薬剤溶出ステント(DES)の有効性については、前向き無作為化試験とメタ解析の結果、標的病変部血行再建術(TLR)の施行率はベアメタルステント(BMS)と比べて有意に低いものの、死亡率と心筋梗塞の率は同程度とされている。一方、術後長期におよぶ患者の死亡率はDESが高いなど、長期にわたる安全性と有効性は疑問視されてきた。その点に関するスウェーデンで行われたSCAAR試験の報告が、NEJM誌2009年5月7日号にて発表されている。
主要エンドポイントで有意差は認められず
2003年から2006年にかけて冠動脈ステント留置術を受けSCAARに登録され、かつ1~5年間(平均2.7年)の完全な追跡調査データが利用できた患者4万7,967例について評価が行われた。
主要解析において、DESを1個留置した患者1万294例と、BMSを1個留置した患者1万8,659例について、患者の臨床特性と血管および病変特性の差を調整した後、両者を比較。アウトカム解析は2,380例の死亡と3,198例の心筋梗塞を基に行われた。
結果、全体として、DES群とBMS群との差は、死亡または心筋梗塞の複合エンドポイント(薬剤溶出ステントの相対リスク:0.96、95%信頼区間:0.89~1.03)、死亡(0.94、0.85~1.05)、心筋梗塞(0.97、0.88~1.06)の個々のエンドポイントにおいて有意差は認められなかった。また、ステント埋め込みの適応別サブグループ間でもアウトカムに有意差は見られなかった。
ハイリスク例では再狭窄率が有意に低下
一方、最も早い2003年にDESを留置した患者は、同じ年にBMSを留置した患者より遅発性イベントが有意に高率だった。しかし、それ以降の年に治療された患者ではアウトカムのわずかな差も観察されなかった。留置後1年以内の平均再狭窄率は、100人年当たりDESが3.0に対し、BMSは4.7(補正相対リスク:0.43、95%CI 0.36~0.52)だった。これは、DES留置を39例行って再狭窄が1例予防できるという計算になる。なお、ハイリスク患者の場合は、DESの補正後再狭窄リスクはBMSより74%低く、再狭窄1例を予防するための必要治療数はわずか10例となる。
これらから研究グループは、DESはBMSと比較して、長期の死亡または心筋梗塞の出現率は同程度としながらも、ハイリスク患者においては再狭窄率の臨床上有意な低下をもたらすと結論づけた。
(朝田哲明:医療ライター)