CLEAR!ジャーナル四天王

“Real-world”での高齢者に対するRSVワクチンの効果(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

60歳以上の高齢者に対する呼吸器合胞体ウイルス(RSV:Respiratory Syncytial Virus)に対するワクチンの薬事承認を可能にした第III相臨床試験の結果に関しては以前の論評で議論した(CLEAR!ジャーナル四天王-1775)。今回は実臨床の現場で得られたデータを基に高齢者に対するRSVワクチンの“Real-world”での効果(入院、救急外来受診予防効果)を検証し、高齢者に対するRSVワクチン接種を今後も積極的に推し進めるべき根拠が提出されたかどうかについて考察する。

対象患者選択の重要性を再認識させられた研究(解説:野間重孝氏)

本研究はコルヒチンの虚血性心疾患に対する2次効果を検討した3つ目の研究に当たる。今回の研究に先行する2つの研究については次に示すので、ぜひご一読されたい。これは、評者自身が過去2回にわたり論文評を担当しており、内容が重複してしまう可能性があるためである。この点について、すでにご存じの方にはご容赦いただきたい。大抵の方々にとっては虚血性心疾患とコルヒチンの関係そのものに首をかしげる向きがあると考えるが、そのあたりについても評では簡単にではあるが解説した。

ATTR型心アミロイドーシスにおいてブトリシランは全死亡を低下させQOLを維持する(解説:原田和昌氏)

ATTRアミロイドーシスは、単量体がミスフォールドされたトランスサイレチン(TTR)がアミロイド線維として心臓、神経、消化管、筋骨格組織に沈着することで引き起こされる疾患で、心臓への沈着により心筋症が進行する。ATTR型心アミロイドーシスの治療薬としては、TTR安定化薬のタファミジスが承認されている(ATTR-ACT試験)。また、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(TTR-FAP)の適応を取得しているsiRNA静脈注射剤のパチシラン(3週に1回投与)により、ATTR型心アミロイドーシス患者の12ヵ月時の機能的能力が維持されることが報告された(APOLLO-B試験)。さらに、高親和性TTR安定化薬であるacoramidisのATTR型心アミロイドーシスに対する有効性が報告されている(ATTRibute-CM試験)。

セマグルチドは心血管系疾患の既往と心不全を有する肥満患者の心不全イベントリスクを低下する:SELECT試験の2次解析(解説:原田和昌氏)

肥満の人では心血管疾患のリスクが高まるが、これまでMACE(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)のリスクを低減しつつ効果的な体重管理ができることが証明された治療薬はなかった。SELECT試験は、HFrEFの糖尿病の既往がない過体重または肥満で、アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の既往を有する成人を対象に、GLP-1受容体作動薬セマグルチド2.4mg週1回皮下投与のMACE予防に対する有効性をプラセボ投与と比較した無作為化二重盲検試験であり、41ヵ国にて45歳以上の過体重または肥満の成人1万7,604例が登録された。なお、BMIが30以上を「肥満」とし、BMIが25以上30未満を「過体重」とした。

専門医資格を有する集中治療医が関与する遠隔医療にてICU患者の臨床アウトカムは改善しなかった(解説:原田和昌氏)

集中治療医が関与する多職種医療チームによる治療にて、集中治療室(ICU)患者のアウトカムが改善することが示されているが、残念ながら都市部を除いて十分な数の集中治療医は確保できない。そこで、ICUにおける遠隔医療が導入されたが、遠隔医療の方法の違いや不十分な試験デザインなどによりその有効性はまだ明らかでない。ブラジルのPereira氏らはブラジル保健省などと提携し、ICUにおける遠隔医療が重症患者の臨床アウトカムを改善するかを評価する目的で、非盲検クラスターランダム化試験であるTELESCOPE試験を行った。

心不全に対するミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の効果に関するメタアナリシス(解説:石川讓治氏)

心不全の薬物治療におけるFantastic fourの1つとしてミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の使用が推奨されている。現在、心不全に対して使用可能なMRAは、スピロノラクトンやエプレレノン(ステロイド系)とフィネレノン(非ステロイド系)がある。本研究は下記の4つの研究の患者個人データを統合して行ったメタ解析である。RALESでは、failure and preserved left ventricular ejection fraction(HFrEF)に対するスピロノラクトン、EMPHASIS-HFではHFrEFに対するエプレレノン、TOPCATではheart failure and preserved left ventricular ejection fraction(HFpEF)に対するスピロノラクトン、FINEARTS-HFではHFpEFに対するフィネレノンの効果が検証された。各研究結果において、RALES、EMPHASIS-HF、FINEARTS-HFでは有意差が示されたが、TOPCATでは心不全の再入院の抑制効果に有意差が認められたものの、心血管死亡の抑制効果には有意差が認められなかったことが報告されている。このメタ解析において、MRAは心血管死亡や心不全入院のリスクを22%減少させていた。ステロイド系MRAはHFrEFにおける心血管死亡や心不全の入院を減少させ、非ステロイド系MRAはheart failure and mildly reduced ejection fraction (HFmrEF)やHFpEFのリスクを減少させたとの結果であった。

英国の一般医を対象にした身体症状に対する介入の効果―統計学的な有意差と臨床的な有意差とのギャップをどう考えるか(解説:名郷直樹氏)

18〜69歳で、Patient Health Questionnaire-15(PHQ-15)スコア(30点満点で症状が重いほど点数が高い)が10~20の範囲、持続的な身体症状があり、過去36ヵ月間に少なくとも2回専門医に紹介されている患者を対象に、症状に対する4回にわたる認識、説明、行動、学習に要約できる介入の効果を、52週間後の自己申告によるPHQ-15スコアで評価したランダム化比較試験である。介入の性格上マスキングは不可能であるが、アウトカム評価と統計解析については割り付けがマスキングされているPROBE(Prospective Randomized Open Blinded Endpoint)研究である。ただPROBEであっても、アウトカムが症状であることからするとバイアスを避け難い面があり、効果を過大評価しやすいという限界がある。

ホルモン受容体陽性HER2陰性進行乳がんに対するSERD+CDK4/6i+PI3Kiによる予後の改善(解説:下村昭彦氏)

inavolisibは新規PI3K阻害剤である。2023年の「San Antonio Breast Cancer Symposium」で全生存期間(OS)の改善が期待されるデータが公表されてから、その詳細が待たれていた。inavolisibはPI3Kαを特異的に阻害する薬剤で、既存のPI3K阻害剤よりも有害事象が軽減することが期待されていた。inavolisibの有効性を初めて証明した試験がINAVO120試験であり、2024年10月21日にNEJM誌に発表された。INAVO120試験では、ホルモン受容体陽性HER2陰性(HR+HER2-)進行乳がん(転移乳がんもしくは局所進行乳がん)のうち、組織、もしくはctDNAでPIK3CAの変異が検出された患者を対象として、フルベストラント+パルボシクリブにinavolisibまたはプラセボを上乗せするデザインとなっていた。この試験は進行乳がんの1次治療の試験ではあるが、適格基準に特徴がある。すなわち、術後ホルモン療法中の再発、もしくは術後ホルモン療法完了後12ヵ月以内の再発の患者を対象としており、いわゆるホルモン感受性の低い患者へのエスカレーションとなっている。

70歳未満の長生きの向上―過去と未来(解説:名郷 直樹氏)

高齢者でなく70歳未満を対象にして、世界の10の地域、人口の多い30ヵ国を対象に、10年間の早期死亡確率とそのばらつき、今後50年の予想を検討した論文である。  長寿化による避けられない死より、それ以前の若年での死亡を検討するという視点は、「人生100年時代」と超高齢者まで生きることばかりを喧伝し、若年者の健康に対しての提言がはっきりしない日本の現状に対しても大きな意味を持つ研究である。

“Fantastic Four”の一角に陰り:心筋梗塞例にミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は無効(解説:桑島巌氏)

アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬の4つは心不全の治療薬におけるFantastic Fourとして広く宣伝されてきた。しかし本論文は、その一角を成すMRAの1つスピロノラクトンが心筋梗塞後の心血管死や心不全悪化に対しての効果はプラセボ群と差がなく、有用性を認めなかったという結果を示した。

GLP-1受容体アゴニストの減量に対する長期の効果と糖尿病予防効果の強固さ(解説:名郷 直樹氏)

GLP-1受容体アゴニストを72週投与し、体重減少を1次アウトカムとした二重盲検ランダム化比較試験SURMOUNT-1研究の対象者に対し、176週まで治療を継続し、さらに治療中止後に17週の追跡を追加した2次解析結果の報告である。  BMI 30以上、または糖尿病以外の肥満関連のリスクを持つBMI 27以上の肥満者を対象として、チルゼパチド5mg、10mg、15mgの週1回投与とプラセボを比較して、176週後、193週時点の体重変化と糖尿病の発症をアウトカムに設定している。

今、肺静脈隔離にシャム試験?(解説:高月誠司氏)

Sham-PVI試験は心房細動患者に対してクライオバルーンによる肺静脈隔離とシャム手術を行い比較する、無作為化比較試験である。結果的に肺静脈隔離群では有意に心房細動の再発は少なく、QOLは高かった。心房細動に対する肺静脈隔離法が始まって約20年、これまで心房細動に対する第一選択の治療法として薬物療法とクライオアブレーションを比較する試験は行われており、アブレーション治療のほうが洞調律維持率は高いことは確立していた。

HR+HER2-早期乳がんの遠隔転移再発率の低下(解説:下村昭彦氏)

早期乳がん治療についてはEarly Breast Cancer Trialists' Collaborative Group(EBCTCG)が多くのメタ解析を出版しており、日常臨床に活用されている。今回EBCTCGから早期乳がんの遠隔転移再発に関するプール解析が実施され、Lancet誌2024年10月12日号に掲載された。本研究では、1990年から2009年までに151の臨床試験に登録された早期乳がん患者15万5,746例のデータが用いられた。遠隔再発については各試験の定義が用いられ、10年遠隔再発リスクについて検討された。年代を1990年から1999年と、2000年から2009年の各10年に分けて検討され、リンパ節転移陰性では、エストロゲン受容体(ER)陽性で10.1% vs.7.3%、ER陰性で18.3% vs.11.9%、リンパ節転移が1~3個では、それぞれ19.9% vs.14.7%、31.9% vs.22.1%、リンパ節転移が4~9個では、それぞれ39.6% vs.28.5%、47.8% vs.36.5%であった。治療について補正後、2000年代は1990年代と比較して、遠隔再発率がER陽性例で25%、ER陰性例で19%減少し、ER陽性例では5年を超えても同様の改善が認められた。

低温持続灌流はドナー心臓の虚血時間を安全に延長できる(解説:小野稔氏)

低温浸漬保存(SCS)は脳死ドナーから提供された心臓を保存するゴールドスタンダードであるが、保存時間が4時間を超えると虚血、嫌気性代謝に続く臓器障害を来たし、移植後の合併症や死亡に至る場合がある。肝臓移植においてはXVIVO(XVIVO AB, Sweden)による低温灌流保存(HOPE: hypothermic oxygenated machine perfusion)についての12のメタアナリシスやシステマティックレビューがあり、その安全性と有効性が証明されている。

高リスクIgA腎症へのエンドセリンA受容体拮抗薬の重度蛋白尿改善効果は確定(解説:浦信行氏)

エンドセリンA受容体拮抗薬の蛋白尿改善効果はIgA腎症をはじめとして、慢性腎臓病(CKD)や巣状糸球体硬化症等で次々に報告されるようになった。本研究(ALIGN研究)は高リスクIgA腎症を対象とし、エンドセリンA受容体拮抗薬atrasentanの36週での尿蛋白減少効果を偽薬投与群と比較した成績であるが、36.1%有意に減少させたと報告された。同様の成績は昨年エンドセリンA受容体・アンジオテンシンII受容体デユアル拮抗薬のsparsentan https://www.carenet.com/news/clear/journal/57590「IgA腎症の新たな治療薬sparsentanの長期臨床効果」で解説)。

エンパグリフロジン投与終了後もCKDの心・腎保護効果が持続、レガシー効果か?(解説:栗山哲氏)

EMPA-KIDNEY試験では、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(エンパ)の心・腎保護作用が、糖尿病性腎症(DKD)のみならず非糖尿病CKD(CKD)においても示された(The EMPA-KIDNEY Collaborative Group. N Engl J Med. 2023;388:117-127.)。今回の報告は、同試験の終了後の追跡評価(post-trial follow-up)である。その結果、エンパの投与終了後、少なくとも1年間は心・腎保護作用が持続した。この成績が先行治療終了後も臓器保護作用が持続する、いわゆるレガシー(遺産)効果の初期像を観察しているとすれば、SGLT2阻害薬の新知見の可能性がある。

心臓MRIによるLGEはLVEFより拡張型心筋症のリスクをより良く予測する(解説:佐田政隆氏)

非虚血性の拡張型心筋症(DCM)患者は心不全や心臓突然死のリスクが高く、植込み型除細動器(ICD)の植え込みで生命予後の改善が期待される。そのため、高リスク症例を正確に同定することは非常に重要であるが、DCM患者のリスク評価は、左室駆出率(LVEF)が基準とされている。しかし、最近はLVEFが保たれた心不全(HFpEF)が増加しており、LVEFが低下した心不全(HFrEF)と同等もしくは予後が悪いという報告もあり、LVEFが本当に心筋症患者のリスク評価に適切なのか疑問視されてもいた。そこで、スイスのUniversity Hospital BaselのEichhorn先生らは、心臓MRI指標と心血管アウトカムとの関連を検討した、総計2万9,687例のDCM患者を含む103件の報告のシステマティックレビュー・メタアナリシスを実施した。遅延造影(LGE)の存在とその程度は、全死亡、心血管死、不整脈イベント、心不全イベントと関連した。一方、LVEFは全死亡、心血管死、不整脈イベントと関連しなかった。非造影T1緩和時間(native T1)の延長は、不整脈イベントや主要心血管イベントと関連したが、心筋の長軸方向の収縮機能の指標であるGLSは心不全イベント、主要心血管イベントとは関連しなかった。

「サンドイッチ療法」を肺がん周術期治療の主軸に考えよ(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

この数年で肺がんの周術期に関連するエビデンスが数多く発表され、治療ストラテジーも大きく変わってきている。従来はIIB~IIIA期の非小細胞肺がんで手術が検討される場合には、術前プラチナ併用化学療法が一般的であったのに対し、肺がんの状況によって免疫治療や標的治療を周術期に行う治療に置き換わりつつある。術前治療としては、ドライバー変異陰性/不明例のII~IIIA期非小細胞肺がんに対し、術前にニボルマブ+化学療法を3コース行う「CheckMate 816試験」がある。術前にニボルマブ+化学療法を行うことで無イベント生存期間(EFS:event free survival)を化学療法単独群に比べ有意に延長(31.6ヵ月vs.20.8ヵ月)し、病理学的完全奏効(pCR:pathological complete response)も有意に増加(24.0% vs.2.2%)させた

冠動脈にワイヤーを入れて行う心筋虚血評価は、もうちょっと簡単にならないのか?(解説:山地杏平氏)

QFR(Quantitative Flow Ratio、定量的冠血流比)とFFR(Fractional Flow Reserve、冠血流予備量比)の有効性と安全性を比較したFAVOR III Europe試験が、2024年のTCT(Transcatheter Cardiovascular Therapeutics)で発表され、Lancet誌に掲載されました。FFRは、圧測定ワイヤーを狭窄遠位まで進め、最大充血を得るために薬剤投与が必要な侵襲的な検査です。一方で、QFRは冠動脈造影の画像をもとに冠動脈の3次元モデルを再構築し、数値解析を行うことで心筋虚血の程度を推定します。FAVOR III China試験などで、QFRが一般的な冠動脈造影検査のみの評価よりも優れていることが示され、欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインにおいてQFRはクラス1Bとして推奨されています。

糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原検査を用いた検診は胃がん予防に有効か(解説:上村直実氏)

わが国を含む多くの国において、大腸がん死亡を予防する目的で免疫学的便潜血検査(FIT法)を用いた大腸がん検診プログラムが実施されている。今回、台湾において2014年から2018年にかけて、FIT検診に加えて糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原検査(HPSA)を同時に施行しピロリ感染の有無を検査してピロリ除菌治療を勧める検診法により、大腸がんのみならず胃がんの発症率や死亡率に影響を与えるか否かを検討した興味深い臨床研究の結果が2024年9月のJAMA誌に掲載された。