CLEAR!ジャーナル四天王|page:59

前立腺全摘は意味のない治療?(解説:榎本 裕 氏)-724

根治的前立腺全摘術(RP)は、無治療経過観察(watchful waiting:WW)あるいは監視療法(active surveillance:AS)と比較して生存ベネフィットがあるのか? この問いに対して、これまで3つのRCTが報告されている。SPCG-4(N Engl J Med, 2014)ではRPはWWに対してOS、CSSの改善を示した。ただし、PSA検診が本格導入される前の研究であり、非触知がんは12%に過ぎなかった。ProtecT(N Engl J Med, 2016)ではRPはASに対して生存ベネフィットを示すことができなかった。今回の研究(PIVOT)は、PSA検診導入後に開始されたRCTで、RPのWWに対する生存ベネフィットを調べたものである。今回の報告は、2012年の報告(N Engl J Med, 2012)の続報であるが、前回同様、RPはWWに対する優位性を示すことができなかった。

現代でも通用する、「医食同源」のライフスタイル・健康長寿の秘訣は、食にあり(解説:石上友章氏)-723

高血圧は、減塩だけではない。DASH食は、降圧だけでなく痛風・高尿酸血症にも効果的な、健康長寿食であった。医食同源・薬食同源といわれ、経口摂取する食材のなかには、薬効があるものもあるとされている。東洋医学をひもとけば、草根木皮といわれる植物資源だけではなく、場合によっては、動物資源(庶虫、水蛭など)ですら特定の薬効があるといわれている。不老不死・健康長寿は、東洋医学の究極の課題であり、4大古典のひとつである薬学書の『神農本草経』では、薬物を上品・中品・下品の3種類に分けている。上品薬に分類される薬物は、無毒であり長期間服用可能で、生命を養う作用があるとされており、身を軽くし、体力を増し、不老長生を可能にする、とされている。医食同源・薬食同源の考え方は、食養生といわれて重要視されている。本邦でも、『養生訓』を残した貝原益軒は、記録によると1600年代に活躍し、84歳で天寿を全うしている。

IgA腎症のステロイド治療に対する警鐘(解説:木村健二郎氏)-721

IgA腎症に関する診療ガイドラインでは、尿蛋白≧1g/日かつCKDステージG1~2の腎機能が維持されているIgA腎症では、短期間高用量経口ステロイド療法とステロイドパルス療法のいずれも推奨グレードBで推奨されている。しかし、尿蛋白0.5~1.0g/日のIgA腎症でのステロイド療法に関しては十分なエビデンスはなく、エキスパートの意見として推奨されている(推奨グレードC1)にすぎない。糸球体ろ過量(GFR)60未満のCKDステージ3~5のIgA腎症に関しては、十分なエビデンスはない。

アメフト選手の約9割に慢性外傷性脳症(CTE)(中川原譲二氏)-722

アメリカンフットボール(アメフト)選手は、長期的な神経学的傷病、とくに慢性外傷性脳症(CTE)が増大するリスクに曝されている。そこで、本研究はCTEを有する元アメフト選手の神経病理学的所見と臨床像を明らかにすることを目的として行われた。対象は、研究のために脳検体が提供された202例の死亡した元アメフト選手である。神経病理学的評価とともに、選手時代のことを知る情報提供者に研究目的を知らせずに、電話による頭部外傷歴を含む臨床評価(後ろ向き)を行った。また、オンラインアンケートで競技歴および軍歴を確認した。さまざまなレベルの選手がアメフトに参加していた。

出産前搾乳は低リスク糖尿病妊婦において安全に実施できる(解説:住谷哲氏)-720

肥満人口の増大に伴い糖尿病妊婦も増加している。糖尿病妊婦からの出生児は子宮内で高血糖の環境にあるため高インスリン状態にあり、分娩後は一過性低血糖を来すことがある。そのため分娩後NICUでの管理が必要になることが少なくない。初乳(colostrum)は通常の乳汁に比べてグルコース濃度が高く、出生児の低血糖を予防するために適切である。そこで、わが国ではあまりないと思われるが、欧米の一部では糖尿病妊婦に対する出産前搾乳が推奨されている。一方で、妊娠後期の搾乳はオキシトシン分泌を介して子宮収縮を促進することから、出生児の合併症を増加させる可能性も懸念されている。そこで糖尿病妊婦における出産前搾乳の有益性に関するコクランのシステマティックレビューが実施されたが、エビデンスが存在しないため有益性は不明とされていた。

女性18歳、男性21歳と男女55歳時との体重差(成人期体重増加)が中高年期以降の生活習慣病発症に大きく影響(解説:島田俊夫氏)-719

肥満と健康に関してこれまでに多くの論文が発表されており、肥満はがんを含んだ生活習慣病に対する大きなリスクファクターとの認識が浸透している。しかしながら、病気が表面化しない限り、多くの肥満者が肥満是正に無関心なのが現実である。極端なことをいえば肥満そのものを病気と捉えるぐらいの厳しい見方が肥満による病気予防には必要だと痛感する。本研究の内容は米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のYan Zheng氏らが、看護師健康調査(Nurses' Health Study:NHS)と医療従事者追跡調査(Health Professionals Follow-Up Study:HPFS)に基づいて実施した研究成果を、JAMA誌2017年7月18日号に発表した。その論文内容に対する筆者の私的見解についてコメントする。

抗凝固薬の中和薬:マッチポンプと言われないためには…(解説:後藤 信哉 氏)-715

手術などの侵襲的介入時におけるヘパリンの抗凝固効果はプロタミンにより中和可能であり、経口抗凝固薬は外来通院中の症例が使用しているので、ワルファリンの抗凝固効果は新鮮凍結血漿により即座に、ビタミンKの追加により緩除に中和できることを知っていても、中和薬の必要性を強く感じる場合は少なかった。止血と血栓は裏腹の関係にあるので、急性期の血栓、止血の両者を管理する必要のある症例の多くは入院症例であり、その多くは調節可能な経静脈的抗凝固療法を受けていた。

日本人の健康寿命を延伸し健康格差を是正していくために期待されること(有馬久富氏)-714

Global Burden of Disease Study 2015の一環として、1990年から2015年における日本の健康指標の変化を都道府県別に検討した成績がLancet誌に掲載された。過去25年間における健康指標の変化および地域間の健康格差を包括的に検討した貴重な成績であり、今後の健康施策に生かされるものと期待される。

臨床試験は結果を共有するだけでなく、生データについても共有する時代になった(解説:折笠 秀樹 氏)-716

臨床試験の結果や生データの共有化あるいは透明性について、製薬企業の方針(Policy)に関する調査結果である。研究デザインはStructured auditとあったので、企業へ聞き取り調査でもしたかと思ったが、そうではなかった。グーグル検索により企業方針を調査した研究である。

遺伝子組み換えインフルエンザワクチンの有効性(解説:小金丸 博 氏)-712

インフルエンザの流行の抑制を期待されているワクチンの1つが、遺伝子組み換えワクチンである。遺伝子組み換え法は、ベクターを用いてウイルスの遺伝子を特殊な細胞に挿入し、ウイルスの抗原性に関わる蛋白を細胞に作らせ精製する方法である。この方法では、卵の蛋白成分、ホルムアルデヒド、抗菌薬、防腐剤を含まないワクチンを製造することができる。また、鶏卵培養法では6ヵ月間かかる製造期間が、6~8週間に短縮できることが大きな利点となる。

グラルギンU100使用中の1型糖尿病患者は低血糖を回避するためにデグルデクにSWITCHすべきか?(解説:住谷 哲 氏)-711

DCCTおよびその後の延長試験であるEDICにおいて、厳格な血糖管理が1型糖尿病患者の細小血管障害および長期的には動脈硬化性心血管病(ASCVD)さらには総死亡を減少させることが明らかにされた。つまり1型糖尿病患者においては可能な限り正常血糖を目指す厳格なコントロールが望ましいといえる。しかし厳格な血糖管理は低血糖とのtrade-offであり、現実には可能な限り低血糖(とくに第三者の介助を必要とする重症低血糖 severe hypoglycemia)を生ずることなく血糖をコントロールすることが目標となる。将来的にclosed-loop insulin delivery systemまたは膵β細胞の再生が現実となればこの問題は解決するであろうが、当面は基礎インスリン(basal insulin)と食事インスリン(bolus insulin)からなるbasal-bolus therapy(BBT)を用いて、インスリン量を患者に応じて調節していくことになる。

BRCA1/2変異保有者における乳がん、卵巣がんおよび対側乳がん発症リスクに関する大規模研究(解説:矢形 寛 氏)-710

本研究は欧米の3つのコンソーシアムに登録されているBRCA1/2変異保有者における前向き観察研究であり、遺伝カウンセリングを行ううえで非常に参考になるものである。今まではメタ分析あるいは英国の前向き研究の結果を用いていたが、今後はより規模が大きく精度の高い本研究の結果を活用したい。

血中カルシウム濃度に関連する遺伝子多型が冠動脈疾患・心筋梗塞発症に関与するか(解説:今井 靖 氏)-708

カルシウム濃度あるいはカルシウム経口補充に伴うカルシウム血中濃度上昇が、冠動脈疾患・心筋梗塞に関連するとするいくつかの疫学研究がある。しかし、ヒトの長い生涯におけるカルシウム濃度上昇が、冠動脈イベント発症に関連するか否かについては明らかではない。

ペルツズマブはHER2陽性乳がんの再発を有意に減少させる(解説:下村 昭彦 氏)-706

HER2陽性乳がんに対する術後薬物療法としてのトラスツズマブの有用性については広く知られており、実臨床で必須の標準治療となっている。また、ペルツズマブの上乗せはHER2陽性転移再発乳がんの1次治療として、ドセタキセル+トラスツズマブに対して有意に予後を改善させることが広く知られている。

溶けて消えるステントを消しても良いのか?消さないためになすべきこと(中川義久 氏)-707

エベロリムス溶出生体吸収性スキャフォールド(BVS)の現状を、5年前に予見できた者はいたであろうか? 希望に満ちあふれた新規デバイスとして、みんなの注目を集めて輝いていたね、スキャフォールドくん。学会会場でBVS関連の発表は聴衆であふれていたね、けれども今は……。