世界で最も人気があるスポーツ、サッカーは、女性プレーヤーが急増している。それに伴い、プレーヤーの外傷リスクが男女を問わず同等であることや、さらに重傷リスクについては女性のほうが高い(例:前十字靭帯外傷は女性のほうが3~5倍リスクが高い)といった報告が寄せられるようになり、男女を問わずプレーヤーの膝、足首損傷の予防プログラム開発が急務の課題となっている。これまで女性に関する外傷研究報告はわずかでプログラム開発も遅れていたが、オスロ・スポーツ外傷調査センター(ノルウェースポーツ科学校)のTorbjorn Soligard氏ら研究チームが、10代女子プレーヤーの外傷予防に有効とするウォームアップ・プログラム「The 11+」を開発したと、BMJ誌2008年1月10日号(オンライン版2008年12月9日号)で発表した。
ノルウェー発の総合的なウォームアップ・プログラム
「The 11+」は、先に開発した「The 11」をバージョンアップさせたもの。「The 11」は重心や体バランス、膝屈曲筋強化などのエクササイズに重点を置いたものだったが、プレーヤー、コーチのコンプライアンスが低く、無作為化試験(13~17歳女子2,000人)で対照群との外傷リスクの違いが現れなかった。そこで「The 11+」は、普段の練習でも試合前にも使える3段階の総合的なウォームアップ・プログラムとした。まずはチームメートとともにストレッチや軽いランニングで体をならすことから始め、最後にはトップスピードで走りながらターンをするサッカー実戦での動きなどが取り入れられたメニューで構成。この新たな「The 11+」の効果を、ノルウェー国内の125のフットボールクラブを対象に集団無作為化試験(介入群65クラブ、対照群60クラブ)を行い検証した。
下肢外傷予防にはいま一歩だが、トータルでは外傷に有効
プログラム介入期間は1シーズン(8ヵ月)。参加者は13~17歳の女子プレーヤー1,892人(介入群1,055人、対照群837人)。
シーズン中に、主要評価項目とした下肢外傷(足、足首関節、すね、膝、大腿、鼠径部、臀部)を呈したのは264人。そのうち121人が介入群、143人が対照群で、率比率は0.71(95%信頼区間:0.49~1.03)だった。
しかし介入群のほうが全体的に見て、外傷リスク(0.68、0.48~0.98)、オーバーユース外傷リスク(0.47、0.26~0.85)、重傷リスク(0.55、0.36~0.83)が有意に低いことが確認された。