メキシコで貧困層を対象に進められている国民皆保険制度「Seguro Popular」の初期評価において、本プログラムは開始当初は成功したとみなし得ることがわかった。医療システムを再編しても、貧困層には質の高い医療を提供できないことが多いという。メキシコでは、この欠点を回避すべく、巨額な医療費の低減を主目的とする再編計画として、2003年にSeguro Popularが導入された。アメリカHarvard 大学定量的社会科学研究所(IQSS)のGary King氏が、Lancet誌2009年4月25日号(オンライン版2009年4月8日号)で報告した。
100クラスターを対象としたmatched-pair法による無作為化試験
Seguro Popularは未加入者5,000万人に健康保険を提供し、定期的な予防医療や投薬などが受けられるようにすることを目的としている。研究グループは、その初期的な有効性について評価するために、matched-pair法によるクラスター無作為化試験を実施した。
メキシコの7州に居住する11万8,569世帯から成る148のクラスター(医療施設の担当地区など)から100クラスター(3万2,515世帯)を選択し、50クラスターずつのペアを無作為に対照群あるいは介入群に割り付けた。2005年8~9月にベースライン調査を行い、10ヵ月後(2006年7~8月)にフォローアップ調査を実施した。
介入群のクラスターでは、Seguro Popularへの加入を奨励するキャンペーンを実施し、プログラムが効果的に実行されるよう医療施設の改善や医療従事者、薬剤供給の拡充を図った。intention-to-treat(ITT)解析および介入による平均因果効果(CACE)の解析を行った。
より長期のフォローアップ試験が必要
ITT解析では、破局的出費(健康関連の支出が、最低限の食費を差し引いた支払い能力を30%以上超過した場合)が10ヵ月後にはベースラインに比べ23%低減し、より貧困な世帯では30%の低減効果が得られた。
自己負担費用については、ITT解析およびCACEとも、より貧困な世帯で効果が高かった。しかし、以前の観察研究や当初の予想に反して、薬剤費、転帰、利用状況の改善効果は認められなかった。
著者は、「プログラムのリソースは貧困層の元に届いていた。しかし、おそらく10ヵ月という短い介入期間ゆえに、プログラムのそれ以外の効果は示せなかった」と結論し、「Seguro Popularは開始当初は成功したとみなし得るが、プログラムの長期的効果を確定するには、より長期にわたる評価期間を設けたフォローアップ研究を行う必要がある」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)