都市伝説を検証する:ウェールズが全勝優勝するとローマ教皇が昇天?

提供元:ケアネット

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公開日:2009/01/16

 



ラグビーは長年にわたりウェールズ地方の人びとの熱烈な崇拝の的であり、「ウェールズ人の宗教」といわれるほど。イギリスでは近年、英国放送協会(BBC)の報道に端を発して、「ラグビーのウェールズチームがグランドスラム(全勝優勝)を果たした年はローマ教皇が亡くなる。特に好調だった1978年には2人の教皇が死亡している」との都市伝説がまことしやかに流布している。2008年、ウェールズは、ヨハネ・パウロ2世が死亡した2005年以来のグランドスラムを達成したため、現教皇ベネディクト16世の身を案じる声が上がっているという。University Hospital Wales(カーディフ市)のGareth C Payne氏らはこの説を検証し、BMJ誌2008年12月20日号(クリスマス特集号)掲載(オンライン版2008年12月17日号)で報告した。

8人のうち3人がウェールズのグランドスラム達成年に死亡




研究グループは、1883年から現在までのバチカンおよびスポーツに関する歴史データを用いて、ウェールズチームのグランドスラム達成とローマ教皇の死亡の関係、およびチームの調子の良さと教皇の死亡人数の関係についてレトロスペクティブな観察研究を行った。

ラグビーユニオンは、1823年にイングランド、アイルランド、スコットランド、ウェールズの参加のもとに設立された。1910年にフランスが、2000年にイタリアが参戦し、いわゆるシックスユニオンとして知られるようになった。グランドスラムは、1883年にイングランドが初めて達成し、2008年のウェールズまで合計53回を数える。

1883年以降に死亡した8人のローマ教皇のうち5人がグランドスラム達成の年に亡くなっており、そのうちウェールズの達成年の死亡は3人である(1978年2人、2005年1人)。残り3人のうちの2人も、グランドスラムではないがウェールズが優勝した年に亡くなっている。また、8人のローマ教皇の死亡年にグランドスラムを達成したのは、いずれもローマカソリックではなくプロテスタントが優勢な国(イングランド、スコットランド、ウェールズ)であった。

偶然の一致にすぎないが、ベネディクト16世の健康状態に注意すべき




ロジスティック回帰分析の結果、ウェールズを含むすべての国のグランドスラムの達成とローマ教皇の死亡年には有意な関連は認めなかった(p>0.1)。

各試合の得点差の平均値をそのシーズンのチームの調子の指標とし、ポアソン回帰分析を行ったところ、ウェールズが好調な年はローマ教皇の死亡数が、境界域とはいえ有意に増大したが(p=0.047)、他の国のチームには有意な差は見られなかった。

著者は、「ウェールズチームのグランドスラムとローマ教皇の死は偶然の一致であり、これらの関連性を示唆する説は最近2回のグランドスラムの記憶に基づく都市神話にすぎない」と結論しながらも、「2008年のウェールズチームの好調さを考慮すると、バチカンの医療チームは年が明けるまでベネディクト16世の健康状態に特別な注意を払うべき」としている。

(菅野守:医学ライター)