未だ1型糖尿病患者にとって、腎症と網膜症は重大な合併症である。米国ミネソタ大学小児科のMichael Mauer氏らは、これら疾患の進行を、ACE阻害薬やARBのレニン・アンジオテンシン系(RA)阻害薬の早期投与によって抑制できるか、無作為化二重盲検プラセボ対照試験にて検討した。NEJM誌2009年7月2日号より。
ロサルタン群、エナラプリル群、プラセボ群で検討
試験は、1型糖尿病患者285例(血圧、蛋白尿ともに正常値)を、ACE阻害薬のエナラプリル(商品名:レニベースなど)投与(20mg/日)群、もしくはARBのロサルタン(商品名:ニューロタン)投与群(100mg/日)、あるいはプラセボ投与群に二重盲検にて無作為化し、5年間追跡し行われた。
主要エンドポイントは、腎生検で行った糸球体に占めるメサンギウム容積率の変化とされた。網膜症のエンドポイントは、2段階以上の網膜症重症度スケールの進行とされ、線形回帰およびロジスティック回帰モデルを用いてintention-to-treat解析が行われた。
プラセボとの比較で、網膜症の進行割合65~70%減少
完全な腎生検データが得られたのは90%、網膜症のデータが得られたのは82%だった。
5年間にわたる主要エンドポイントの変化は、プラセボ群(0.016単位)、エナラプリル群(0.005単位、P=0.38)、ロサルタン群(0.026単位、P=0.26)で、有意な違いは見られなかった。他のあらゆる腎生検データ(構造的変化)でも治療効果の有意な違いは見られなかった。
微小アルブミン尿症の5年累積発生率は、プラセボ群が6%である一方、ロサルタン群は17%(ログランク検定によるP=0.01)と高かったが、エナラプリル群は4%(同P=0.96)だった。
網膜症の進行割合は、プラセボ群との比較で、エナラプリルでは65%減少(オッズ比:0.35、95%信頼区間:0.14~0.85)、ロサルタン群は70%減少(0.30、0.12~0.73)していた。いずれも血圧の変化とは関連がなかった。
有害事象は、生検に関連し3件が発生したが、いずれも治癒した。また、慢性咳嗽がエナラプリル群で12例、ロサルタン群6例、プラセボ群4例が報告された。
Mauer氏は、「1型糖尿病患者への、RA阻害薬の早期投与は、腎症の進行を遅らせることはできなかったが、網膜症の進行を遅らせられた」と結論している。
(武藤まき:医療ライター)