医療一般|page:10

新規3剤配合降圧薬の効果、標準治療を大きく上回る

 血圧がコントロールされていない高血圧患者を対象に、新たな3剤配合降圧薬であるGMRx2による治療と標準治療とを比較したところ、前者の降圧効果の方が優れていることが新たな臨床試験で明らかにされた。George Medicines社が開発したGMRx2は、降圧薬のテルミサルタン、アムロジピン、インダパミドの3剤配合薬で、1日1回服用する。アブジャ大学(ナイジェリア)心臓血管研究ユニット長のDike Ojji氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表されるとともに、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に8月31日掲載された。

がん治療薬がアルツハイマー病の進行抑制に有用?

 新しいタイプのがん治療薬が、アルツハイマー病などの神経変性疾患の治療にも有用である可能性のあることが、米スタンフォード大学医学部神経学・神経科学教授のKatrin Andreasson氏らによるマウスを用いた研究で示された。詳細は、「Science」に8月23日掲載された。  このがん治療薬は、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ1(IDO1)と呼ばれる酵素を阻害する作用を持つ。IDO1は、アストロサイトと呼ばれるグリア細胞で発現し、アミノ酸の一種であるトリプトファンを分解してキヌレニンという化合物に変換する役割を担っている。キヌレニンは、芳香族炭化水素受容体(AhR)との相互作用を通じて免疫抑制に重要な役割を果たしている。そのため、メラノーマや白血病、乳がんなどの複数のがんでは、この酵素を標的とする治療薬(IDO1阻害薬)の開発が進められている。最近の研究では、IDO1がアルツハイマー病を含む複数の神経変性疾患に関与していることが示唆されている。一方、アストロサイトは、ニューロン(神経細胞)に栄養を与え、シナプスの機能を維持する役割を担うエネルギー分子である乳酸を生成する。

アルツハイマー病における妄想観念と抑うつ症状との関連性

 妄想性思考は、精神神経症状の1つであり、アルツハイマー病の長期的な進行において頻繁にみられ、うつ病や興奮など他の精神神経症状と併発する。妄想性思考には、さまざまなタイプがあり、それぞれの妄想性思考と抑うつ症状の併発については、あまりよくわかっていない。東京慈恵会医科大学の永田 智行氏らは、アルツハイマー病における妄想性思考と抑うつ症状の併発パターンの仮説的メカニズムを検証するため、横断的研究を実施した。

毎日のナッツ摂取が認知症リスク低下と関連〜前向きコホート研究

 英国バイオバンクコホートのデータによる5万例以上の大規模コホート研究で、毎日のナッツ摂取と認知症リスク低下の関連が示された。スペイン・Universidad de Castilla-La ManchaのBruno Bizzozero-Peroni氏らは、成人におけるナッツ摂取と認知症リスクとの関係を分析した地域ベースのコホート研究結果を、GeroScience誌オンライン版2024年9月30日号に報告した。  本研究では、2007~12年(ベースライン)と2013~23年(フォローアップ)の英国バイオバンクコホートの参加者データが解析された。

世界初の眼球と部分顔面移植を受けた男性、1年後の状況は?

 世界で初めて眼球移植と部分的な顔面移植を受けた男性が、手術から1年以上が経過した現在も順調に回復していることを、米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン病院の医師らが報告した。同病院の顔面移植プログラムディレクターで形成外科部長でもあるEduardo Rodriguez氏らによるこの症例報告は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に9月9日掲載された。  この画期的な手術を受けたのは、米アーカンソー州出身の退役軍人であるAaron Jamesさん(46歳)だ。Jamesさんは、「新しい顔のおかげで、この1年で、他の人にとっては当たり前のことを楽しめるようになった。見知らぬ人にじろじろ見られることはなくなったし、再び固形物を味わい、楽しめるようになった。においを嗅ぐという単純な喜びも感じている。運転免許証に使われていた怪我をした顔の写真も新しいものに交換した」と話す。さらにJamesさんは、「私は、ほぼ普通の人間に戻って普通のことをしている。ただし、この1年が私の人生において最も変化のある年だったことは確かだ。私は二度目のチャンスという贈り物を与えられた。今では、一瞬一瞬を当たり前だとは思っていない」と言う。

セマグルチドがタバコ使用障害リスクを下げる可能性

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)のセマグルチドが処方されている患者は、タバコ使用障害(tobacco use disorder;TUD)関連の受療行動が、他の糖尿病用薬が処方されている患者よりも少ないという研究結果が、「Annals of Internal Medicine」に7月30日掲載された。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部のWilliam Wang氏らが報告した。  2型糖尿病または肥満の治療のためにセマグルチドが処方されている患者で喫煙欲求が低下したとの報告があり、同薬のTUDに対する潜在的なメリットへの関心が高まっている。これを背景としてWang氏らは、米国における2017年12月~2023年3月の医療データベースを用いたエミュレーションターゲット研究を実施した。エミュレーションターゲット研究は、リアルワールドデータを用いて実際の臨床試験をエミュレート(模倣)する研究手法で、観察研究でありながら介入効果を予測し得る。

スマートマスクで呼気から健康状態をチェック

 実験段階にある「スマートマスク」によって、吐いた息からその人の健康状態をチェックできる可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。バイオセンサーが取り付けられたこのシンプルな紙製のマスクは、呼吸器疾患や腎臓病などさまざまな健康問題のモニタリングに使える可能性を秘めているという。米カリフォルニア工科大学(CalTech)医用工学教授のWei Gao氏らによるこの研究の詳細は、「Science」8月30日号に掲載された。

冠動脈疾患診断後、禁煙で発作リスク半減も減煙では無効

 心臓病と診断された後に禁煙すると、心臓発作や心臓関連の死亡リスクが5年間で44%低下する可能性を示すデータが報告された。ただし、喫煙本数を減らしただけでは、この効果は期待できないという。ビシャ・クロード・ベルナール病院(フランス)のJules Mesnier氏らの研究の結果であり、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表された。  この研究では、安定冠動脈疾患患者の国際レジストリ(CLARIFY)のデータを用いて、冠動脈疾患患者の喫煙状況が、その後の心血管イベントリスクに与える影響が評価された。冠動脈疾患の診断から平均6.5年経過した患者3万2,378人を5年間追跡し、心血管死または心筋梗塞の発症で定義される主要心血管イベント(MACE)の発生率を検討した。登録時点で1万3,366人(41.3%)は喫煙歴がなく、1万4,973人(46.2%)は元喫煙者、4,039人(12.5%)は現喫煙者だった。冠動脈疾患診断時に喫煙していた元喫煙者のうち、72.8%は翌年までに禁煙していたが、27.2%は喫煙を継続していた。

ワクチン接種はかかりつけ医に相談を/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は10月2日、定例会見を開催した。会見では、松本会長が先日発足した石破 茂内閣誕生に言及し、医師会は地域を支える重要な医療インフラとして政権と一体となって政策を推進すること、防災省の提案もあるように医師会も災害対策を重要な事項と考えていること、医療・介護業界が物価高騰を上回る賃上げが実現できることなどを要望し、今後も諸政策で連携していくことを語った。また、先般発生した能登半島豪雨への支援金について10月末まで医師会員、一般からの寄付を募っていることを説明した。

pMMR/MSS大腸がん、免疫検査陽性例はペムブロリズマブ上乗せが奏効(POCHI)/ESMO2024

 pMMR(ミスマッチ修復機能正常)およびMSS(マイクロサテライト安定性)の転移大腸がん(mCRC)は免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果が低いとされ、現在の1次治療は化学療法と分子標的薬となっている。一方、pMMR/MSS 大腸がんの約15%は腫瘍浸潤リンパ球(TIL)高値であり、ICIの感受性がある可能性がある。さらにオキサリプラチンなどの化学療法によって誘導される免疫原性細胞死や、ベバシズマブなどの血管新生阻害薬による免疫調整によってICIの有効性が高まる可能性もある。  こうした背景から、免疫検査で陽性だった切除不能pMMR/MSS mCRC患者を対象に、1次治療としてのCAPOX+ベバシズマブにペムブロリズマブを上乗せするレジメンの有効性を評価するPOCHI試験が計画された。欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)でフランス・ポワティエ大学病院のDavid Tougeron氏が本試験の暫定の解析結果を発表した。

高齢者へのImpellaの安全性・有効性~J-PVADレジストリより/日本心臓病学会

 補助循環用ポンプカテーテルImpellaは、左室機能を補助するための経カテーテル的補助人工心臓(PVAD:percutaneous ventricular assist device)で、唯一、国内承認されているものだ。2017年の承認から7年が経過し、国内の高齢者への安全性や有効性が徐々に明らかになってきている。今回、樋口 亮介氏 (榊原記念病院 循環器内科)が「心原性ショックを合併した後期高齢者におけるImpellaの成績:J-PVADレジストリからの検討」と題し、9月27~29日に仙台で開催された第72回日本心臓病学会学術集会の高齢化社会における循環器診療に関するシンポジウムで発表した。

やりがい?ワークライフバランス?若手医師が専攻領域を選んだ理由・変更した理由

 医師の総数は増加をしている中、外科などの一部診療科の増加が乏しいことに対して、どのような対策が考えられるか。9月20日に開催された厚生労働省の「第6回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」では、これらの課題を考えるうえでの参考資料として、厚生労働科学特別研究「日本専門医機構における医師専門研修シーリングによる医師偏在対策の効果検証」から、「現在の基本領域を選択した理由」や「希望していた基本領域を選択しなかった理由」について聞いた専攻医へのアンケート結果が示された。本稿では、その内容の一部を紹介する。

国内初HIV曝露前予防(PrEP)適応取得、その意義と残された課題/ギリアド

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、2030年までにHIV流行を終結するという目標を発表しているが、日本のHIV流行対策は世界に比べ後れを取っている状況だ。  ギリアド・サイエンシズ(以下、ギリアド)は2024年8月28日付のプレスリリースで、HIV-1感染症の曝露前予防(以下、PrEP;Pre-Exposure Prophylaxis)としてツルバダ配合錠(一般名:エムトリシタビン・テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩)(以下、ツルバダ)が一部変更承認を取得したと発表した。これによりツルバダは、日本で唯一のHIV-1感染症に対する治療と予防の両方の承認を取得した薬剤となった。  9月25日に行われたギリアド開催のメディアセミナーでは、「PrEP承認がもたらすHIV/AIDSの新展開」をテーマとした議論が交わされた。

統合失調症における抗精神病薬使用と心臓突然死との関連

 台湾・高雄医学大学のKun-Pin Hsieh氏らは、抗精神病薬使用と心臓突然死リスクとの関連を明らかにするため、人口ベースのケースコントロール研究を実施した。Psychiatry Research誌オンライン版2024年9月2日号の報告。  2011〜20年の国民健康保険研究データベースおよび台湾の複数死因データを用いて、本研究を実施した。対象は、2020年までに心臓突然死が発生した初発統合失調症患者。症例と対照は、年齢、性別、統合失調症診断年により1:4でマッチングした。抗精神病薬には、経口抗精神病薬(OAP)の連日投与、長時間作用型注射剤抗精神病薬(LAI)、OAPとLAIの併用を含めた。

慢性不眠症の長期寛解のために最初に選ぶべき治療選択は

 東京大学の古川 由己氏らは、慢性不眠症の成人を対象に、不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)、薬物療法、CBT-Iと薬物療法の併用療法の長期的および短期的な有効性、安全性を比較することを目的に、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2024年8月26日号の報告。  2023年12月27日までに公表された研究を、複数のデータベースより検索した。未治療の慢性不眠症患者を対象に、CBT-I、薬物療法、CBT-Iと薬物療法の併用療法の少なくとも2つを比較した試験を対象に含めた。エビデンスの信頼性の評価には、CINeMAを用いた。主要アウトカムは、長期寛解とした。副次的アウトカムは、長期または短期間のすべての原因による脱落、自己報告による睡眠継続性とした。頻度論的(frequentist)ランダム効果モデルネットワークメタ解析を実施した。

HR陽性早期乳がん、内分泌療法中断中の出産・授乳の安全性(POSITIVE)/ESMO2024

 妊娠・出産を希望するホルモン受容体陽性早期乳がん患者における、これまでで最大規模の前向きコホート研究で、内分泌療法を中断して出産した女性の約3分の2が母乳育児をしており、短期的には母乳育児の乳がん無発症期間(BCFI)への影響は認められないことが明らかになった。イタリア・European Institute of OncologyのFedro A. Peccatori氏が、POSITIVE試験の副次評価項目についての結果を、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)で報告した。  POSITIVE試験は、乳がんStageI~IIIで術後補助内分泌療法期間が18~30ヵ月の、妊娠を希望する42歳以下の女性を対象として行われた。2014年12月~2019年12月に1ヵ月以内に内分泌療法を中止した女性が組み入れられ、3ヵ月間のウォッシュアウト期間、妊娠・出産(±母乳育児)のための最大2年までの休薬期間を経て内分泌療法を再開した。

フルキンチニブ、切除不能大腸がんに承認/武田

 武田薬品は2024年9月24日、VEGFR1/2/3選択性の経口チロシンキナーゼ阻害薬フルキンチニブ(商品名:フリュザクラ)について、「がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」を効能又は効果として、厚生労働省より製造販売承認を取得したと発表。  今回の承認は主に、米国、欧州、日本およびオーストラリアで実施された国際共同第II相FRESCO-2試験の結果に基づいている。  同試験では、転移を有する既治療の大腸がん患者を対象としてフルキンチニブ+ベストサポーティブケア(BSC)群とプラセボ+BSC群を比較検討した。結果、有効性の主要評価項目および重要な副次評価項目はすべて達成し、前治療の種類にかかわらず、フルキンチニブ投与患者で一貫したベネフィットが示された。

眼圧が基準範囲内でも高ければ高血圧発症の危険性が高くなる

 眼圧と高血圧リスクとの関連性を示すデータが報告された。眼圧は基準範囲内と判定されていても、高い場合はその後の高血圧発症リスクが高く、この関係は交絡因子を調整後にも有意だという。札幌医科大学循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座の古橋眞人氏と田中希尚氏、佐藤達也氏、同眼科学講座の大黒浩氏と梅津新矢氏らの共同研究によるもので、詳細は「Circulation Journal」に7月24日掲載された。  眼圧が高いことは緑内障のリスク因子であり、21mmHg以上の場合に「高眼圧」と判定され緑内障の精査が行われる。一方、これまでの横断研究から、高血圧患者は眼圧が高いことが知られている。ただし縦断研究のエビデンスは少なく、現状において眼圧の高さは高血圧のリスク因子と見なされていない。そのため眼圧は短時間で非侵襲的に評価できるにもかかわらず、もっぱら緑内障の診断や管理という眼科領域でのみ測定されている。この状況を背景として古橋氏らの研究チームは、健診受診者の大規模データを用いた後方視的縦断研究によって、眼圧と高血圧リスクとの関連を検討した。

糖尿病は脳を老化させるが生活習慣次第で抑制も可能

 脳MRIに基づく新たな研究により、糖尿病が脳を老化させる可能性のあることが分かった。特に、血糖コントロールが良くない場合には、実際の年齢に比べて平均4歳、脳の老化が進んでいた。一方、健康的なライフスタイルにより、脳の若さを保つことができることも示唆された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のAbigail Dove氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes Care」に8月28日掲載された。  論文の筆頭著者であるDove氏は、「画像所見上、糖尿病患者の脳が実年齢に比べて高齢に見えるということは、通常の加齢プロセスからの逸脱を意味しており、認知症の早期警告サインと見なせる可能性がある」と述べている。同氏の指摘どおり、以前から2型糖尿病は認知症のリスク因子の一つとして認識されてきた。しかし、認知症発症前の人の脳に、糖尿病や前糖尿病がどのような影響を与えているのかという詳細については、不明点が少なくない。