CLEAR!ジャーナル四天王|page:72

血栓吸引療法に引導は渡ったか?TOTAL試験1年追跡(解説:香坂 俊 氏)-463

このところ血栓吸引療法の旗色がよろしくない。(1)急性心筋梗塞では冠動脈内でプラークが破裂し、血栓を形成する。(2)その血栓はバルーンやステントを行う前に吸引しておいたほうが良さそうだ。(3)実際、小規模のランダム化試験ではうまくいった(TAPAS試験)。この三段論法で、とくに日本のカテーテルインターベンション(PCI)の現場では広く行われてきた。自分たちでもKiCSという関東一円の多施設共同PCIレジストリで集計してみたところ、ST上昇心筋梗塞症例に対するPCIの実に65.4%で血栓吸引が行われていた。

CHAMPION試験:いろいろな意味で残念な研究(解説:野間 重孝 氏)-461

現在、私たち循環器科医にとって、重症患者をCCU/ICUに収容しSGカテなどによって肺動脈圧を持続モニターしながら監理するという手法は、半ば常識化している。実際Forresterの分類などは、初期研修医の段階でも当たり前の知識となっている。そのため、外来通院している心不全患者の肺動脈圧を、何らかの方法で定期的にモニターすることができれば、それはきっと治療に資するところがあるに違いない、とつい抵抗なく考えてしまいそうになる。しかし、それは証明されることが必要なのである。実際、近年では多くの組織で、よほど重症な心不全患者でない限り、持続肺動脈圧モニターはむしろ行わない方向に向かっているのではないだろうか。

冠動脈インターベンション時の血栓性の人工コントロールは可能か?(解説:後藤 信哉 氏)-460

トロンビン、Xaなどの凝固因子の機能を薬剤により阻害すると、重篤な出血イベントが増え、血栓イベントは減少する。血液凝固第VIII因子、第IX因子の欠損は、重篤な出血イベントを起こす血友病ではあるが、血友病の血栓イベントは少ないと想定される。止血、血栓形成に必須の役割を演じる血液凝固因子を、血栓イベントリスクの高い短時間のみ阻害し、血栓イベントリスクの低下に合わせて凝固因子を正常化する調節ができれば、出血イベントリスクの増加を伴わない抗血栓療法が可能となると期待された。

抗Xaの囮療法の評価をどうする?(解説:後藤 信哉 氏)-459

血液凝固検査は、細胞の存在しない液相で施行される。しかし、生体内の血液凝固反応は活性化細胞膜上、白血球上などのリン脂質膜上にて主に起こる。ワルファリンは、血液凝固因子第II、VII、IX、X因子と生体膜のphosphatidylserineの結合を阻害する効果を有した。ワルファリン服用下では、液相での血液凝固検査における凝固系の機能異常以上に、生体内における細胞膜を介した凝固系も効率的に予防した。いわゆる新規の経口抗トロンビン薬、抗Xa薬は、凝固因子のトロンビン産生、フィブリン産生の酵素作用を可逆的に阻害する。ワルファリンとは作用メカニズムが異なるので、中和作用も異なる。抗トロンビン薬ダビガトランは、液相、細胞膜上の両者にてフィブリノーゲンからフィブリンを産生するトロンビンの作用を阻害している。トロンビンに結合するダビガトランを単純に失活させれば、中和薬としての効果を期待できた。

報奨金は医師・患者双方に支払われて初めて効果が現れる(解説:折笠 秀樹 氏)-458

RCT(ランダム化比較試験)というと、薬剤の比較試験を思い出す人が多いだろうが、今回のRCTは一風変わっている。対象は、脂質異常(ベースラインLDL平均値は160mg/dL)の患者、エンドポイントも通常のLDL値であるが、介入が変わっている。LDL低下の目標を達成できたときに報奨金を出すという介入である。

TUXEDO-India試験:糖尿病患者でも第1世代DESは不要(解説:上田 恭敬 氏)-457

TUXEDO-India Trialにおいては、1,830例の糖尿病を持つPCI予定冠動脈疾患患者を、第1世代DESであるTaxus Element(paclitaxel-eluting stent)群と、第2世代のDESで最も優れた臨床成績を示しているDESの1つであるXience Prime(everolimus-eluting stent)群に無作為に割り付け、1年間の心臓死・標的血管を責任血管とする心筋梗塞発症・虚血を理由とする、標的血管再血行再建術施行の複合エンドポイントの発生頻度を比較している。Taxus Elementの非劣性を示そうとした試験であったが、複合エンドポイントの頻度が5.6% vs.2.9%とTaxus Elementで有意に高い結果となり、Xience Primeが有意に優れていることが示された。

SPRINT試験:絶対リスクにより降圧目標を変えるべきか?(解説:有馬 久富 氏)-456

SPRINT試験の結果が、国内外に衝撃を与えている。SPRINT試験は、高リスク高血圧患者を対象とした無作為化比較試験である。心血管病既往、慢性腎臓病、フラミンガムリスクスコアの高リスク、あるいは75歳以上のいずれかを認める高血圧(収縮期血圧130~180mmHg)患者9,361例が、収縮期血圧120mmHg未満を目標とする積極的降圧療法群と、140mmHg未満を目標とする通常治療群に無作為に割り付けられた。

MDI Liraglutide 試験:強化インスリン療法にGLP-1受容体作動薬を追加する意義(解説:小川 大輔 氏)-455

2型糖尿病は、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性増大により、インスリン作用不足を来し高血糖が持続する疾患である。薬物療法は通常、経口血糖降下薬で開始し併用することが多いが、進行するとGLP-1受容体作動薬や持効型インスリンを併用したり、強化インスリン療法に変更したりする。2型糖尿病の症例に強化インスリン療法を長期間続け、インスリン投与量を徐々に増やしていくと、しばしば体重の増加と低血糖症の出現が問題となる。

高齢者に対する1次予防のICDは予後を改善するか。観察研究のバイアスとの戦い(解説:矢崎 義直 氏)-454

本試験は、心不全を呈する65歳以上の高齢者を対象とし、ICD植込みによる1次予防の予後改善効果を検討した観察研究である。これまでの多くのICDに関する大規模臨床試験の対象は55歳前後であるが、実臨床では高齢者がICDの適応となることがより多い。また、通常のICDの1次予防に関する試験は、病態が安定した外来通院中に植込みの適応を決めているが、本試験では心不全増悪や非心臓疾患による入院中の症例がターゲットとなっており、よりリアルワールドを反映した観察研究といえる。

発症年齢、HbA1c、CKDが2型糖尿病患者の生命予後を規定する(解説:住谷 哲 氏)-453

2型糖尿病患者の生命予後を改善するためのアプローチとしては、(1)2型糖尿病発症予防、(2)多因子介入、(3)診断直後からの介入が有用と考えられてきた。スウェーデンにおけるコホート研究である本論文は、これらのアプローチが正しかったことを支持すると同時に、その限界をも明らかにした点で重要である。

インフルエンザ関連肺炎による入院に対する予防接種の効果は?(解説:小林 英夫 氏)-451

かつて本邦では予防接種不要論を唱える向きもあったが、CDCもWHOもインフルエンザ予防接種を推奨し、2015年には本邦でも4価インフルエンザワクチンが導入されている。すでに接種が有効か無効かを議論する時期ではなく、どのような接種対象者にどのような有用性が高いのかを検討していく段階になっている。たとえば本邦では、2009年まで妊婦への接種が推奨されていなかったことも記憶に新しい。未解決点が存在する理由として、インフルエンザ疫学研究における多くのバイアスの介在が挙げられる。対象集団設定、流行規模、抗原変異など、さまざまな因子を一定化することは困難であり、多数の研究を蓄積していくことでしか解決はなしえない。

SPRINT試験:75歳以上の後期高齢者でも収縮期血圧120mmHg未満が目標?(解説:浦 信行 氏)-450

最近の各国の高血圧ガイドラインにおいては欧米のそれを中心に、従来の降圧目標値を上方修正する傾向にある。今回の解析対象には含まれていないが、より心血管疾患のリスクの高い糖尿病合併例においては、ACCORD-BP試験の結果から、わが国以外ではおしなべて降圧目標値を上方修正した経緯がある。米国では2016年秋に改訂ガイドラインが公表される予定だが、このSPRINT試験はその傾向に再考を促す結果となり、大なり小なりこの試験の結果を包含した内容になると考えられる。

心筋梗塞のNSAIDsに関連した上部消化管出血に対するPPIの役割(解説:上村 直実 氏)-449

日本とは異なり欧米では、心筋梗塞(MI)の再発予防のために抗血栓薬を内服している患者の中で、心血管リスクを伴うにもかかわらず、関節痛などの疼痛緩和目的で非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を併用しているものが非常に多い。抗血栓薬とNSAIDsの併用は、消化管とくに上部消化管出血のリスクが増大することが知られており、消化管出血のハイリスク患者に対してプロトンポンプ阻害薬(PPI)の併用が推奨されているが、リスクが不明な通常患者に対するPPIの有用性は明らかになっていない。

カルシウムとビタミンDの摂取と大腸腺腫予防(解説:上村 直実 氏)-448

数多くの疫学的検討の結果、ビタミンDやカルシウム(Ca)の摂取量ないしは血中濃度が高いほど大腸腺腫や大腸がんのリスクが低く、両者併用による大腸腫瘍予防効果の可能性も指摘されていた。しかし、今回、実際にビタミンDおよびCa投与を用いた介入試験の結果、両者いずれの投与によっても統計学的に有意な腫瘍抑制効果は認められなかった。

高感度心筋トロポニンIが陰性ならば、胸痛患者を帰宅させて良いか?(解説:佐田 政隆 氏)-447

胸痛を主訴に救急外来を受診する患者は多い。心血管疾患ばかりでなく、食道炎や胸膜炎、気胸、整形外科的疾患など、さまざまな原因があるが、急性心筋梗塞や不安定狭心症といった急性冠症候群は、治療の遅れが予後を大きく左右するため、正確かつ迅速な診断が求められる。翌朝精査のため再来院するように指示していったん帰宅させたところ、自宅で心肺停止で発見されたという事例を耳にすることもある。そのため、循環器を専門にしていない医師でも、胸部症状を主訴に来院した患者において、急性冠症候群を診断することはきわめて重要である。

SPRINT試験:厳格な降圧が心血管発症を予防、しかし血圧測定環境が違うことに注意!(解説:桑島 巖 氏)-446

これまで、フラミンガム研究あるいはわが国の久山町研究、HOMED-BP研究などの観察研究では、収縮期血圧120mmHg以上から心血管合併症が増えてくることが明らかにされており、120mmHgが至適血圧値とされてきた。しかし、降圧薬治療でこのレベルまで下げることの是非については、多くの議論があった。とくに、高齢者では降圧目標値は高めにすべき、という意見は少なくなかった。しかし、本研究は、高齢者や冠動脈疾患の高リスク症例ほど収縮期血圧120mmHgという厳格な降圧が、140mmHgというこれまでの標準値とされたレベルまでの降圧治療よりも、心不全発症を含む心血管合併症の発症予防効果が大きく、生命予後を改善することを示し、J曲線の存在を否定した点で意義がある。

腫瘍の病期が与える影響をどう解釈するか(解説:矢形 寛 氏)-445

非常に精力的な研究であり、かつ読み応えのある論文である。治療の発達した現代においても、腫瘍径やリンパ節転移で示される病期が死亡率と関連するというデータはリーズナブルであり、それゆえ病期を正確に把握することは重要である。著者らは、そのことをもって早期発見が重要であるという結論に結び付けている。