抗うつ薬と青少年の自殺の危険性(自殺念慮/企図リスク)は注意を要する問題であるが、その一方で、疫学研究では、抗うつ薬の投与により自殺率が下がる傾向が確認されていている。この相違を確かめるため、米国食品医薬品局(FDA)のMarc Stone氏ら研究グループは、成人を対象とする抗うつ薬臨床試験における自殺行動のリスク評価を試みた。BMJ誌2009年8月22日号(オンライン版2009年8月11日号)より。
被験者約10万人のプラセボ対照試験をメタ解析
FDA研究グループは、12の承認抗うつ薬に関する372の二重盲検無作為化プラセボ対照試験についてメタ解析を行った。参加者は成人9万9,231人。被験者の年齢中央値は42歳で、63.1%が女性だった。治療の適応は、大うつ病(45.6%)、その他のうつ病(4.6%)、その他の精神障害(27.6%)と非精神障害(22.2%)であった。主要評価項目は自殺行動(自殺既遂、自殺未遂または予備行為)と自殺念慮とした。
解析の結果、非精神病的患者群においては、自殺行動と自殺念慮は非常にまれだったが、精神病患者群では、リスクと年齢に関連が見られた。「自殺行動・自殺念慮」もしくは「自殺行動のみ」のオッズ比は、25歳未満ではそれぞれ1.62(95%信頼区間:0.97~2.71)、2.30(同:1.04~5.09)、25~64歳では0.79(同:0.64~0.98)と0.87(同:0.58~1.29)、65歳以上では0.37(同:0.18~0.76)、0.06(同:0.01~0.58)だった。
自殺傾向リスクが年齢依存的に確認
年齢を連続変数としてモデル化した場合、自殺行動・自殺念慮のオッズ比は、年齢ごとに2.6%(-3.9%~-1.3%、P=0.0001)の割合で減少した。さらに、自殺行動だけでみると、オッズ比は年齢ごとに4.6%(-7.4%~-1.8%、P=0.001)の割合で減少。抗うつ薬投与に伴う自殺傾向リスクは、年齢に強く依存していた。
プラセボと比較すると、25歳未満成人における自殺傾向と自殺行動のリスク増加は、これまで小児と未成年者でみられた値に近かかった。自殺行動に対するネット効果は明らかではないが、おそらく25~64歳の自殺念慮に対しては保護的に作用し、65歳以上では自殺傾向と自殺行動のリスクを低下させると推測している。