せき症状への抗生剤処方は無意味

提供元:ケアネット

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公開日:2009/07/10

 



カーディフ大学(イギリス・ウェールズ)プライマリ・ケア/公衆衛生部門のC C Butler氏らは、ヨーロッパ13ヵ国における外来患者への抗生剤処方について調査を行った。外来患者で最も多い主訴の1つ、せき症状に対する処方率・種類を調べ、回復との関連性を調べた。これまでもヨーロッパ各国間には、抗生剤処方に大きな違いがあること(下気道感染:オランダ27%、イギリス75%など)は知られていたが、そうした違いが、各国間の患者の回復に違いをもたらしているのかどうかは不明だった。結果は、BMJ誌2009年6月27日号(オンライン版2009年6月23日号)で掲載されている。

13ヵ国3,400例のせき症状患者への抗生剤処方と回復状況を調査




本研究は、13ヵ国14のプライマリ・ケア研究ネットワークを介して、臨床家(GP、ナース・プラクティショナー)の協力を得て行われた横断観察研究。ネットワークごとに臨床家を介して集約した、患者の症状および治療内容記録と、患者自身に記録してもらった症状日誌(毎日13項目について回復するまで、もしくは最長28日間記録)の情報を検討した。

参加13ヵ国は、ベルギー、フィンランド、ドイツ、オランダ、ハンガリー、イタリア、ノルウェー、ポーランド、スロバキア、スペイン(2つのネットワーク)、スウェーデン、イギリス(ウェールズとイングランド)。

試験適格患者とされたのは、新規もしくは増悪したせき症状、および下気道感染を示唆する臨床症状を呈した成人。2006年10、11月、2007年1~3月にわたって収集され、3,402例の参加を得た。

回復率は、抗生剤処方がされた・されなかったとも同等




3,402例の参加者のうち、臨床家からケースレポートが提供されたのは99%(3,368例)、患者日誌提出は80%(2,714例)だった。

症状の重症度スコア(0~100点)の各国の平均点は、19点(スペインとイタリア)~38点(スウェーデン)の範囲だったが、抗生剤処方率は、ネットワーク間で20%(スペイン)~90%(スロバキア)と差が大きくあり(全体では53%)、処方された抗生剤の種類もさまざまだった。

アモキシシリン(商品名:サワシリンなど)は概して最もよく処方されている抗生剤だったが、ノルウェーでの3%からイギリスでの83%までと違いが見られた。

一方、フルオロキノロン(ニューキノロン、商品名:クラビッドなど)は、3つのネットワークでは最もよく処方されていたが(そのうちミラノが最も多く18%)、6つのネットワーク(イギリス・サウサンプストン、スペイン、ポーランド、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド)では全く処方されていなかった。

各国間の処方率の違いは、臨床症状および人口統計学的補正後も、ノルウェー(0.18)からスロバキア(11.2)まで、かなりの範囲にわたった。

しかし回復率は、抗生剤処方がされた・されなかったとも同等だった(係数-0.01、P<0.01)。

著者は、「急性のせき症状に対するヨーロッパ各国間の抗生剤処方の違い(割合、種類の違い)は、臨床症状が違うからと説明されるものでもなく、一方で処方の違いで臨床的に重要な回復状況の違いも見られなかった」と結論している。

(朝田哲明:医療ライター)