教授 富田剛司 先生「全身の疾患が眼に現れることは明確 眼を診るのは診断の第一歩である」

公開日:2011/03/14

1955年2月4日生まれ。80年岐阜大学医学部卒業。専門分野は眼科で主に緑内障。86年緑内障学研究のため米国留学。92年客員研究員としてフィンランド留学。93年岐阜大学医学部眼科講師。99年東京大学医学部眼科助教授。07年東邦大学医療センター大橋病院眼科診療部教授就任。日本緑内障学会理事、データ解析委員会委員、ガイドライン作成委員会委員。

眼科医の魅力

眼科医というのは自分で所見を取って、そのまま自分で治療ができます。外科疾患ですと最初は内科で診断を受けても、腫瘍が発見された場合、薬物治療以外は外科医の担当となります。ですが、眼科は診断から治療まで一貫して担当することができるのです。

眼科というと全身を診る医師のイメージから離れているので魅力を感じないという医学生もいますが、実は私もそう考えていました。眼底にはいろいろな変化が現れてきますので、それを診て今までわからなかった身体の状態、もしくは病気が発見されることが多々あります。眼底の変化から高血圧や糖尿病などが発見されることも多いのです。

これらの病気を眼科医に指摘されて、あらためて内科を受診することは少なくありません。循環器内科の先生や生活習慣病などを専門にしている先生からは「眼科医が常駐していない病院は不安だ」という意見を聞いたこともあるほど、内科医の先生方からは頼りにされていると自負しています。

医師にとって眼を診るのは診断の第一歩であり大切な所見過程の一つです。しかし、私見ではこのような診断方法が多少なりとも軽視されているのではないかと危惧していますし、眼の所見を取らない医師がいることについては嘆かわしいことと思っています。

人は眼をつぶると80%の情報量がさえぎられるそうです。哲学的にいうと、眼を診ているというのは存在すべてをみている。このような意味でも、眼科医は誇りを持ってよいと思います。

眼の診断からわかること

たとえば眼底出血の場合、網膜の浅い部分からの出血であれば、視神経の疾患を疑うか、高血圧症や動脈硬化症などの疾患も考えられます。また、深い層からの出血であれば糖尿病や貧血、白血病などが疑われます。このように全身疾患が眼に現れることは明確です。

さらに、がんの転移が眼に現れてわかる場合もあります。「眼が見え難くなった」という症状を訴えて来診した患者さんの場合、明らかに眼が原発の腫瘍ではない腫瘍が認められました。これは身体のどこかに悪性腫瘍があるに違いない、となって内科系の検査をしたところ、がんが発見された例がありました。また、自覚症状はなく、健康診断ということで視野検査をしたところ異常がみつかりましたが、それは眼の異常でないことは明白で、結果、脳腫瘍が発見された例もありました。視野の欠損にはパターンがあって、眼病からなるものとそうでないものは明確にわかります。

このようなケースがままあるので、眼科学会としては40歳を過ぎたら年に一度は眼の検診を受けてほしい旨を推奨しています。
「眼は心の窓」といいますが、極端にいえば病態を知るための身体の窓でもあるのです。

40歳以上は20人に1人が罹患する緑内障

緑内障は眼圧の影響を強く受けて視神経が障害される疾患で、なかなか完治させることが難しい病気です。放置すれば、重篤な視覚障害をもたらします。ですから、早期に発見し眼圧を下げて軽度のうちに進行を止めることが重要です。

近年40代以上の20人に1人は緑内障があるともいわれるほど身近な病気ですので、何らかの理由で眼科を受診した患者さんの中に緑内障を疑われる人は意外と多いのです。

また、急性緑内障の場合は激烈な症状として、強い頭痛、嘔吐など内科的発作が現れます。これらの症状を訴えて救急に行った場合、たいていは脳出血などを疑ってCTやMRIの検査をします。その後症状が落ち着いたら、脳神経外科の受診を勧められるでしょう。しかし、まったく眼の診断がなされず、緑内障も疑われなかったために、治療が遅れて残念な結果になってしまった例も少なからずあります。

どの科の専門であっても医師ならば必ず眼科の講義は受けているはずですが、眼の疾患がおざなりになっている現状を危惧せずにはいられません。

緑内障診断の正確性を高めたい

緑内障は眼球の内圧により、視神経が圧迫または障害されて、視野狭窄や視力が低下する病気です。検査は眼圧測定、視野検査、眼底検査が行われますが、日本人の場合、眼圧は正常なのに視神経が障害される「正常眼圧緑内障」が多いので、早期発見のためには視神経乳頭の状態をみる眼底検査が重要です。しかし、従来の眼底検査は平面写真で診断するため、視神経乳頭の凹み具合の判定は、眼科医の技量・経験によって判断が異なるという問題がありました。

私が研究の主体としているのは、誤診が多いとされている緑内障の診断について、これをより正確にするための標準化――スタンダリゼーションを目指しています。そこで、客観的かつ的確に眼底を診断する手段として生まれたのが、眼底三次元画像解析装置です。これはまだ完成には至っていませんが、緑内障の診断が得意ではないような方、または緑内障との判断が難しい場合や自信がない場合、装置の結果をみることによって判断材料が増えると考えています。補助的な診断材料としては有効であると思います。もちろん、機械ですべて判断できればそれに越したことはありませんが、それはこれからの課題です。

適切に診断し、適切に治療することが難しい病気であることは認識しておりますので、経験を積んだ指導医のもとで学ぶことが必要だと考えております。また、これは緑内障学会としてきちんとした指導システムを構築しなければいけないのではないかとも考えております。

医学生の皆さんへ

白内障の手術であれば自らの執刀が20件以上、助手であれば100件以上の実績が前提になりますが、ほとんどの人が後期研修医から5~6年で専門医になれます。眼科医は視覚が何らかの理由によって衰えた患者さんが、自分の診断、治療によって治癒していくのをつぶさに確認できる。私自身もそうでしたが、医師となって比較的早い時期に達成感を得られる可能性が高いと思います。研修を始めてから10年ほどで患者さんを満足させる十分な医療技術を身につけることができるのは、眼科医ならではの特徴です。

さらに、マイクロサージェリーは実体顕微鏡(マイクロスコープ)を使うため老眼の影響を受けないので、現役でいられる時間が長いのです。医師にはなりたいけど手術には向いていないという人ならば、網膜の病気であってもレーザー治療などメスを持たない眼科の診療もあります。逆に、自分は手術が好きだという人であったら、それを主に選択することもできるのです。医学生の皆さんは、とかく近い未来しか考えていない面があり、20年後、30年後の自分のビジョンを持っている人は少ないようです。長い目でみた場合、眼科ほど息が長く医師としての活動が行える分野はないように思えます。

また、家庭の事情があって出産などによる数年のブランクがあっても復帰しやすいのも眼科医です。

当大学の眼科で行っている最新治療としては、網膜黄斑症などの疾患に対して、硝子体の手術を行うのですが、その後、眼の中に空気を入れて穴を塞ぎます。その場合、術後1週間はうつ伏せ状態でいなくてはなりませんでした。これは患者さんにとって大変な負担です。そこで、うつぶせ状態でなくてもよい状態の研究を始めています。

また、学術活動にも力を入れており、国内学会での研究発表はもとより、海外での国際学会にも積極的に参加し、高い診療レベルを維持するよう努めています。

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