CLEAR!ジャーナル四天王

エンパグリフロジン投与終了後もCKDの心・腎保護効果が持続、レガシー効果か?(解説:栗山哲氏)

EMPA-KIDNEY試験では、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(エンパ)の心・腎保護作用が、糖尿病性腎症(DKD)のみならず非糖尿病CKD(CKD)においても示された(The EMPA-KIDNEY Collaborative Group. N Engl J Med. 2023;388:117-127.)。今回の報告は、同試験の終了後の追跡評価(post-trial follow-up)である。その結果、エンパの投与終了後、少なくとも1年間は心・腎保護作用が持続した。この成績が先行治療終了後も臓器保護作用が持続する、いわゆるレガシー(遺産)効果の初期像を観察しているとすれば、SGLT2阻害薬の新知見の可能性がある。

心臓MRIによるLGEはLVEFより拡張型心筋症のリスクをより良く予測する(解説:佐田政隆氏)

非虚血性の拡張型心筋症(DCM)患者は心不全や心臓突然死のリスクが高く、植込み型除細動器(ICD)の植え込みで生命予後の改善が期待される。そのため、高リスク症例を正確に同定することは非常に重要であるが、DCM患者のリスク評価は、左室駆出率(LVEF)が基準とされている。しかし、最近はLVEFが保たれた心不全(HFpEF)が増加しており、LVEFが低下した心不全(HFrEF)と同等もしくは予後が悪いという報告もあり、LVEFが本当に心筋症患者のリスク評価に適切なのか疑問視されてもいた。そこで、スイスのUniversity Hospital BaselのEichhorn先生らは、心臓MRI指標と心血管アウトカムとの関連を検討した、総計2万9,687例のDCM患者を含む103件の報告のシステマティックレビュー・メタアナリシスを実施した。遅延造影(LGE)の存在とその程度は、全死亡、心血管死、不整脈イベント、心不全イベントと関連した。一方、LVEFは全死亡、心血管死、不整脈イベントと関連しなかった。非造影T1緩和時間(native T1)の延長は、不整脈イベントや主要心血管イベントと関連したが、心筋の長軸方向の収縮機能の指標であるGLSは心不全イベント、主要心血管イベントとは関連しなかった。

「サンドイッチ療法」を肺がん周術期治療の主軸に考えよ(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

この数年で肺がんの周術期に関連するエビデンスが数多く発表され、治療ストラテジーも大きく変わってきている。従来はIIB~IIIA期の非小細胞肺がんで手術が検討される場合には、術前プラチナ併用化学療法が一般的であったのに対し、肺がんの状況によって免疫治療や標的治療を周術期に行う治療に置き換わりつつある。術前治療としては、ドライバー変異陰性/不明例のII~IIIA期非小細胞肺がんに対し、術前にニボルマブ+化学療法を3コース行う「CheckMate 816試験」がある。術前にニボルマブ+化学療法を行うことで無イベント生存期間(EFS:event free survival)を化学療法単独群に比べ有意に延長(31.6ヵ月vs.20.8ヵ月)し、病理学的完全奏効(pCR:pathological complete response)も有意に増加(24.0% vs.2.2%)させた

冠動脈にワイヤーを入れて行う心筋虚血評価は、もうちょっと簡単にならないのか?(解説:山地杏平氏)

QFR(Quantitative Flow Ratio、定量的冠血流比)とFFR(Fractional Flow Reserve、冠血流予備量比)の有効性と安全性を比較したFAVOR III Europe試験が、2024年のTCT(Transcatheter Cardiovascular Therapeutics)で発表され、Lancet誌に掲載されました。FFRは、圧測定ワイヤーを狭窄遠位まで進め、最大充血を得るために薬剤投与が必要な侵襲的な検査です。一方で、QFRは冠動脈造影の画像をもとに冠動脈の3次元モデルを再構築し、数値解析を行うことで心筋虚血の程度を推定します。FAVOR III China試験などで、QFRが一般的な冠動脈造影検査のみの評価よりも優れていることが示され、欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインにおいてQFRはクラス1Bとして推奨されています。

糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原検査を用いた検診は胃がん予防に有効か(解説:上村直実氏)

わが国を含む多くの国において、大腸がん死亡を予防する目的で免疫学的便潜血検査(FIT法)を用いた大腸がん検診プログラムが実施されている。今回、台湾において2014年から2018年にかけて、FIT検診に加えて糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原検査(HPSA)を同時に施行しピロリ感染の有無を検査してピロリ除菌治療を勧める検診法により、大腸がんのみならず胃がんの発症率や死亡率に影響を与えるか否かを検討した興味深い臨床研究の結果が2024年9月のJAMA誌に掲載された。

セマグルチドで肥満のある変形性膝関節症患者の体重減少と変形性関節炎の痛みが改善するが、副作用に関する懸念が残る(解説:名郷 直樹氏)

BMIが30を超える肥満の変形性膝関節症患者を対象にGLP1受容体アゴニスト、セマグルチドとプラセボを比較し、68週後の体重と痛みの変化を1次アウトカムにしたランダム化比較試験である。体重変化について、セマグルチド群で体重減少が10.5%多く、95%信頼区間[CI]が12.3~8.6%、痛みの改善について100点満点の痛みのスコアで14.1点、95%[CI]で20~8.3と改善の幅が大きいことが報告されている。61のサイトから407例が登録されているが、1施設当たりの患者数が7例以下と少なく、施設の違いが大きな交絡因子になる可能性がある。またランダム化が偶然の影響を受けやすいかもしれない。ただ、この研究では6例を単位としたブロックランダム化を採用しており、偶然の影響に対する対応がなされてはいる。しかし、実際患者背景を見ると、女性の割合や人種構成に差があり、BMIが40以上の割合がセマグルチド群で多く、喘息患者がプラセボ群で2倍というように、かなりの違いが認められる。数百人規模の試験であるために、患者背景が十分にそろっておらず、偶然の影響による交絡因子の排除に問題がある可能性が高い。

さじ加減で過降圧や副作用を調整している医師にとっては3剤配合剤の有用性は低い(解説:桑島巌氏)

Ca拮抗薬、ARB/ACE阻害薬の単剤で降圧目標値に達しない場合には両者の併用、それでも降圧目標値に達しない場合には、サイアザイド類似薬またはサイアザイド系利尿薬の3剤併用とするのが『高血圧治療ガイドライン2019』である。その場合、3剤を1つの配合剤とすることで服薬コンプライアンスの改善が見込まれるが、本試験は、Ca拮抗薬アムロジピン2.5mg、ARB(テルミサルタン20mg)、サイアザイド類似薬(インダパミド1.25mg)の3剤を配合したGMRx2(本邦未発売)半量の有効性と安全性を、各成分2剤併用と比較した国際共同二重盲検試験である。

リラグルチドは小児肥満の治療薬として有効である(解説:住谷哲氏)

『小児肥満症診療ガイドライン2017』によると、小児肥満の定義は「肥満度が+20%以上、かつ体脂肪率が有意に増加した状態(有意な体脂肪率の増加とは、男児:25%以上、女児:11歳未満は30%以上、11歳以上は35%以上)」であり、肥満症は「肥満に起因ないし関連する健康障害(医学的異常)を合併するか、その合併が予想される場合で、医学的に肥満を軽減する必要がある状態をいい、疾患単位として取り扱う」とされる。

心臓以外の大手術前のレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬使用継続は少なくとも予後や合併症に悪影響は与えない(解説:浦信行氏)

生体の血圧維持には主に交感神経系やRAS系の関与が大きな役割を担う。大手術では麻酔による影響で交感神経系が抑制されるが、その状況でRASを抑制すると血圧維持に支障を来たして重症低血圧を引き起こし、生命予後悪化や臓器障害の原因になりかねない。一方ではRAS阻害薬は降圧作用に加えて心血管系や腎臓を中心とした臓器保護作用を有し、継続したほうが良いとの考えもある。これまでの各国のガイドラインでも、継続を推奨するものと中止を推奨するものが相半ばし、明確な結論は出ていなかった。最近の比較的大規模の臨床試験でも継続群の合併症が有意に多く、また術中低血圧発症も有意に多かったとの報告を見る一方で、術中低血圧発症は有意に多かったが合併症に差がなかったとの報告も見られる。

糖尿病、脳卒中合併高血圧でも積極的降圧が有効―とはいうが、COVID-19ロックダウン下の中国で大規模臨床試験を強行したことに驚き(解説:桑島巌氏)

糖尿病や脳卒中既往を有する高血圧患者では、収縮期血圧の降圧目標値を140mmHg以下とするよりも120mmHg以下としたほうが心血管合併症の予防効果が有意に大きい、という中国で実施された大規模臨床試験の結果である。本試験の結果は、2015年に発表された米国のSPRINT試験に規模や目的などが似たプロトコールであり、結果としての積極的降圧群が心血管死を有意に抑制した点でも類似している。大きな違いは、SPRINTでは糖尿病症例や脳卒中既往例を除外しているのに対し、本試験ではこれらの疾患を合併した症例でも積極的降圧が有用であるとの結論を導いている点である。

第二の、はたまた初めての血友病B遺伝子治療fidanacogene elaparvovec(解説:長尾梓氏)

このたび、NEJM誌にファイザーの血友病B遺伝子治療であるfidanacogene elaparvovecの第III相試験のデータが公表された。投与から最長15ヵ月まで安定した第IX因子活性の発現がみられた。同量を投与した第I/II相試験では、6年程度まで安定した第IX因子発現のデータが報告されている(学会発表のみ)。fidanacogene elaparvovecは2023年12月にカナダ、2024年4月にFDA、同年7月にはEMAですでに承認を得ている。商品名はBeqvezだそう。元はSpark Therapeuticsによって開発が始まり、2014年にファイザーが権利を取得し開発を引き継いでいる

心筋梗塞の血栓溶解療法の時代を思い出す(解説:後藤信哉氏)

1988年のLancet誌に掲載されたSecond International Study of Infarct Survival (ISIS-2) trialは、心筋梗塞の診療に劇的インパクトをもたらした。抗血小板薬アスピリン、線溶薬ストレプトキナーゼはともに急性心筋梗塞の院内死亡率を25%程度減少させ、両者の併用により死亡率はほぼ半減した。アスピリンはそのまま世界の標準治療になった。ストレプトキナーゼは重篤な出血合併症を増加させたため、出血リスクの少ない薬剤開発が模索された。ストレプトキナーゼにはフィブリン選択性がなかった。体内のフィブリンに結合し、プラスミン産生効果を発揮するt-PAに期待が集まった。

インフルエンザウイルス曝露後抗ウイルス薬の有効性(解説:寺田教彦氏)

インフルエンザウイルス曝露者に対する抗ウイルス薬の有効性を評価したシステマティックレビューとネットワークメタ解析の結果が、2024年8月24日号のLancet誌に報告された。本研究では、MEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature、Global Health、Epistemonikos、ClinicalTrials.govを用いて、11,845本の論文と関連レビューから18件の研究を確認し、このうち33件の研究をシステマティックレビューに含めている。概要は「季節性インフル曝露後予防投与、ノイラミニダーゼ阻害薬以外の効果は?/Lancet」のとおりでザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルは、重症化リスクの高い被験者において、季節性インフルエンザ曝露後、速やか(48時間以内)に投与することで症候性インフルエンザの発症を大幅に軽減する可能性が示唆され、重症化リスクの低い人では、症候性インフルエンザの発症を大幅に軽減しない可能性が示唆された。

週1回注射のインスリンは低血糖の出現に注意を (解説:小川大輔氏)

1型糖尿病患者を対象とした週1回の基礎インスリン(insulin efsitora alfa)の第III相試験の結果が発表された。1日1回の基礎インスリン(インスリン デグルデク)と比較し、有効性と安全性を比較した結果、有効性については非劣性が確認されたが、安全性については重篤な低血糖が多いと報告された。成人1型糖尿病患者692例を、基礎インスリンとしてinsulin efsitora alfaを投与する群(efsitora群)とインスリン デグルデクを投与する群(デグルデク群)に無作為に割り付け、追加インスリンとしてインスリン リスプロを両群とも併用投与した。その結果、ベースラインから26週目までのHbA1cの変化量は両群に差がなく非劣性が確認された。別の言い方をすればefsitora群に優越性は認められなかったということになる。

血栓除去術は単純CT上の大梗塞に有効か?(解説:内山真一郎氏)

発症後24時間以内の、単純CTで認めた大梗塞に血管内血栓除去術(IVT)が有効かどうかは証明されていない。TESLA試験は、前方循環の大血管閉塞があり、単純CT上大梗塞(Alberta Stroke Program Early CT Score、ASPECT2~5)を認めた、発症後24時間以内の300症例を対象とした米国での多施設共同無作為化比較試験であったが、90日後の機能予後はIVT群と通常の内科的治療のみの対照群との間で有意差がなかったという結果であった。単純CT上の大梗塞を対象とした試験としては、先にTENSION試験が行われていたが、TENSION試験では発症後11時間以内の症例に限定していたのに対してTESLA試験では半数が発症後12時間以上の症例であり、これらの症例では大梗塞による浮腫の影響がIVTの治療効果を弱めた可能性がある。

潰瘍性大腸炎に対する抗TL1Aモノクローナル抗体tulisokibartの第II相試験(解説:上村直実氏)

潰瘍性大腸炎(UC)の治療は、軽症例には従来の治療法すなわち5-ASA製剤、ステロイド、アザチオプリン、6-MP等免疫抑制薬が使用されるが、寛解が困難である症例やステロイド依存症例の中等度から重度UCの治療には、生物学的製剤や低分子化合物を用いた治療が主流になっている。厚生労働省の難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班の治療指針によると、インフリキシマブやアダリムマブなどの抗TNF阻害薬、インターロイキン(IL)阻害薬のウステキヌマブやミリキズマブ、インテグリン拮抗薬であるベドリズマブ、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のトファシチニブやフィルゴチニブなどの使用が推奨されている。しかし、UC症例の中には新たな薬剤でも十分な効果が得られない患者や副作用により治療が中断される患者が少なくなく、さらなるアプローチが必要となっている。

切除可能な胃がんに対する術前化学放射線療法の有用性は?(解説:上村直実氏)

日本における胃がん治療は、遠隔臓器やリンパ節への転移がなく、がんの深達度が粘膜層までの場合は内視鏡治療が適応であり、がんが粘膜下層以深に達しているときは通常、外科治療が選択され、手術後の病理組織学的検査の結果で必要に応じて薬物療法が追加されるのが一般的である。なお、術前検査で遠隔臓器への転移がある場合などの切除不能がんには化学療法などの治療法が検討される(日本胃癌学会編『胃癌治療ガイドライン 2021年7月改訂 第6版』)。一方、欧米諸国における胃がん診療は、わが国と大きく異なっている。医療保険制度の違いから内視鏡検査の適応がまったく異なることから内視鏡的切除が可能な早期胃がんの発見は稀であり、胃がんといえば進行がんが大半を占めている。

SGLT2阻害薬は認知症の発症をも予防できるのか?(解説:住谷哲氏)

 SGLT2阻害薬の慢性腎臓病や心不全合併2型糖尿病患者における臓器保護作用は確立している。また、最近ではSGLT2阻害薬が肝臓がんの発症を抑制するとの報告もなされている。がんと並んで高齢者糖尿病患者で問題になるのが認知症である。本論文では韓国の住民コホートデータベースを用いて、DPP-4阻害薬と比較してSGLT2阻害薬の投与が2型糖尿病患者の認知症発症を抑制するかどうかが検討された。  本研究は無作為化試験ではなく観察研究なので、残余交絡residual confoundingをいかに最小化するかが重要となる。筆者らはそのために、種々の統計学的手法(active comparator new user design、extensive propensity score matching、target trial emulationなど)を駆使して、現時点で可能な限りの補正を実施している。さらに陽性コントロールとして性器感染症、陰性コントロールとして白内障と変形性膝関節症とを用いて、結果の内的妥当性internal validityを担保している。

大動脈弁狭窄症の症例は特別扱いが必要か?(解説:山地杏平氏)

経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)を行う症例において、有意な冠動脈病変がみられた場合、経皮的冠動脈形成術(PCI)を行うべきか否かを検討したNOTION-3試験がESC(欧州心臓病学会)で発表され、NEJM誌に同時掲載されました。TAVIが必要とされる症例の多くは80歳以上の高齢者であり、動脈硬化のリスクファクターが重なることが多いため、冠動脈病変を合併することも多くみられます。TAVIが必要な、今後の予後が限られていると予想される症例において、合併している冠動脈病変に対し積極的な侵襲的治療を行う意義があるのかが検討されました。

高齢者NSTEMI治療における標準的治療法確立の難しさを示した研究(解説:野間重孝氏)

本研究は英国心臓財団の助成によって行われ、結果は本年9月にロンドンで行われた欧州心臓病学会で発表された。その内容はInterventional Cardiology誌9月号に速報のかたちで掲載された。NEJM誌に掲載の論文が同じ9月に掲載されていること、また本文中にSENIOR-RITAという名称が付いても「はじめに」の部分で簡単に触れられているのみで論文の題名からも外されていることから、戸惑われた方も多かったのではないかと推察する。通常、正式発表の論文は学会発表からいくらか遅れるかたちで出版されるのが普通なのであるが、このあたり、研究グループが本研究成果を大きく報じたいと考えた意図がうかがえる。