心筋梗塞発症後にクロピドグレル(商品名:プラビックス)治療を受けている壮年患者のうち、CYP2C19*2遺伝子に変異が見られる場合は予後不良であることが、フランス・パリ第6大学Pitie-Salpetriere病院のJean-Philippe Collet氏らの検討で明らかとなった。クロピドグレルと低用量アスピリンの併用は、急性冠症候群(ACS)やステント留置術後の虚血性イベントの再発予防において、経口抗血小板療法の中心となっている。しかし、クロピドグレルが無効な症例も多く、その原因の究明が進められている。Lancet誌2009年1月24日号(オンライン版2008年12月23日号)掲載の報告。
個人差の原因遺伝子に着目
クロピドグレルの抗血小板作用には大きな個人差があるが、その重要な寄与因子としてチトクロームP450 2C19(CYP2C19)に高頻度に見られる機能的な遺伝的変異である681 G>A(*2)が注目されている。研究グループは、
CYP2C19*2遺伝子多型がクロピドグレルの長期投与を受けている患者の予後に及ぼす影響について検討した。
1996年4月1日~2008年4月1日までに、心筋梗塞の初回発症後に少なくとも1ヵ月のクロピドグレル治療を受けた45歳未満の患者259例が多施設レジストリーに登録され、
CYP2C19*2遺伝子検査を受けた。
1次評価項目は、クロピドグレル投与中の死亡、心筋梗塞、緊急冠動脈血行再建術の複合エンドポイントとした。フォローアップは6ヵ月ごとに実施した。血管造影画像上で確認されたステント血栓を主要な2次評価項目とした。
複合エンドポイント、ステント血栓とも、変異陽性例で有意に多い
クロピドグレル治療の期間(中央値)は1.07年であった。
CYP2C19*2遺伝子変異が陽性の例(ヘテロ接合体*1/*2:64例、ホモ接合体*2/*2:9例)と陰性例(186例)でベースライン時の患者背景に差は見られなかった。
1次評価項目の発現は、
CYP2C19*2遺伝子変異陰性例の11イベントに対し、陽性例は15イベントと有意に多かった[ハザード比:3.69(95%信頼区間:1.69~8.05)、p=0.0005]。ステント血栓も、陰性例の4イベントに対し陽性例は8イベントと有意に多く発現した[ハザード比:6.02(95%信頼区間:1.81~20.04)、p=0.0009]。
CYP2C19*2遺伝子の変異による有害な作用は、クロピドグレル治療開始後6ヵ月からフォローアップ終了時まで持続した[ハザード比:3.00(95%信頼区間:1.27~7.10)、p=0.009]。多変量解析では、
CYP2C19*2遺伝子変異は唯一の心血管イベントの独立予測因子であった[ハザード比:4.04(95%信頼区間:1.81~9.02)、p=0.0006]。
著者は、「
CYP2C19*2遺伝子変異は、心筋梗塞後にクロピドグレル治療を受けている壮年期の患者における主要な予後決定因子であり、陽性例の予後は不良である」と結論し、「
CYP2C19*2遺伝子型に関する予後情報が患者管理にも使用可能かという問題についてはさらなる検討を要する。これらの知見は、高齢者やヨーロッパ人以外の患者に外挿する前に、その再現性を確認すべきである」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)