CLEAR!ジャーナル四天王

わが国への直接応用は難しいが…(解説:野間重孝氏)

 まず論文評を始めるにあたって、近年における冠動脈疾患(CAD)の危険因子に対する考え方の変化に言及する必要があるだろう。従来危険因子(risk factor)とは、高血圧・糖尿病・喫煙・脂質異常・肥満など生活習慣の改善や薬物療法によって修正可能な因子を指し、年齢・性別・家族歴などコントロールが困難な因子はリスク要因(risk marker)と呼んで区別してきた。しかし、近年になり非修正可能な因子も重要なリスク要因として考慮すべきではないかという動きが強まっている。その原因の第一には、多因子リスク評価の重要性が見直されてきたことにある。つまり、一つひとつの危険因子の影響は独立ではなく、複合的なリスク評価が重要だと考えられるようになったことが挙げられる。たとえば、年齢+男性+早発性CADの家族歴という要因が重なると、単独の要因よりもリスクが著しく上昇することが明らかになってきた。これに、予防医療の発展という要因も付け加えなければならないだろう。今回取り上げられたCACスコアのような画像診断が普及したことで、非修正可能な要素がある人こそ、より積極的な検査が必要だという認識が広まったのである。実際、ASCVDリスクスコアやSCORE2といった新しい評価法では非修正可能因子も加味されている。

プロテインSの遺伝子型、 表現型と血栓症リスクの関係(解説:後藤信哉氏)

日本で若年の静脈血栓症に遭遇すると、プロテインS、プロテインCの関与を第一に考える。本研究ではUK BiobankとUS NIHのHAUデータを用いて、血栓症とプロテインSの関係を検討した。病気の発症には遺伝因子、環境因子などが複雑に寄与する。個別症例の未来の臨床イベント発症予測には遺伝子型、個人の生活習慣、生活習慣曝露によるバイオマーカーの変化などが複雑に寄与する。個別症例の未来の臨床イベントを精密に予測するために、遺伝子から疾病発症に至る大規模な情報リソースを作成しようというのが、UK Biobankなどのバイオバンク作成を支える哲学である。

抗凝固薬―長期投与は減量でよい?(解説:後藤信哉氏)

深部静脈血栓症の症例への予防的抗凝固薬の投与期間は確定されていない。さじ加減を重視する日本の臨床家として「長期投与するなら減量で!」と考える医師は多いと思う。一般に血栓症の再発リスクは時間とともに低減するから、減量して長期投与することは正しそうに思う。それでもランダム化比較試験にて自分の直感を検証したいと考える欧米人が、本研究を施行した。欧米のDOACはアピキサバンとリバーロキサバンが標準なのでアピキサバン (2.5mg twice daily) と リバーロキサバン(10mg once daily)を比較した。静脈血栓症の発症から1~2年経過すれば血栓イベントリスクは十分に低下している。減量しても静脈血栓症の再発リスクは増えなかった(ハザード比[HR]:1.32、95%信頼区間[CI]:0.67~2.60)。重篤な出血リスクは減少した(HR:0.61、95%CI:0.48~0.79)。仮説検証試験として結論が出たわけではないが、医師の直感的判断を支持する試験結果であった。

ランダム化試験より個別最適化医療の論理が必要?(解説:後藤信哉氏)

心房細動の脳梗塞予防には抗凝固薬が広く使用されるようになった。しかし、脳内出血の既往のある症例に抗凝固薬を使用するのは躊躇する。本研究は過去に頭蓋内出血の既往のある症例を対象として、心房細動症例における抗凝固薬介入の有効性と安全性の検証を目指した。319例をDOAC群と抗凝固薬なし群に割り付けて中央値1.4年観察したところ、DOAC群の虚血性脳卒中は0.83(95%信頼区間[CI]:0.14~2.57)/100人年、抗凝固薬なし群では8.60(同:5.43~12.80)/100人年と差がついた。しかし、頭蓋内出血イベントはDOAC群が5.00(95%CI:2.68~8.39)/人年、抗凝固薬なし群では0.82(同:0.14~2.53)/人年であった。

トラネキサム酸による産後の致命的な出血予防効果は大出血診断前でも有効―IPD meta-analysis(解説:前田裕斗氏)

トラネキサム酸(TXA)は線溶系を抑制する薬剤であり、出血量の減少や止血効果が期待される。既存研究において「臨床的に診断された産後出血」に対するTXA投与で死亡率を減らす効果を示しており、WHOも出血発生後の使用を推奨している。しかし「出血が起こる前からの予防投与」に関しては、十分に結論が得られていなかった。本研究は、トラネキサム酸の死亡または重大な外科的介入を要する産後大出血に対する予防効果をみた無作為化比較試験(RCT)のメタアナリシスである。本研究の手法であるindividual patient data(IPD) meta-analysisとは、要するに公表されている集計データ(治療群と対照群の平均値・標準偏差・サンプルサイズなど)をまとめたものではなく、各研究に参加した個々の被験者の生データ(個人レベルのデータ)を収集し、それらを統合して解析を行う手法である。これにより、より精度の高い解析を行うことができる。さらにTXA vs.プラセボの効果をみたRCTのみを組み入れることで、より質の高い研究となっている。

小児・青年期の肥満の有病率は上昇傾向で今後も増加が予想される。対策が急務だが、経済発展の背景にある格差拡大が問題ではないか(解説:名郷直樹氏)

180ヵ国の5~24歳の小児・青年期の男女を対象として、1990年から2021年にかけての過体重、肥満の有病率データから、2022年から2050年にわたる過体重、肥満の有病率を予想した論文である。いずれの年代、いずれの地域においても、1990年から2021年までの過体重、肥満の有病率が上昇している。南北アメリカ、ヨーロッパで有病率が高く、アジア、アフリカでは有病率は前者ほど高くはないが、高い増加率が認められる。実際の数字を見てみると、全体の集計の青年期では1990年の過体重が8.0%、肥満が1.9%、2021年にそれぞれ13.7%、6.6%へと増加。小児期でも過体重が6.7%から11.2%、肥満が2.0%から6.9%に増加している。日本が含まれる東南アジア、東アジア、オセアニアでは、青年期の過体重が5.2%から11.6%、肥満が0.8%から4.7%に増加、小児期では過体重が4.6%から9.7%、肥満が1.2%から5.9%にそれぞれ増加している。絶対値で見ればアジアの肥満の有病率は西欧より低いものの、30年間の増加率でみると西欧を上回り、青年期の肥満が470%、小児期では404%の増加である。

救急隊員によるnerinetideの入院前静注は脳虚血患者に有効か?(解説:内山真一郎氏)

ESCAPE-NA1試験では、nerinetideが血栓溶解療法後の患者には効果がなかったのは、血栓溶解薬により産生されたプラスミンがnerinetideを分解して不活化してしまうためと考えられたことから、ESCAPE-NEXT試験では血栓溶解療法との併用は検討されなかった。一方、FRONTIER試験では、病院に到着して血栓溶解療法が行われる前にnerinetideが投与されたので、神経保護と血栓溶解による再灌流の相乗効果が期待された。このアプローチは、発症から治療開始までの時間が短い利点があるが、脳梗塞以外に脳出血、TIA、脳卒中と紛らわしい疾患が混入する欠点もある。

脳保護薬nerinetideは血栓溶解療法を行わない血栓除去術施行患者に有効か?(解説:内山真一郎氏)

nerinetideは、急性期虚血性脳卒中の前臨床モデルで多くの研究が行われてきたイコサペプチドであり、再灌流療法前の脳損傷の進行を阻止することによる転帰改善効果が期待されている。nerinetide投与前にアルテプラーゼ治療を受けなかった患者では効果があり、受けた患者では効果がなかったが、アルテプラーゼの先行投与により産生されるプラスミンがnerinetideを分解して不活化してしまうためであると考えられている。

避妊法による脳卒中や心筋梗塞のリスクをどのように回避することができるのか?(解説:三浦伸一郎氏)

避妊法の条件は、確実であり、方法が簡便で長期間使用できること、経費が少なくて済み、副作用が少ないことなどが挙げられる。経口避妊薬には、ホルモン剤としてプロゲスチンとエストロゲンの混合型とプロゲスチン単独のものがある。ホルモン避妊法による深部静脈血栓症や肺塞栓症の発生率は、エストロゲン投与量が増加すると上昇することが知られている。エストロゲンやプロゲステロンの投与では、フィブリノゲンなどの凝固因子が増加し、凝固抑制因子が減少することにより凝固系が亢進する。

リファンピシン耐性キノロン感性結核に対する経口抗菌薬(解説:寺田教彦氏)

結核は、依然として世界的な公衆衛生の問題であり、2023年WHO世界結核対策報告書によると、2022年には約1,060万人が結核を発症し、130万人が死亡したとされる。結核治療を困難にする要因の1つに薬剤耐性結核(MDR/RR-TB)があり、今回の対象であるリファンピシン耐性結核は、毎年約41万人が罹患すると推定されている。このうち治療を受けたのは40%にすぎず、その治療成功率は65%にとどまっている(WHO. Global tuberculosis report 2023.)。これは、従来のレジメンが18~24ヵ月と治療期間が長く、アミノグリコシド系やポリペプチド系の注射製剤が含まれ、副作用の問題もあったためと考えられる。

活動性ループス腎炎に対する新しいタイプの抗CD20抗体の治療効果(解説:浦信行氏)

活動性ループス腎炎(LN)は全身性エリテマトーデス(SLE)の中でも重症病態の1つであり、LN患者の約20%が15年以内に末期腎不全に至る。B細胞はSLE発症の重要なメディエーターであるが、この病原性B細胞の減少を来すことがSLEの治療となりうる可能性が以前から指摘されていた。  CD20はB細胞の表面に存在するタンパク質で、B細胞の活性化や増殖に関与する細胞表面マーカーである。この病態に対する治療的アプローチとして、当初はタイプI抗CD20モノクローナル抗体(mAb)であるリツキシマブ(RTX)が検討された。しかし、臨床試験においてその評価は無効とするものもあり、有効とするものでも反復投与例に、B細胞の枯渇が不完全な二次無効が存在することが報告されている。

認知症患者に対する緩和ケアは、患者自身の症状を改善するとはいえないが、救急受診と入院を減らすかもしれない(解説:名郷直樹氏)

中等度~重度の認知症患者とそのケア提供者を対象として、患者の症状やケア提供者のウェルビーイングに対するマネジメント、とくにアドバンス・ケア・プランニング、ケアのゴール、緩和ケア、ホスピスによる新しい手法を加えた非薬物治療によるアプローチの効果を、通常の治療と比較し、1次アウトカムとして患者の神経精神症状の変化を検討したランダム化比較試験である。

肥満患者における鎮静下消化器内視鏡検査中の低酸素症発生に対する高流量式鼻カニュラ酸素化の有用性(解説:上村直実氏)

消化器内視鏡検査は苦痛を伴う検査であると思われていたが、最近は多くの施設で苦痛を軽減するため、検査時に鎮静薬や鎮痛薬を用いた鎮静法により大変楽に検査を受けられるようになっている。しかし、内視鏡時の鎮静に対する考え方や方法は国によって大きく異なっている。米国では、内視鏡検査時の鎮静はほぼ必須であり、上下部消化管内視鏡検査受検者のほぼすべてが完璧な鎮静効果を希望するため、通常、ベンゾジアゼピン系薬品とオピオイドの組み合わせを使用して実施される。具体的には、ベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬のミダゾラムとオピオイド鎮痛薬のフェンタニルの組み合わせが、最も広く利用されている。

価値ある研究だが、国による医療事情の違いへの考慮が必要(解説:野間重孝氏)

本試験では、最初の診断時に冠動脈CT血管造影(CCTA)を施行したグループにおいても、最初にCCTAが行われたが、その後のフォローアップで定期的にCCTAが使用されたわけではない。したがって、初回の診断による薬物治療や治療方針の違いが長期転帰に影響を与えた可能性はあるが、病変の進展を観察しながら治療を逐次変更していったわけではない。それでもこうした有意差が認められたことは、治療開始時に冠動脈病変を正確に把握しておくことの重要性をあらためて認識させた研究であるといえよう。これは私たちのような古手の循環器科医にとっては耳の痛い話であるが、若い人たちは「そんなことは当然では?」と思われるかもしれない。

妊娠糖尿病とメトホルミン―「非劣性試験で有意差なし」の解釈は難しい(解説:住谷哲氏)

妊娠糖尿病患者が食事療法のみで血糖管理が困難になれば、インスリンを投与するのがゴールドスタンダードである。わが国では妊娠糖尿病に対するメトホルミン投与は禁忌であるが、米国での妊娠糖尿病患者の69%はメトホルミンまたはグリブリド(グリベンクラミドと同じ)が投与され、英国では薬物療法が必要となった妊娠糖尿病患者の59%にメトホルミンが投与されているとのデータがある。さらに英国のNICEガイドラインではメトホルミンが妊娠糖尿病に対する第一選択薬に推奨されている。

HER2陽性早期乳がん術前化学療法後non-pCRに対するT-DM1のアップデート(解説:下村昭彦氏)

術前化学療法(分子標的薬併用を含む)は早期乳がんに対する標準治療として確立している。HER2陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がんでは、術前化学療法で病理学的完全奏効(pCR)が得られた場合は再発のリスクが下がることが知られているが、得られなかった場合(non-pCR)の再発リスクが高いことがunmet medical needsとして認識されてきた。そのため、non-pCRに対する術後治療に対するエビデンスがここ10年で蓄積し、また現在も開発されている。トラスツズマブ併用術前化学療法を受けたHER2陽性早期乳がんで、手術病理でnon-pCRであった症例を対象としてT-DM1の有効性を示した試験がKATHERINE試験である。2019年にNEJM誌に報告され(von Minckwitz G, et al. N Engl J Med. 2019;380:617-628.)、日本国内でも2020年に適応拡大されている。KATHERINE試験は、タキサンならびにトラスツズマブを含む術前化学療法を受け、乳房または腋窩リンパ節に浸潤がんが遺残していたHER2陽性乳がんに対し、術後治療として当時の標準療法であるトラスツズマブ単剤とT-DM1を比較した試験である。ホルモン受容体陽性の場合はホルモン療法が併用された。

GLP-1受容体作動薬はパーキンソン病全般にも有効か?(解説:内山真一郎氏)

パーキンソン病患者に対するGLP-1受容体作動薬の効果を検討する第III相無作為化比較試験が英国で行われた。25~80歳でドーパミン治療を行っているHoehn & Yahrステージが2.5以下のパーキンソン病患者に、徐放型エキセナチド2mgかプラセボを96週間にわたって週1回皮下注射し、1次評価項目としてパーキンソン病の運動障害スケールであるUPDRS Part IIIを評価したところ、エキセナチド群とプラセボ群の悪化度には有意差がなく、疾患修飾薬としてのエキセナチドの有効性は証明されなかった。このエキセナチドの臨床効果の欠如は、DATスキャンの画像所見上の効果の欠如とも一致していた。

早期の緩和ケアは死期の近い高齢者の入院を予防できない?(解説:名郷直樹氏)

多疾患併存患者の死亡リスクを予測するGagne comorbidity score(1年時点での死亡予測のスコア:-2~26、高値ほどリスクが高い)が6点以上(1年後の死亡率が25%以上)の66歳以上を対象とし、救急外来受診時に、エビデンスに基づく多職種による教育、重大な疾患に関するコミュニケーションについての刺激に基づくワークショップ(救急外来での会話)、意思決定サポート、救急外来スタッフによる監査とフィードバックによる介入の効果を、入院をアウトカムとして検討したクラスターステップウェッジランダム化比較試験である。

2型糖尿病に対する新たな週1回インスリン製剤(解説:安孫子亜津子氏)

本論文では、新たな週1回注射の基礎インスリンであるefsitoraの2型糖尿病に対する第III相試験(QWINT-2)の結果が報告された。2型糖尿病に対する治療としては、インクレチン関連薬やSGLT2阻害薬の登場後、インスリン導入が遅くなったり、インスリン使用量が減量できる症例も増えてきている。ただし、わが国ではインスリン分泌能の低下した痩せ型の2型糖尿病で、インスリンを確実に補充することが必要な患者も多く認められる。とくに長期間SU薬を使用してきたような高齢者2型糖尿病に対するインスリン治療では、頻回注射や毎日の注射ができなくなる症例もあり、注射回数の減少は、わが国の糖尿病治療において必須の課題である。

無症状の重症大動脈弁狭窄症に対する早期介入は有効か?―EVOLVED 無作為化臨床試験(解説:佐田政隆氏)

大動脈弁狭窄症(AS)患者は社会の高齢化と共に急速に増えている。ASの予後は非常に不良なことが知られており、自覚症状が出現してから突然死などで死亡するまでの期間は短い。狭心症や失神では3年、息切れでは2年、うっ血性心不全では1.5~2年で亡くなるといわれている。有効な薬物療法はなく、人工弁置換術が唯一の治療法である。従来、高齢者や合併症を持った患者では、人工心肺を用いた開胸による外科的大動脈弁置換術(SAVR)に耐えられない症例が多かった。近年では、比較的低侵襲で行われる経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)の治療成績が飛躍的に向上し急速に普及している。100歳を超えた成功例も数多く報告されている。