と、対照照合症例群(2005-2006データから、年齢、性、同一医療サービス受療群、主要専門科目、NHSトラストで照合)との入院期間、死亡率を比較し、アメリカのデータ(2000年版)との比較も行われた。
コーディング、制度、サービス供給パターンの違いはなお考慮すべき
入院期間は、1指標(帝王切開時の外傷)を除き、対照群よりも症例群のほうが長かった(各指標値:0.2~17.1日、P<0.001)。死亡率も産科外傷(帝王切開時1例、その他2指標は0)以外で、症例群のほうが高かった(5.7~27.1%、P<0.001)。
超過入院期間、超過死亡率ともに最も高位だったのは、「術後股関節骨折」(17.1日、18.2%)および「術後敗血症」(15.9日、27.1%)。
事象発症率(対1,000イベント)は、米国よりもイギリスのほうが低かったが、超過入院期間の増大幅は概してイギリスのほうが大きかった。超過死亡率も産科外傷指標を除き(両国とも件数がわずか)、同様の傾向だった。超過入院期間、超過死亡率の両国間の違いは、「術後股関節骨折」で最も大きかった(アメリカ:5.2日、4.5%)。
Raleigh氏は、「病院診療データは、患者安全イベントを低負荷、低コストで引き出せる有用な情報源で、安全イベントをモニターできる指標の作成、有害転帰の指標に有用だ」と述べる一方、「個々の症例のさらなる検証、および登録についての改善は必要である。今回の検証でイギリスと米国の結果の違いに見られた違いは、イベントのコーディングの深度、医療制度、サービス供給のパターンの違いが反映したものと思われる」とまとめている。