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2型糖尿病患者におけるエンパワーメントと治療意思決定支援ツール(decision aids)(解説:住谷 哲 氏)-271

高血糖、高血圧、高コレステロール血症、喫煙のすべてに介入する多因子介入治療(multifactorial approach)が2型糖尿病治療において重要であることは論を俟たない1)。 しかし、この治療が成功するか否かは、患者自身が治療の意義を理解し、多くの治療介入に積極的に参加することに依存している。われわれ医療従事者が患者と向き合うのは診察室におけるごく短時間のみであり、その他の時間はすべて患者の自己管理下にある。この患者の自己管理能力を向上させることで治療を成功に導こうとする考えがエンパワーメント(適切な日本語訳がない)である。 ここでの自己管理能力とは、医療従事者の指示に従うだけではなく、医療従事者との対話を通じて、治療法そのものを自己決定する(shared decision making)ことをも含む広い概念である。本論文は治療意思決定支援ツール(decision aids)が、2型糖尿病患者のエンパワーメントに及ぼす影響を検討したものである。 方法はオランダ北部の18のプライマリケアクリニックに通院中の344例の2型糖尿病患者を通常診療群と治療意思決定支援ツール提供群に無作為に振り分け、1次エンドポイントとしては、治療ゴール達成への意思決定およびゴール達成に対する患者のエンパワーメントの程度をエンパワーメントスコアにより評価した。2次エンドポイントは経過を通じての高血糖、高血圧、高脂血症およびアルブミン尿に対する処方強化および禁煙とした。治療意思決定支援ツールは4つの領域(血糖、血圧、コレステロール、喫煙)から構成されており、それぞれHbA1c<7.0%、収縮期血圧<140mmHg、LDLコレステロール<2.5mmol/L(100mg/dL)、禁煙がゴールに設定されていた。さらに個々の患者のリスクをUKPDS risk engine2)を用いて計算し、たとえば「あなたと同じ年齢、性別の2型糖尿病患者さん100人の中で、16人が今後5年間に心筋梗塞になり、84人は心筋梗塞になりません。しかし、現時点ではあなたが、そのどちらに属しているかはわれわれにはわかりません。」のような説明が提供された。 さらに、4つの領域のいずれがゴール未達成であるか、それに対する治療を受けることによるbenefit およびharm、さらに治療の有効性に関する不確実性についても説明された。探索的検討として、情報提供がパソコンの画面上で提供される群と印刷された紙媒体で提供される群、および詳細情報がすべて提供される群と簡略化された情報が提供される群が2x2要因デザインを用いて比較された。 結果は1次エンドポイントには両群に差を認めなかった。2次エンドポイントについても、紙媒体を用いた治療意思決定支援ツール提供群において高脂血症薬の投与が強化されたのみであった。これらの結果は、2型糖尿病患者に、通常の診療に加えて治療意思決定支援ツールを追加してもエンパワーメントには結びつかないこと示している。しかし、治療意思決定支援ツールによる介入を実際に受けたのが同ツール提供群の46%に過ぎず、結果の解釈には慎重を要する。 世界中で最も多数の患者からの相談を受けている医療従事者はGoogleである、と皮肉まじりにいわれるように医療においてインターネットは必要不可欠になりつつある。もし今回の検討で用いられた治療意思決定支援ツールが有効であったならば、インターネットを通じてすべての2型糖尿病患者に情報が提供され、われわれの日常診療も大きな影響を受けたかもしれない。その点で、今回の結果はわれわれの日常診療の継続に少しの安心感を与えるといえよう。 さらに、論文の主旨とは離れるが、欧米におけるエンパワーメントとわが国のそれとの違いが浮き彫りにされている点も注目してよい。わが国でのエンパワーメントは、「いかにして患者のやる気を引き出すか?」のように情緒的な点に比重が置かれており、具体的な治療目標(HbA1c<7.0%のような数値目標)と、それを達成することによるアウトカム改善のエビデンスとを医療従事者と患者との間で共有したうえでのshared decision makingが行われているとはいい難い状況にある。エンパワーメントもEBMから無縁ではないことを再認識する必要があるだろう。

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EBMがもたらした、究極の“心血管イベント抑制”薬ポリピルは、実現するか(解説:石上 友章 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(224)より-

Lawらは、2009年BMJ誌に、冠動脈疾患、脳卒中の発症の予防に対する異なるクラスの降圧薬の効果を定量的に決定するとともに、降圧薬治療の適切な対象を検討する目的で、5種類の主要降圧薬群(チアジド系薬剤、β遮断薬、ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬)を対象にした、1966年~2007年の間の臨床試験、全147試験のメタ解析を行った結果を報告した1)。 そのなかで、コホートデータと短期間の介入研究のデータから、降圧薬の効果は、年齢、治療前血圧、降圧薬服薬数にかかわらず、降圧(収縮期、拡張期)の程度に依存していることを明らかにするとともに、3種類の降圧薬を各標準用量の半量で併用すれば、同じ対象集団にいずれかの降圧薬を単剤標準用量にて投与した場合に比べ、冠動脈疾患・脳卒中のリスクはより低下するだろうと予測している。著者らはこの結果から、個々に血圧を測定し適応患者のみを治療するのではなく、一定の年齢を超えたらすべての人を対象に血圧を下げることを提案している。 同時期のLancet誌には、固定用量配合剤(Polypill)を用いた、The Indian Polycap Study(TIPS)の結果が報告されている2)。TIPSの観察値は、Law and Waldらの理論値と、必ずしも一致していないが、両論文によって生活習慣病に対する“populational approach”による、心血管病リスク抑制の戦略の正当性が、一部証明されたといえる。 ニュージーランドで行われた、Selakらの研究は、Polypillをプライマリ・ケアの現場で行った最新の研究の結果を報告している3)。アドヒアランスの改善はもたらされているものの、リスク因子のコントロール、心血管イベントの抑制には差がない。Polypill群で、37%が投与を中断しており、副作用による中断が72%であった。 Polypillは、公衆衛生的な効果をもたらしても、個人衛生には直結しないことを、あらためて示唆している。当分の間は、生活習慣病に対する医師の個々の裁量は、尊重されるのだろうか。

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「降圧薬服用患者が大幅に減る見通し、というより減らした」というほうが正確かもしれない:EBMは三位一体から四位一体へ(コメンテーター:桑島 巌 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(203)より-

今、世界の先進国は高齢化とともに医療費の膨張に頭を悩ませている。そのような中で、米国では2003年のJNC7から11年ぶりに2014年版ガイドラインが発表された。その中では、JNC7に比べて慢性腎臓病や糖尿病を合併高血圧、そして高齢者高血圧などの降圧目標基準が大幅に緩和された。 この10年の間には、このような疾患に対してより厳格な降圧が必要であるという大規模臨床試験の結果が相次いで発表されている。にもかかわらず、降圧目標値が緩和されたのはいかにも不自然である。当面の薬にかかる医療費を抑制しようとする国、あるいは企業の思惑があるのかもしれない。 本論文は、米国内ガイドラインにおける降圧目標緩和によって降圧薬服用者は60歳未満では20.3%から19.2%に減り、60歳以上では68.9%から61.2%への減少が見込めるといった試算をしている。降圧薬服用者が減少する見込みというよりも、減少させたと解釈するほうがよいかもしれない。 この降圧目標値の緩和でどのくらいの経済効果が出るかといった露骨な計算はさすがにしていないが、この変更が吉とでるか、凶とでるかは10年後にならなければわからない。一度、脳卒中や心筋梗塞になれば血栓溶解療法やステント治療、血管内視鏡、補助心臓といった高度医療で膨大な医療費がかかることまでは、この論文は見通してはいない。あるいは今回の基準値緩和は、脳卒中や心筋梗塞患者が増えることで、経済的に潤う米国の先端医療機器メーカーにとっては歓迎すべき試算なのかもしれない。むしろ、そちらからの圧力であることも否定できない。 Evidence-based Medicineは、臨床試験によるエビデンス、医師の裁量権、患者の臨床的背景の三位一体といわれているが、高齢化社会の到来で経済的効率が入りこむことで、四位一体の時代になったことをうかがわせる論文である。

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CliPS -Clinical Presentation Stadium- @TOKYO2013

第1回「突然の片麻痺、構音障害」第2回「幸運にも彼女は肺炎になった」第3回「診断の目利きになる」第4回「Good Morning, NY!」第5回「不明熱」第6回「Ooops! I did it, again... 難しい呼吸困難の鑑別」第7回「Shock」第8回「外見の医療」第9回「What a good case!」第10回「首を動かすと電気が走る」第11回「木を診て森も診る」第12回「なぜキズを縫うのか」第13回「半年間にわたる間欠的な腹痛」第14回「高齢者高血圧管理におけるUnmet Medicak Needs: 『血圧変動』に対してどう考える?」第15回「患者満足度」第16回「ガイドラインって、そんなに大事ですか?」第17回「EBM or XBM?ーまれな疾患における診療方針決定の一例ー」第18回「原因不明を繰り返す発熱」第19回「脳卒中後の固定した麻痺 ―数年経過しても治療により改善するのか?―」第20回「眼科での恐怖の糖尿病」第21回「顔が赤くなるのは、すれてない証拠?」第22回「失神恐るるに足らず?」第23回「背部痛で救急搬送された82歳男性」第24回「免疫不全の患者さんが歩いてきた」第25回「初発痙攣にて搬送された 22歳女性  痙攣の鑑別に難渋した1例」【特典映像】魅せる!伝える!プレゼンの極意 『CliPS(Clinical Presentation Stadium)』は、限られた時間の中で、プレゼンター自身が経験した「とっておきの患者エピソード」や聞いた人が「きっと誰かに話したくなる」興味深い症例を「症例の面白さ(学び)」と「語りの妙(プレゼンスキル)」で魅せるプレゼンテーションの競演です。プレゼンターは、ケアネットでお馴染みの達人講師から若手医師・研修医まで。散りばめられたクリニカルパール。ツイストの効いたストーリー。ユーモアとウィットに富んだプレゼンの数々は、年齢、診療科にかかわりなく、医療者のハートをつかむことでしょう。あなたも『CliPS』の世界を楽しみ、学んで下さい!第1回「突然の片麻痺、構音障害」このタイトル『突然の片麻痺、構音障害』のような患者さんをみたとき、どのようなことを思い浮かべるでしょうか? おそらく診断は脳梗塞で良いだろうと。そして、治療計画、リハビリ、再発予防、介護状況など様々な側面にまで考えは及ぶでしょう。そういった様々な脳梗塞のマネージメントのうち、一番最初の診断のところでしていただきたい「あること」についてお話しします。患者さんの血液を採った時、一滴だけあることに使っていただきたいのです。第2回「幸運にも彼女は肺炎になった」近年、認知機能障害の患者さんに出会う機会は増えています。そして、その際にはしばしば「病歴のとりづらさ」や「診察への抵抗」に苦慮します。今回登場された伊藤先生も、正直言って、それらの患者さんには煩わしさや苦手意識を感じていたそうです。今回ご紹介する患者さんに出会うまでは・・・。治らないと思っていた病気が治るって素晴らしい!そんな症例です。第3回「診断の目利きになる」山中先生が日々の診断で気をつけていることはなんでしょうか?「はじめの1分間が何より大切」、「患者さんと眼の高さを合わせる」、「患者さんは本当のことを言ってくれない」、「キーワードから読み解く」、「診断の80%は問診による」、「典型的な症状をパッケージにして問う」など。診断の達人である山中先生の『攻める問診』メソッドの原点がここに表されています。患者さんの心をつかみ、効果的な病歴聴取や診察を行うためのさまざまなTIPSをご紹介いただきます。山中先生の話芸の素晴らしさにグイと引き込まれること必至です。第4回「Good Morning, NY!」岡田先生が、研修時代を過ごされたニューヨークでのお話。異国の病院で生き残るために、「日本人らしさ」と一貫した態度で信頼を勝ち得たそうです。2年目に出会った原因不明で発熱が続き、意識不明の患者さんとの感動的なエピソードを語っていただきます。第5回「不明熱」 不明熱をテーマに、膠原病科の岸本先生が、2ヶ月間も熱が下がらず、10kgの体重減、消化管に潰瘍、動脈瘤のある、36歳男性の症例をご紹介いただきます。学習的視点も踏まえた岸本先生の分かりやすいプレゼンテ-ションも必見です。第6回「Ooops! I did it, again... 難しい呼吸困難の鑑別」 呼吸困難をテーマに2つの症例を紹介いただきます。呼吸困難で典型的な疾患が心不全と肺炎。鑑別のキーポイントは、検査所見で十分でしょうか。一見ありふれた症例も、SOAPの順序を誤ると、、、非常に重要なメッセージが導き出されます。第7回「Shock」とびきり印象的なショックの症例を紹介します。イタリアンレストランに勤務されている61歳の男性。主訴は「気分が悪い」。ショック状態ですが、熱はなく、サチュレーションも正常。不思議なことに、毎年1回、同様の症状がでると。さて、この患者さんは?第8回「外見の医療」形成外科医の立場から人の「外見」という機能を語ります。顔の機能のうち「外見」という機能は、生命に直接関係ないものの、社会生活を営む上で需要な役割を果たしています。近い未来、「顔」の移植ということもあり得るのでしょうか?第9回「What a good case!」症例は29歳の女性。発熱と前胸部痛を主訴に見つかった肺多発結節影の症例。診断は?そして、採用された治療選択は?岡田先生の分かりやすいトークと意外性と重要な教訓に満ちたプレゼンテーションをお楽しみください。第10回「首を動かすと電気が走る」山中先生のかつて失敗して「痛い目」にあった症例です。60歳の男性で、主訴は「首を動かすと電気が走る」とのこと。しかし、発熱、耳が聞こえない、心雑音など異常箇所が増えていきます。せひ心に留めていただきたい教訓的なプレゼンテーションです。第11回「木を診て森も診る」46歳男性の糖尿病患者さん。 HbA1C が,この半年間で10.5%まで悪化。教育入院やインスリン導入を勧めるも、「それは出来ない」と強い拒絶。この背景にはいくつかの社会的・心理学的な要因があったのです。家庭医視点のプレゼンテーションです。第12回「なぜキズを縫うのか」なぜ傷を縫うのでしょうか? 額の傷を昨日縫合されたばかりの患者さんが紹介されてきたとき、菅原先生はすぐに抜糸をしてしまいました。なぜ?傷の治るメカニズムや、縫合のメリット/デメリットなどを形成外科のプロがわかりやすく解説します。第13回「半年間にわたる間欠的な腹痛」慢性的な下部腹痛の症例。半年前から明け方に臍周囲から下腹部の張るような痛みで覚醒するも、排便で症状は改善。内視鏡検査では大腸メラノーシスと痔を指摘されたのみで、身体所見も血液検査も異常なし。過敏性腸症候群?実際は・・・?第14回「高齢者高血圧管理におけるUnmet Medicak Needs: 『血圧変動』に対してどう考える?」高齢者の血圧の「日内変動」からいろいろなものが見えてくる。ある1ポイントの血圧だけでなく、幅広い視点からの血圧管理が必要。明日の高血圧治療にすぐに役立つプレゼンテーション!第15回「患者満足度」患者満足度にもっとも影響を与える因子は「医師」。その「医師」は患者満足度を上げるには、何をすればいいのでしょうか。岸本先生が研修医時代に学んだ心構えとは?第16回「ガイドラインって、そんなに大事ですか?」ガイドラインはどのくらい大切なのでしょうか。プラセボ効果の歴史を振り返りつつ、ガイドラインの背景にあるものに注目。第17回「EBM or XBM?ーまれな疾患における診療方針決定の一例ー」EBMだけでは対応できない稀なケースには、XBM(経験に基づく医療)で治療に臨まなければなりません。さて、今回の症例では?第18回「原因不明を繰り返す発熱」総合診療科の外来では「不明熱」の患者さんが多く訪れます。今回の「不明熱」に対して、記者出身の医師がしつこく問診を繰り返した結果、浮かび上がってきた答えは・・・。第19回「脳卒中後の固定した麻痺 ―数年経過しても治療により改善するのか?―」ボツリヌス療法と、経皮的電気刺激(TENS)とを併用して治療を行った症例についての報告です。さて、まったく動かすことのできなくなった患者さんの上肢には、どの程度の改善が見られたのでしょうか。第20回「眼科での恐怖の糖尿病」眼科医の視点から糖尿病を考えてみます。日本人の失明原因の第2位(1位の緑内障と僅差)が糖尿病網膜症となっています。内科医と眼科医の連携はまだまだ十分ではないと言えそうです。第21回「顔が赤くなるのは、すれてない証拠?」症例は70代男性の胸痛。1~2週間チクチクした鋭い痛みが一日中持続、緊急性は低そうです。検査をしても特徴的な所見に乏しく決め手に欠けました。さて、どんな疾患なのでしょう?実は大きなヒントがこの一見奇妙なタイトルに凝縮されているのです。第22回「失神恐るるに足らず?」患者が突然、目の前で意識を失って倒れたとします。まず一番最初に行うべきことは?「失神」は原因疾患によって予後が異なるため早期の正しい見極めが重要です。76歳女性の症例を題材に、日常臨床で遭遇する「失神」への対応を解説していただきます。第23回「背部痛で救急搬送された82歳男性」症例は82歳男性。背部痛を主訴に救急外来に搬送。しかしバイタルや検査では異常はなく痛み止めのみ処方。その一週間後に再び搬送された患者さんは激しい痛みを訴えているが、やはりバイタルは安定。ところが…。研修医時代の苦い経験を語ります。第24回「免疫不全の患者さんが歩いてきた」症例は59歳男性。悪性関節リウマチ、Caplan症候群という既往を持ち、強く免疫抑制をかけられている患者。発熱やだるさを主訴に歩いて外来受診。5日後、胸部CTで浸潤影があり入院。しかし肺炎を疑う呼吸器症状がありません。次に打つべき手とは?第25回「初発痙攣にて搬送された 22歳女性  痙攣の鑑別に難渋した1例」症例は22歳の女性。回転性めまいの後2分程度の初発痙攣があり救急搬送。診察・検査の結果、特記すべき所見はほぼ見あたらず、LAC5.1とやや上昇を認めるのみ。原因不明のまま「重篤な疾患はルールアウトされた」と判断。ところが全くの誤りでした。

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腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~

腰痛診療ガイドライン策定の背景腰痛は一つの疾患単位ではなく、“症状”の名称であり、その背景には数多くの病態・疾患が潜んでいる。そして腰痛を有する患者数は非常に多く、わが国においては最も代表的なcommon disease(一般的な、ありふれた病気)、つまり「国民病」の一つとなっている。実際、日本人の有訴者率をみると、男性では1位、女性では2位と男女ともに腰痛は上位を占めている(平成22年 厚生労働省 国民生活基礎調査)。国民病であるがゆえに、腰痛に関する研究、文献や書籍は非常に多く存在している。また、一般向けの雑誌やテレビなどでも腰痛に関わる記事や番組の特集企画は後を絶たない。腰痛という国民病に対し、玉石混淆の情報が発信され氾濫している、というのが現状である。そうした背景を鑑み、われわれ整形外科医が運動器のエキスパートとしてすべきことは何か。本ガイドラインは、そうした想いから、日本整形外科学会が企画し日本腰痛学会が主体となって作成されたものである。その理念は、「腰痛治療のプライマリケアに焦点を絞り、腰痛に苦しむ患者さんに対して、正しく的確なトリアージを可能せしめること」である。腰痛に関して最も豊富な治療経験をもつ整形外科医はもちろん、内科をはじめとする各領域の先生方に対しても、EBMに則った適切な情報を提供するとともに、本ガイドラインを有効活用していただきたいと願っている。腰痛におけるトリアージの重要性腰痛というと、「腰部に存在する疼痛」という定義が成り立つが、その部位に関してはさまざまな見解がある。具体的には、「触知可能な最下端の肋骨と殿溝の間の領域」とするのが一般的である。有症期間については、急性、亜急性、慢性と分類される。3ヵ月以上持続する腰痛を「慢性腰痛」とし、発症から4週間未満を「急性腰痛」、そして慢性と急性の間、つまり4週間以上3ヵ月未満の腰痛を「亜急性腰痛」と定義した。原因からみると、「原因の明らかな腰痛」と「原因の明らかでない腰痛(非特異的腰痛)」に大別される。原因の明らかな腰痛の代表としては、腫瘍(原発性・転移性脊椎腫瘍)、感染(化膿性脊椎炎など)、外傷(椎体骨折など)の3つがとくに重要である。また、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、脊椎すべり症などの神経症状を伴う腰椎疾患もこれに含まれる。一方、非特異的腰痛は、前述したような明らかな原因のない腰痛、あるいは原因を特定できない腰痛を総称する言葉である。下肢症状を伴わない腰痛の場合、その85%が非特異的腰痛である。実際、広く長い脊柱の中で、どこに痛みの原因があるか、X-PやMRIにおける変性所見と症状が必ずしも一致するわけではなく、原因部位を特定することは困難である。よって、腰痛治療においては、初診での正しい鑑別(トリアージ)が非常に重要となってくる。何よりも大切なのは、注意深い問診と身体検査(診察)であり、これにより(1)危険信号(red flags)を有し重篤な脊椎疾患の合併が疑われる腰痛、(2)神経症状を伴う腰痛、(3)非特異的腰痛 という3つのトリアージを的確に行うことが大切である。日本整形外科学会、日本腰痛学会.腰痛診療ガイドライン2012.南江堂;2012.画像を拡大するプライマリ・ケアにおける問診では、発症以前の症状、治療歴、治療効果だけでなく、痛みの部位、症状の頻度、痛みの持続期間などを尋ね、脊椎以外の内科的疾患由来の腰痛の可能性を考慮する。とにかく、重篤な脊椎疾患(腫瘍、炎症、骨折など)を見逃さないことが非常に重要であり、そのためには危険信号(red flags)の有無をしっかりと見極めることが基本となる。危険信号がなく、神経症状もない場合には、「非特異的腰痛」と仮に判断する。そして4~6週間の保存的治療を行い、それによる改善の有無を観察する。そこで改善のない場合には、画像診断の再実施、危険信号の再評価、あるいは心因性要素の再評価によって、隠れている病気を探し出していただきたい。また、初診で危険信号がなくても、神経症状(足の痛み、しびれ、麻痺など)がみられる場合には、積極的に前述の再検査を行うべきである。そして、発熱や体重減少などの危険信号がある場合には、何か原疾患が隠れているのではないかという疑いをもって画像検査や血液検査をしっかりと行っていただきたい。原疾患が特定された場合には、それに応じた治療を進めるべきである。日本整形外科学会、日本腰痛学会.腰痛診療ガイドライン2012.南江堂;2012.画像を拡大する運動療法は腰痛に有効か運動療法には、ストレッチやエアロビクスなどさまざまな方法があるが、慢性腰痛に対する有効性には高いエビデンスがある。慢性腰痛における運動療法については、開始後1年以内で欠勤日数を軽減させ、職場復帰率を増加させるというデータがある。日本におけるランダム化比較試験においても、運動療法実施群での腰痛関連QOLの改善が良好であったという研究結果も出ている。このように、運動療法は慢性腰痛に対して強く推奨される治療法であるといえる。また、日常生活においても、以前は腰痛に対して安静にするよう指導することが多かったが、近年は動ける範囲で動くことを推奨している。一方、急性腰痛に対してはあまり効果がない。亜急性腰痛に対しても、効果はあるものの慢性腰痛の場合に比べると限定的であり、時期に応じた適切な運動療法を行うべきであろう。心理社会的因子と腰痛の関係心理社会的因子が腰痛の遷延に関与するというエビデンスをもった論文は多い。これはとくに慢性腰痛にみられる特徴である。具体的に挙げると、ストレス、うつ状態、過労、職場環境や収入への低い満足度、人間関係の不良などが慢性腰痛の出現や悪化に関与している。ここで一つ興味深いのは、慢性の肩の痛みや膝の痛みの場合にはそうした関与があまり指摘されていないことである。心理社会的因子は、肩や膝よりも腰との関係性が深いように思える。ただ、誤解しないでいただきたいのは、“慢性腰痛の患者さん=(イコール)うつ病”という単純な図式にはならない、ということである。慢性腰痛の患者さんがすべてうつ病だということはありえないし、慢性腰痛のすべての要因が精神的なものだと決めつけてしまうのは非常に危険なことである。個人的な見解としては、非特異性腰痛の原因の多くは、脊柱の支持組織、つまり椎間板や椎間関節の老化、筋力の低下、筋・筋膜などの支持性軟部組織の拘縮などによるものが多いと考えている。これは画像検査では発見しにくい部分であるし、また仮に椎間板が老化していても症状が出ないケースも多々あるため、その判断は難しい。ガイドライン策定から一年を経て 全国の先生方へ腰痛診断ガイドラインが策定されてから一年になる。その間、全国各地で講演を行ってきたが、EBMを重視する先生方が増えてきたように感じられた。腰痛は民間療法や代替療法などさまざまな治療法が散見される分野であるため、エビデンスを重視することは非常によい動きであり、歓迎すべきことだと受け止めている。薬物治療に関しても大変よく勉強されている先生が多かった。また、慢性腰痛における運動療法の有効性についても多くの先生が認識してくださっており、本ガイドラインが徐々に浸透してきていると肌で感じることができた。最後に付け加えておきたいのは、このガイドラインはあくまでも一つの目安でしかない、ということである。われわれガイドライン委員会でも、患者さん一人ひとり病態が異なるのにアルゴリズム(診断手順)にまとめられるのだろうか、という議論があった。しかし、common diseaseである腰痛に対し、数多くの情報が氾濫している昨今において、整形外科専門医だけでなく、一般の臨床医の先生方にも実地で活用していただけるような指針を打ち出すことは、腰痛に苦しむ患者さんのためにも意義のあることだという考えに至った次第である。先生方にはその点を念頭に入れて腰痛の診察にあたっていただきたい。そして専門医への紹介が必要な患者さんを見逃すことのないよう、的確なトリアージのために細心の注意を払っていただきたいと願ってやまない。

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CKDでも、RA系阻害薬にBeyond Blood Pressure Lowering効果は認められない。(コメンテーター:石上 友章 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(146)より-

これまでの多くの基礎研究の成果から、RA系阻害薬には、他のクラスの降圧薬にはないextraordinaryな効果があるとされてきた。 ARBを対象にしたKyoto Heart Studyや、Jikei Heart Studyなどの日本発臨床研究は、このような基礎研究の成果によって導かれたConceptを証明する、いわばProof Of Conceptとなる研究であり、その意味で画期的であったが、データ改ざんによる不正によって論文撤回という事態を招いてしまった。 臨床研究であっても、基礎研究であっても、『RA系阻害薬に降圧を超えた効果があるか?』というClinical Questionに対する答えが複数存在するわけではない。基礎研究であるならば、対象となる実験動物特有のヒトと異なる生物学的背景(マウスには、レニンが複数存在するものもあり、I型アンジオテンシン受容体は2種類あるなど、必ずしもヒトと同一のRA系ではない)であったり、人為的な実験条件による結果のバイアスがもたらした誤った結論である可能性も無視はできない。 EBMでは、エビデンスのピラミッドとして一次文献、二次文献に階層的な地位を与えている。ランダム化比較試験の結果はEBMの最も重要な一次文献であるが、一次文献を集めたメタ解析、システマチック・レビューの結果が、より上位のエビデンスと考えられている。 BPLTTC(Blood Pressure Lowering Treatment Trialist Collaboration)は、WHOとISHという公的な団体が、降圧薬の薬効に関して、中立な立場から研究・解析を行ったメタ解析である1)。これまでに、ACE阻害薬とARBについて、虚血性心疾患をエンドポイントにして、降圧効果と心血管イベント抑制効果の違いを明らかにする成果を上げている2)。BPLTTCによる解析の精度を示すエピソードとして、ONTARGET研究の結果が両薬剤の回帰直線上にプロットされることがあげられ、BPLTTCによる解析がランダム化比較試験の結果を予測しうる精度をもっていると考えられる。 今回の研究は、BPLTTCグループのオーストラリア・シドニー大学のV Perkovic氏らによる、CKDに対する降圧薬の効果についてのメタ解析である。結果は、降圧による心血管イベント抑制効果を支持したが、降圧薬のクラスエフェクトは認められなかった。 CKD診療のミッションは、『心血管イベント抑制』と『腎保護』の両立にある。『腎保護』について、直近のVA NEPHRON-D研究の結果だけでなく、多くの研究がRA系阻害薬の限界を明らかにしている3)。降圧だけが治療の選択肢ではないが、『腎保護』に対する降圧の有効性について、BPLTTCによる質の高いメタ解析が待たれる。

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早期胃がん術後の抗がん剤副作用で死亡したケース

癌・腫瘍最終判決判例タイムズ 1008号192-204頁概要53歳女性、胃内視鏡検査で胃体部大弯に4~5cmの表層拡大型早期胃がん(IIc + III型)がみつかり、生検では印環細胞がんであった。胃2/3切除およびリンパ節切除が行われ、術後に補助化学療法(テガフール・ウラシル(商品名:UFT)、マイトマイシン(同:MMC)、フルオロウラシル(同:5-FU))が追加された。ところが、5-FU®静注直後から高度の骨髄抑制を生じ、術後3ヵ月(化学療法後2ヵ月)で死亡した。詳細な経過患者情報とくに既往症のない53歳女性経過1992年3月6日背中の痛みを主訴に個人病院を受診。3月18日胃透視検査で胃体部大弯に陥凹性病変がみつかる。4月1日胃内視鏡検査にて、4~5cmに及ぶIIc + III型陥凹性病変が確認され、生検でGroup V印環細胞がんであることがわかり、本人にがんであることを告知の上、手術が予定された。4月17日胃2/3切除およびリンパ節切除術施行。術中所見では漿膜面にがん組織(のちに潰瘍瘢痕を誤認したものと判断された)が露出していて、第2群リンパ節にまで転移が及んでいたため、担当医師らはステージIIIと判断した。4月24日病理検査結果では、リンパ節転移なしと判定。4月30日病理検査結果では、早期胃がんIIc + III、進達度m、印環細胞が増生し、Ul III-IVの潰瘍があり、その周辺にがん細胞があるものの粘膜内にとどまっていた。5月8日病理検査結果では前回と同一で進行がんではないとの報告。ただしその範囲は広く、進達度のみを考慮した胃がん取り扱い規約では早期がんとなるものの、すでに転移が起こっていることもあり得ることが示唆された。5月16日術後経過に問題はなく退院。5月20日白血球数3,800、担当医師らは術後の補助化学療法をすることにし、抗がん剤UFT®の内服を開始(7月2日までの6週間投与)。6月4日白血球数3,900、抗がん剤MMC® 4mg投与(6月25日まで1週間おきに4回投与)。6月18日白血球数3,400。6月29日抗がん剤5-FU® 1,250mg点滴静注。6月30日抗がん剤5-FU® 1,250mg点滴静注。7月1日白血球数2,900。7月3日白血球数2,400、身体中の激痛が生じ再入院。7月4日白血球数2,200、下痢がひどくなり、全身状態悪化。7月6日白血球数1,000、血小板数68,000。7月7日白血球数700、血小板数39,000、大学病院に転院。7月8日一時呼吸停止。血小板低下が著しく、輸血を頻回に施行。7月18日死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.リンパ節転移のないmがん(粘膜内がん)に補助化学療法を行った過失診療当時(1992年)の知見をもってしても、表層拡大型IIc + III早期胃がん、ステージI、リンパ節、腹膜、肝臓などのへの転移がなく外科的治癒切除を行った症例に、抗がん剤を投与したのは担当医師の明らかな過失である。しかも、白血球数が低下したり、下痢がみられた状態で抗がん剤5-FU®を投与するのは禁忌であった2.説明義務違反印環細胞がん、表層拡大型胃がんについての例外的危険を強調し、抗がん剤を受け入れざるを得ない方向に誘導した。そして、あえて危険を伴っても補助化学療法を受けるか否かを選択できるような説明義務があったにもかかわらず、これを怠った3.医療知識を獲得して適切な診断・治療を患者に施すべき研鑽義務を怠った病院側(被告)の主張1.リンパ節転移のないmがんに補助化学療法を行った過失術中所見ではがん組織が漿膜面まで明らかにでており、第2群のリンパ節に転移を認めるのでステージIIIであった。病理組織では摘出リンパ節に転移の所見がなく、肝臓などに肉眼的転移所見がみられなかったが、それで転移がなかったとはいえない。本件のような表層拡大型早期胃がんはほかの胃がんに比べて予後が悪く、しかも原発病巣が印環細胞がんという生物学的悪性度のもっとも強いがんであるので、再発防止目的の術後補助化学療法は許されることである。白血球数は抗がん剤の副作用以外によっても減少するので、白血球数のみを根拠に抗がん剤投与の適否を評価するべきではない2.説明義務違反手術で摘出したリンパ節に転移がなく、進達度が粘膜内ではあるが、この結果は絶対的なものではない。しかも原発病巣が生物学的悪性度のもっとも強い印環細胞がんであり、慎重に対処する必要があるので、副作用があるが抗がん剤を投与するかどうか決定するように説明し、患者の同意を得たので説明義務違反はない3.医療知識を獲得して適切な診断・治療を患者に施すべき研鑽義務1980年以降に早期胃がんに対して補助化学療法を行わないとの考えが確立したが、担当医師ががん専門病院に勤務していたのは1970~1980年であり、この当時は抗がん剤の効果をみるために早期胃がんに対しても術後補助化学療法治療試験が盛んに行われていた。したがって、早期胃がんに対して補助化学療法を行わないとの考えを開業医レベルの担当医師に要求するのは無理である裁判所の判断1. リンパ節転移のないmがんに補助化学療法を行った過失担当医師らは肉眼所見でがん組織が漿膜面まで露出していたとするが、これは潰瘍性瘢痕をがんと誤認したものである。また、第2群のリンパ節に転移を認めるステージIIIであったと主張するが、数回にわたって行われた病理検査でがんが認められなかったことを優先するべきであるので、本件は進行がんではない。したがって、そもそも早期がんには不必要かつ有害な抗がん剤を投与したうえに、下痢や白血球減少状態などの副作用がみられている状況下では禁忌とされている5-FU®を、常識では考えられないほど大量投与(通常300~500mgのところを1,250mg)をしたのは、医師として当然の義務を尽くしていないばかりか、抗がん剤の副作用に対する考慮の姿勢がみじんも存在しない。2. 説明義務違反説明義務違反に触れるまでもなく、担当医師に治療行為上の重大な過失があったことは明らかである。3. 医療知識を獲得して適切な診断・治療を患者に施すべき研鑽義務を怠った。担当医師はがん専門病院に勤務していた頃の知見に依拠して弁解に終始しているが、がん治療の方法は日進月歩であり、ある知見もその後の研究や医学的実践において妥当でないものとして否定されることもあるので、胃がんの治療にあたる以上最新の知見の修得に努めるべきである。原告側合計6,733万円の請求を全額認定考察この判例から得られる教訓は、医師として患者さんの治療を担当する以上、常に最新の医学知識を吸収して最良の医療を提供しなければならないということだと思います。いいかえると、最近ようやく臨床の現場に浸透しつつあるEBM(evidence based medicine)の考え方が、医療過誤かどうかを判定する際の基準となる可能性が高いということです。裁判所は、以下の知見はいずれも一般的な医学文献等に掲載されている事項であると判断しました。(1)mがんの再発率はきわめて低いこと(2)抗がん剤は胃がんに対して腫瘍縮小効果はあっても治療効果は認められないこと(3)印環細胞がん・表層拡大型胃がん、潰瘍型胃がんであることは再発のリスクとは関係ないこと(4)抗がん剤には白血球減少をはじめとした重篤な副作用があること(5)抗がん剤は下痢の症状が出現している患者に対して投与するべきでないことこれらの一つ一つは、よく勉強されている先生方にとっては常識的なことではないかと思いますが、医学論文や学会、症例検討会などから疎遠になってしまうと、なかなか得がたい情報でもあると思います。今回の担当医師らは、術中所見からステージIIIの進行がんと判断しましたが、病理組織検査では「転移はないmがんである」と再三にわたって報告が来ました。にもかかわらず、「今までの経験」とか「直感」をもとに、「見た目は転移していそうだから、がんを治療する以上は徹底的に叩こう」と考えて早期がんに対し補助化学療法を行ったのも部分的には理解できます。しかし、われわれの先輩医師たちがたくさんの症例をもとに築き上げたevidenceを無視してまで、独自の治療を展開するのは大きな問題でしょう。ことに、最近では医師に対する世間の評価がますます厳しくなっています。そもそも、総務庁の発行している産業分類ではわれわれ医師は「サービス業」に分類され、医療行為は患者と医療従事者のあいだで取り交わす「サービスの取引」と定義されています。とすると、本件では「自分ががんの研修を行った10~20年前までは早期胃がんに対しても補助化学療法を行っていたので、早期胃がんに補助化学療法を行わないとする最新の知見を要求されても困る」と主張したのは、「患者に対し10~20年前のまちがったサービスしか提供できない」ことと同義であり、このような考え方は利用者(患者)側からみて、とうてい受容できないものと思われます。また、「がんを治療する以上は徹底的に叩こう」ということで5-FU®を通常の2倍以上(通常300~500mgのところを1,250mg)も使用しました。これほど大量の抗がん剤を一気に投与すれば、骨髄抑制などの副作用が出現してもまったく不思議ではなく、とても「知らなかった」ではすまされません。判決文でも、「常識では考えられないほど抗がん剤を大量投与をしたのは、抗がん剤の副作用に対する考慮の姿勢がみじんも存在しない」と厳しく批判されました。「医師には生涯教育が必要だ」、という声は至るところで耳にしますが、今回の事例はまさにそのことを示していると思います。日々遭遇する臨床上の問題についても、一つの考え方にこだわって「これしかない」ときめつけずに、ほかの先生に意見を求めたり、文献検索をしなければならないと痛感させられるような事例でした。癌・腫瘍

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『尿路結石症診療ガイドライン』が10年ぶりに大改訂

 『尿路結石症診療ガイドライン(第2版) 2013年版』(編集: 日本泌尿器科学会/日本泌尿器内視鏡学会/日本尿路結石症学会)が、10年ぶりの大改訂を経て、9月20日より発売される。 今回の改訂(第2版)では、尿路結石症診療の最新の課題について、EBMの手法で徹底考察、徹底解明しており、38のCQ(クリニカルクエスチョン)形式で構成されている。 具体的には、大きく3つの領域に分け、「疫学」では「尿路結石症の発生には季節変動はあるか?」、「診断・治療」では「尿管結石の疼痛管理に推奨される治療法は何か?」、「再発予防」では「繊維性食物の摂取は尿路結石再発の予防になるか?」などのCQを設定し、疾患の基礎知識、最新の治療から生活指導のポイントまで、尿路結石症診療のあらゆる領域の疑問について臨床現場を意識した回答を行っている。 ガイドラインは、全国の書店、アマゾンなどで発売。定価は1,995円(本体1,900円+税5%)。詳しくは、金原出版まで

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これからの総合診療、そして緩和医療の未来を語ろう

私は総合診療に軸足を置きながら、レジデント教育、がん診療、膠原病診療、そして最近では緩和医療に携わる地域基幹病院に勤める勤務医です。私の立場は、開業医の先生方やがん専門病院の先生方、大学や総合病院の腫瘍内科や緩和医療科の先生方のそれとはやや異なり、その立場でお話しすることをご承知ください。総合診療の定義を語るとき、現在の立場や出自で大きく異なること、そのためかそのidentityに揺らぎを生じ、ともすればidentity crisisに陥る可能性が問題となります。私たちの天理よろづ相談所病院 総合診療教育部では、真の総合診療とは専門性や現在の立場を超えたところにあって、「患者・家族にとって真の主治医でありつづける」ことと考えており、レジデント(研修医)には常にそれを求めています(参照:「主治医力を磨くワークショップ」 )。個人的には「真の主治医」に必要な要素として、以下の2点を大切にしています。1. 真のEBMを実践できること患者の疾患だけを診るのではなく、患者の環境・患者の歩んできた人生の中でそれを「病(やまい)」としてとらえ、患者の価値観、エビデンス、医師の知識・経験(時には社会資源も含めて)の総合判断により真のEBMを実践できることを目指します。EBMは最近ではNarrative Medicine※1と融合し、NEBM(Narrative Evidence-based Medicine)とも呼ばれ、個々の患者をより重視する意識が芽生えてきています(Charon R, et al. Lancet.2008;371:296-297.)。2. 患者・家族にとって「潤いのある2.5人称の存在」になること作家 柳田邦男氏が「2.5人称」という概念を提唱しています。医療において、患者自身の立場は1人称、家族や親友は2人称ということになります。医療者は一般的に3人称の存在として、患者の生と死について科学的に分析、評価、治療、診断、時に死亡診断を行います。しかし、3人称も「乾いた」存在では時に冷たい存在となり、患者や家族を傷つけることになります。一方、2人称では主観的すぎて正確な判断・評価が難しくなります。そこで、人としての温かみや潤いのある2.5人称の視点が求められているのです。患者や家族に寄り添い、自己決定を支援し、より良き人生を送るためのナビゲーターとなる、そんな存在が「潤いのある2.5人称」としての主治医であると私は考えています。総合診療は、ともすればその病歴や身体診察からの診断力に注目される傾向がありますが、実際は治療を含めた診断後の経過にこそ、その醍醐味があると考えています。そしてそれは他の専門診療科の先生方や開業医の先生方とも共有したいパラダイムです。同じ診断であっても、年齢・性別・既往歴、社会や家庭での役割、そして本人の死生観を含む価値観により治療方針は異なりますし、経過も大きく異なるでしょう。私たち医師は、診療セッティングや専門性を超えて、患者に対し先述の2つの視点を持った主治医としての役割が求められているのです。多くの学会が自身の専門医不足を主張しますが、医療が高度に専門分化する中でそれぞれの領域で専門性を追求することにのみ専念すれば、いつまで経っても専門医が足りることはありませんし、「真の主治医」という視点がなければ専門医療の提供のみに終始し、患者の幸福に貢献できないかもしれません。自分の専門外であってもまずは一旦患者を引き受けようとする心意気、そして他の領域にも一歩踏み込んで関わろうとする積極的姿勢(オーバーラップ)がこれからの超高齢社会には何より必要と考えられます。そうすれば患者が転院しても自宅に帰っても切れ目のない、そしてしなやかな診療が提供できると考えます。最後に緩和医療についてお話ししたいと思います。私は、総合診療医(総合内科医)は緩和医療に積極的に関わるべきだと考えています。とくに終末期医療はがん患者であるか否かにかかわらず、2025年には非常に大きな問題になります※2。つまり病院であれ診療所であれ、看取りを抜きにこれからの医療は語れなくなるのです。WHO(2002年)による緩和医療の定義は「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理・社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処を行うことによって、苦しみを予防し和らげることでQOLを改善するアプローチである」とされています。まさしく、総合診療医(あるいはその素養を持つ臓器別専門医)が親和性を持つ領域であると思います。人はいつかは死を迎える、だからこそより良き生を考える緩和医療を提供する私たちは、患者に寄り添いながら、その人の生と死に立ち会いながら、人生をいかに生きるかという究極の命題に深い思索を巡らすことができるのかもしれません。※1病(やまい)を患者の人生という物語の中で位置づけ、その文脈の中で理解し医療を提供しようとする考え。この中では同じ疾患であっても、患者によって提供される医療には多様性がありうることを前提としている。※22015年には「団塊の世代」と呼ばれる人々が75歳以上の高齢者となり、高齢者人口ならびに年間死亡者数はそれぞれ推計で3,500万人、160万人と見込まれている(2011年は2,980万人、119万人)。これまでは高齢者割合の増加スピードが問題となっていたが、2015年以降は高齢者数という数が問題になる。死にゆく人を看取る場として、病院は90万人弱と推定されており、残り70万人強の人は自宅や施設で亡くなることになるが、その体制作りは緒に就いたばかりであり喫緊の課題である。ご意見がございましたら、tazuma@tenriyorozu.jp までお寄せいただければ大変光栄に存じます。

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Vol. 1 No. 3 超高齢者の心房細動管理

小田倉 弘典 氏土橋内科医院1. はじめに本章で扱う「超高齢者」についての学会や行政上の明確な定義は現時点でない。老年医学の成書などを参考にすると「85歳以上または90歳以上から超高齢者と呼ぶ」ことが妥当であると思われる。2. 超高齢者の心房細動管理をする上で、まず押さえるべきこと筆者は、循環器専門医からプライマリーケア医に転身して8年になる。プライマリーケアの現場では、病院の循環器外来では決して遭うことのできないさまざまな高齢者を診ることが多い。患者の症状は全身の多岐にわたり、高齢者の場合、自覚・他覚とも症状の発現には個人差があり多様性が大きい。さらに高齢者では、複数の健康問題を併せ持ちそれらが複雑に関係しあっていることが多い。「心房細動は心臓だけを見ていてもダメ」とはよくいわれる言葉であるが、高齢者こそ、このような多様性と複雑性を踏まえた上での包括的な視点が求められる。では具体的にどのような視点を持てばよいのか?高齢者の多様性を理解する場合、「自立高齢者」「虚弱高齢者」「要介護高齢者」の3つに分けると、理解しやすい1)。自立高齢者とは、何らかの疾患を持っているが、壮年期とほぼ同様の生活を行える人たちを指す。虚弱高齢者(frail elderly)とは、要介護の状態ではないが、心身機能の低下や疾患のために日常生活の一部に介助を必要とする高齢者である。要介護高齢者とは、寝たきり・介護を要する認知症などのため、日常生活の一部に介護を必要とする高齢者を指す。自立高齢者においては、壮年者と同様に、予後とQOLの改善という視点から心房細動の適切な管理を行うべきである。しかし超高齢者の場合、虚弱高齢者または要介護高齢者がほとんどであり、むしろ生活機能やQOLの維持の視点を優先すべき例が多いであろう。しかしながら、実際には自立高齢者から虚弱高齢者への移行は緩徐に進行することが多く、その区別をつけることは困難な場合も多い。両者の錯綜する部分を明らかにし、高齢者の持つ複雑性を“見える化”する上で役に立つのが、高齢者総合的機能評価(compre-hensive geriatric assessment : CGA)2)である。CGAにはさまざまなものがあるが、当院では簡便さから日本老年医学会によるCGA7(本誌p20表1を参照)を用いてスクリーニングを行っている。このとき、高齢者に立ちはだかる代表的な問題であるgeriatric giant(老年医学の巨人)、すなわち転倒、うつ、物忘れ、尿失禁、移動困難などについて注意深く評価するようにしている。特に心房細動の場合は服薬管理が重要であり、うつや物忘れの評価は必須である。また転倒リスクの評価は抗凝固薬投与の意思決定や管理においても有用な情報となる。超高齢者においては、このように全身を包括的に評価し、構造的に把握することが、心房細動管理を成功に導く第一歩である。3. 超高齢者の心房細動の診断超高齢者は、自覚症状に乏しく心房細動に気づかないことも多い。毎月受診しているにもかかわらず、ずっと前から心房細動だったことに気づかず、脳塞栓症を発症してしまったケースを経験している医師も少なくないと思われる。最近発表された欧州心臓学会の心房細動管理ガイドライン3)では、「65歳以上の患者における時々の脈拍触診と、脈不整の場合それに続く心電図記録は、初回脳卒中に先立って心房細動を同定するので重要(推奨度Ⅰ/エビデンスレベルB)」であると強調されている。抗凝固療法も抗不整脈処方も、まず診断することから始まる。脈は3秒で測定可能である。「3秒で救える命がある」と考え、厭わずに脈を取ることを、まずお勧めしたい。4. 超高齢者の抗凝固療法抗凝固療法の意思決定は、以下の式(表)が成り立つ場合になされると考えられる。表 抗凝固療法における意思決定1)リスク/ベネフィットまずX、Yを知るにはクリニカルエビデンスを紐解く必要がある。抗凝固療法においては、塞栓予防のベネフィットが大きい場合ほど出血リスクも大きいというジレンマがあり、高齢者においては特に顕著である。また超高齢者を対象とした研究は大変少ない。デンマークの大規模コホート研究では、CHADS2スコアの各因子の中で、75歳以上が他の因子より著明に大きいことが示された(本誌p23図1を参照)4)。この研究は欧州心臓学会のガイドラインにも反映され、同学会で推奨しているCHA2DS2-VAScスコアでは75歳以上を2点と、他より重い危険因子として評価している。また75歳以上の973人(平均81歳)を対象としたBAFTA研究5)では、アスピリン群の年間塞栓率3.8%に比べ、ワルファリンが1.8%と有意に減少しており、出血率は同等で塞栓率を下回った。一方で人工弁、心筋梗塞後などの高齢者4,202人を対象とした研究6)では、80歳を超えた人のワルファリン投与による血栓塞栓症発症率は、60歳未満の2.7倍であったのに対し、出血率は2.9倍だった。スウェーデンの大規模研究7)では、抗凝固薬服用患者において出血率は年齢とともに増加したが、血栓塞栓率は変化がなかった。また80歳以上でCHADS2スコア1点以上の人を対象にしたワルファリンの出血リスクと忍容性の検討8)では、80歳未満の人に比べ、2.8倍の大出血を認め、CHADS2スコア3点以上の人でより高率であった。最近、80歳以上の非弁膜症性心房細動の人のみを対象とした前向きコホート研究9)が報告されたが、それによると平均年齢83~84歳、CHADS2スコア2.2~2.6点という高リスクな集団において、PT-INR2.0~3.0を目標としたワルファリン治療群は、非治療群に比べ塞栓症、死亡率ともに有意に減少し、大出血の出現に有意差はなかった。このように、高齢者では出血率が懸念される一方、抗凝固薬の有効性を示す報告もあり、判断に迷うところである。ひとつの判断材料として、出血を規定する因子がある。80歳以上の退院後の心房細動患者323人を29か月追跡した研究10)によると、出血を増加させる因子として、(1)抗凝固薬に対する不十分な教育(オッズ比8.8)(2)7種類以上の併用薬(オッズ比6.1)(3)INR3.0を超えた管理(オッズ比1.08)が挙げられた。ワルファリン服用下で頭蓋内出血を起こした症例と、各因子をマッチさせた対照とを比較した研究11)では、平均年齢75~78歳の心房細動例でINRを2.0~3.0にコントロールした群に比べ、3.5~3.9の値を示した群は頭蓋内出血が4.6倍であったが、2.0未満で管理した群では同等のリスクであった。さらにEPICA研究12)では、80歳以上のワルファリン患者(平均84歳、最高102歳)において、大出血率は1.87/100人年と、従来の報告よりかなり低いことが示された。この研究は、抗凝固療法専門クリニックに通院し、ワルファリンのtime to therapeutic range(TTR)が平均62%と良好な症例を対象としていることが注目される。ただし85歳以上の人は、それ以外に比べ1.3倍出血が多いことも指摘されている。HAS-BLEDスコア(本誌p24表3を参照)は、抗凝固療法下での大出血の予測スコアとして近年注目されており13)、同スコアが3点以上から出血が顕著に増加することが知られている。このようにINRを2.0~3.0に厳格に管理すること、出血リスクを適切に把握することがリスク/ベネフィットを考える上でポイントとなる。2)負担(Burden)超高齢者においては、上記のような抗凝固薬のリスクとベネフィット以外のγの要素、すなわち抗凝固薬を服薬する上で生じる各種の負担(=burden)を十分考慮する必要がある。(1)ワルファリンに対する感受性 高齢者ほどワルファリンの抗凝固作用に対する感受性が高いことはよく知られている。ワルファリン導入期における大出血を比べた研究8)では、80歳以上の例では、80歳未満に比べはるかに高い大出血率を認めている(本誌p25図2を参照)。また、高齢者ではワルファリン投与量の変更に伴うINRの変動が大きく、若年者に比べワルファリンの至適用量は少ないことが多い。前述のスウェーデンにおける大規模研究7)では、50歳代のワルファリン至適用量は5.6mg/日であったのに対し、80歳代は3.4mg/日、90歳代は3mg/日であった。(2)併用薬剤 ワルファリンは、各種併用薬剤の影響を大きく受けることが知られているが、その傾向は高齢者において特に顕著である。抗菌薬14)、抗血小板薬15)をワルファリンと併用した高齢者での出血リスク増加の報告もある。(3)転倒リスク 高齢者の転倒リスクは高く、転倒に伴う急性硬膜下血腫などへの懸念から、抗凝固薬投与を控える医師も多いかもしれない。しかし抗凝固療法中の高齢者における転倒と出血リスクの関係について述べた総説16)によると、転倒例と非転倒例で比較しても出血イベントに差がなかったとするコホート研究17)などの結果から、高齢者における転倒リスクはワルファリン開始の禁忌とはならないとしている。また最近の観察研究18)でも、転倒の高リスクを有する人は、低リスク例と比較して特に大出血が多くないことが報告された。エビデンスレベルはいずれも高くはないが、懸念されるほどのリスクはない可能性が示唆される。(4)服薬アドヒアランス ときに、INRが毎回のように目標域を逸脱する例を経験する。INRの変動を規定する因子として遺伝的要因、併用薬剤、食物などが挙げられるが、最も大きく影響するのは服薬アドヒアランスである。高齢者でINR変動の大きい人を診たら、まず服薬管理状況を詳しく問診すべきである。ワルファリン管理に影響する未知の因子を検討した報告19)では、認知機能低下、うつ気分、不適切な健康リテラシーが、ワルファリンによる出血リスクを増加させた。 はじめに述べたように、超高齢者では特にアドヒアランスを維持するにあたって、認知機能低下およびうつの有無と程度をしっかり把握する必要がある。その結果からアドヒアランスの低下が懸念される場合には、家族や他の医療スタッフなどと連携を密に取り、飲み忘れや過剰服薬をできる限り避けるような体制づくりをすべきである。また、認知機能低下のない場合の飲み忘れに関しては、抗凝固薬に対する重要性の認識が低いことが考えられる。服薬開始時に、抗凝固薬の必要性と不適切な服薬の危険性について、患者、家族、医療者間で共通認識をしっかり作っておくことが第一である。3)新規抗凝固薬新規抗凝固薬は、超高齢者に対する経験の蓄積がほとんどないため大規模試験のデータに頼らなければならない。RE-LY試験20)では平均年齢は63~64歳であり、75歳を超えるとダビガトランの塞栓症リスクはワルファリンと同等にもかかわらず、大出血リスクはむしろ増加傾向を認めた21)。一方、リバーロキサバンに関するROCKET-AF試験22)は、CHADS2スコア2点以上であるため、年齢の中央値は73歳であり、1/4が78歳以上であった。ただし超高齢者対象のサブ解析は明らかにされていない。4)まとめと推奨これまで見たように、80歳以上を対象にしたエビデンスは散見されるが85歳以上に関する情報は非常に少なく、一定のエビデンス、コンセンサスはない。筆者は開業後8年間、原則として虚弱高齢者にも抗凝固療法を施行し、85歳以上の方にも13例に新規導入と維持療法を行ってきたが、大出血は1例も経験していない。こうした経験や前述の知見を総合し、超高齢者における抗凝固療法に関しての私見をまとめておく。■自立高齢者では、壮年者と同じように抗凝固療法を適応する■虚弱高齢者でもなるべく抗凝固療法を考えるが、以下の点を考慮する現時点ではワルファリンを用いるINRの変動状況、服薬アドヒアランスを適切に把握し、INRの厳格な管理を心がける併用薬剤は可能な限り少なくする導入初期に、家族を交えた患者教育を行い、服薬の意義を十分理解してもらう導入初期は、通院を頻回にし、きめ細かいINR管理を行う転倒リスクも患者さんごとに、適切に把握するHAS-BLEDスコア3点以上の例は特に出血に注意し、場合により抗凝固療法は控える5. 超高齢者のリズムコントロールとレートコントロール超高齢者においては、発作性心房細動の症状が強く、直流除細動やカテーテルアブレーションを考慮する場合はほとんどない。また発作予防のための長期抗不整脈薬投与は、永続性心房細動が多い、薬物の催不整脈作用に対する感受性が強い、などの理由で勧められていない23)。したがって超高齢者においては、心拍数調節治療、いわゆるレートコントロールを第一に考えてよいと思われる。レートコントロールの目標については、近年RACEII試験24,25)において目標心拍数を110/分未満にした緩徐コントロール群と、80/分未満にした厳格コントロール群とで予後やQOLに差がないことが示され注目されている。同試験の対象は80歳以下であるが、薬剤の併用や高用量投与を避ける点から考えると、超高齢者にも適応して問題ないと思われる。レートコントロールに用いる薬剤としてはβ遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬のどちらも有効である。β遮断薬は、半減期が長い、COPD患者には慎重投与が必要である、などの理由から、超高齢者には半減期の短いベラパミルが使用されることが多い。使用に際しては、潜在化していた洞不全症候群、心不全が症候性になる可能性があるため、投与初期のホルター心電図等による心拍数確認や心不全徴候に十分注意する。6. 超高齢者の心房細動有病率米国の一般人口における有病率については、4つの疫学調査をまとめた報告26)によると、80歳以上では約10%とされており、85歳以上の人では男9.1%、女11.1%と報告されている27)。日本においては、日本循環器学会の2003年の健康診断症例による研究28)によると、80歳以上の有病率は男4.4%、女2.2%であった。また、2012年に報告された最新の久山町研究29)では、2007年時80歳以上の有病率は6.1%であった。今後高齢化に伴い、超高齢者の有病率は増加するものと思われる。7. おわりにこれまで見てきたように、超高齢者の心房細動管理に関してはエビデンスが非常に少なく、特に抗凝固療法においてはリスク、ベネフィットともに大きいというジレンマがある。一方、そうしたリスク、ベネフィット以外にさまざまな「負担」を加味し、包括的に状態を評価し意思決定につなげていく必要に迫られる。このような状況では、その意思決定に特有の「不確実性」がつきまとうことは避けられないことである。その際、「正しい意思決定」をすることよりももっと大切なことは、患者さん、家族、医療者間で、問題点、目標、それぞれの役割を明確にし、それを共有し合うこと。いわゆる信頼関係に基づいた共通基盤を構築すること1)であると考える。そしてそれこそが超高齢者医療の最終目標であると考える。文献1)井上真智子. 高齢者ケアにおける家庭医の役割. 新・総合診療医学(家庭医療学編) . 藤沼康樹編, カイ書林, 東京, 2012.2)鳥羽研二ら. 高齢者総合的機能評価簡易版CGA7の開発. 日本老年医学会雑誌2010; 41: 124.3)Camm J et al. 2012 focused update of the ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation.An update of the 2010 ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation Developed withthe special contribution of the European Heart Rhythm Association. Eur Heart J 2012; doi: 10.1093/eurheartj/ehs253.4)Olesen JB et al. Validation of risk stratification schemes for predicting stroke and thromboembolism in patients with atrial fibrillation: nationwide cohort study. BMJ 2011; 342: d124. doi: 10.1136/bmj.d124.5)Mant JW et al. Protocol for Birmingham Atrial Fibrillation Treatment of the Aged study(BAFTA): a randomised controlled trial of warfarin versus aspirin for stroke prevention in the management of atrial fibrillation in an elderly primary care population [ISRCTN89345269]. BMC Cardiovasc Disord 2003; 3: 9.6)Torn M et al. Risks of oral anticoagulant therapy with increasing age. Arch Intern Med 2005; 165(13): 1527-1532.7)Wieloch M et al. Anticoagulation control in Sweden: reports of time in therapeutic range, major bleeding, and thrombo-embolic complications from the national quality registry AuriculA. Eur Heart J 2011; 32(18): 2282-2289.8)Hylek EM et al. Major hemorrhage and tolerability of warfarin in the first year of therapy among elderly patients with atrial fibrillation. Circulation 2007; 115(21): 2689-2696.9)Ruiz Ortiz M et al. Outcomes and safety of antithrombotic treatment in patients aged 80 years or older with nonvalvular atrial fibrillation. Am J Cardol 2012: 107(10): 1489-1493.10)Kagansky N et al. Safety of anticoagulation therapy in well-informed older patients. Arch Intern Med 2004; 164(18): 2044-2050.11)Fang MC et al. Advanced age, anticoagulation intensity, and risk for intracranial hemorrhage among patients taking warfarin for atrial fibrillation. Ann Intern Med 2004; 141(10): 745- 752.12)Poli D et al. Bleeding risk in very old patients on vitamin K antagonist treatment. Results of a prospective collaborative study on elderly patients followed by Italian Centres for anticoagulation. Circulation 2011; 124(7): 824 -829.13)Lip GY et al. Comparative validation of a novel risk score for predicting bleeding risk in anticoagulated patients with atrial fibrillation. The HAS-BLED(Hypertension, Abnormal Renal/Liver Function, Stroke, Bleeding History or Predisposition, Labile INR, Elderly, Drugs/Alcohol Concomitantly) score. J Am Coll Cardiol 2011; 57(2): 173-180.14)Ellis RJ et al. Ciprofloxacin-warfarin coagulopathy: a case series. Am J Hematol 2000; 63(1): 28-31.15)DiMarco JP et al. Factors affecting bleeding risk during anticoagulant therapy in patients with atrial fibrillation: observations from the Atrial Fibrillation Follow-up Investigation of Rhythm Management(AFFIRM) study. Am Heart J 2005; 149(4): 650- 656.16)Sellers MB et al. Atrial fibrillation, anticoagulation, fall risk, and outcomes in elderly patients. Am Heart J 2011; 161(2): 241-246.17)Bond AJ et al. The risk of hemorrhagic complications in hospital in-patients who fall while receiving antithrombotic therapy. Thromb J 2005; 3(1): 1.18)Donze J et al. Risk of falls and major bleeds in patients on oral anticoagulation therapy. Am J Med 2012; 125(8): 773-778.19)Diug B et al. The unrecognized psychosocial factors contributing to bleeding risk in warfarin therapy. Stroke 2012; 42(10): 2866-2871.20)Connolly SJ et al. Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2009; 361(12): 1139-1151.21)Eikelboom JW et al. Risk of bleeding with 2 doses of dabigatran compared with warfarin in older and younger patients with atrial fibrillation:An analysis of the Randomized Evaluation of Long-Term Anticoagulant Therapy(RE-LY) trial. Circulation 2011; 123(21) 2363-2372.22)Patel MR et al. Rivaroxaban versus warfarin in nonvalvular atrial fibrillation. N Engl J Med 2011; 365(10): 883-891.23)The Task Force for the Management of Atrial Fibrillation of the European Society of Cardiology(ESC) . Eur Heart J 2010; 31(19): 2369-2429.24)Van Gelder IC et al. Lenient versus strict rate control in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2010; 362(15): 1363-1373.25)Groenveld HF et al. The effect of rate control on quality of life in patients with permanent atrial fibrillation: data from the RACE II(Rate Control Efficacy in Permanent Atrial Fibrillation II) study. J Am Coll Cardiol 2011; 58(17): 1795-1803.26)Feinberg WM et al. Prevalence, age distribution, and gender of patients with atrial fibrillation. Arch Intern Med 1995; 155(5): 469-473.27)Go AS et al. Prevalence of diagnosed atrial fibrillation in adults. National implications for rhythm management and stroke prevention: the Anticoagulation and risk factors in atrial fibrillation(ATRIA) study. JAMA 2001; 285(18): 2370-2375.28)Inoue H et al. Prevalence of atrial fibrillation in the general population of Japan: an analysis based on periodic health examination. Int J Cardiol 2009; 137(2): 102-107.29)http://www.ebm-library.jp/att/conferences/2012/stroke/12042704.html

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第4回医療法学シンポジウム 開催のご案内

 EBM(Evidence-based medicine)の推進とともに、各診療領域において診療ガイドラインの整備が進められています。 診療ガイドラインは、「医療者と患者が特定の臨床状況で適切な決断を下せるよう支援する目的で、体系的な方法に則って作成された文書」のことであり、肝癌診療ガイドライン2005年版前文にも「本ガイドラインが今後の肝細胞癌の診療に大いに役立つものと信じるが、臨床の現場での判断を強制するものではないし、医師の経験を否定するものでもない。  本ガイドラインを参考にした上で、医師の裁量を尊重し、患者の意向を考慮して個々の患者に最も妥当な治療法を選択することが望ましい。」とされているとおり、個別具体的な患者に対する診療を行うに当たり絶対的に従わなければならないルールではありません。 しかしながら、ひとたび医療訴訟となった場合、診療ガイドラインは医療水準を検討するに当たり、最も重要な文書となります。 この現実は、司法におけるどのような理論からきているのか。それに対し、医療者は診療ガイドラインは絶対的なルールではないと言い続けるほかないのか。本シンポジウムでは、医療と司法の双方の立場からあるべき診療ガイドライン像を検討したいと考えております。司法と医療の相互理解の促進という「医療法学」の世界にぜひ、触れてみてください。■メインテーマ 「医療法学的視点から見た診療ガイドラインのあり方」■開催日時 2013年9月14日(土) 13:00~17:00(17:30~レセプション/要予約)■参加費 無料(レセプション3,000円) ■会場 東京大学医学部附属病院 入院棟A15階 大会議室(〒113-8655 東京都文京区本郷7-3-1)  ・ 東大病院アクセスマップ  ・ 構内マップ■対象 医師、看護師、医療従事者、医学生、法学部生 など■プログラム  ・13:00~13:10 開会のあいさつ    古川 俊治氏(慶應義塾大学法科大学院教授・医学部外科教授:医師、弁護士)  ・13:10~13:40 医療訴訟において診療ガイドラインが重視された実例    富永 愛氏(富永愛法律事務所:医師、弁護士)   ・13:40~14:10 医療者から見た診療ガイドライン    山田 奈美恵氏(東京大学医学部附属病院総合研修センター特任助教:医師)  ・14:20~14:50 裁判における診療ガイドライン等文献の法的位置づけ    山崎 祥光氏(井上法律事務所:弁護士、医師)  ・14:50~15:20 医療法学的視点から見た診療ガイドラインのあり方    大磯 義一郎氏(浜松医科大学医学部教授〔医療法学〕、帝京大学医療情報システム研究    センター客員教授:医師、弁護士)  ・15:20~15:50 医療法学的視点から見たよりよい診療ガイドラインの提示    小島 崇宏氏(北浜法律事務所:医師、弁護士)  ・16:00~16:50 パネルディスカッション  ・16:50~17:00 閉会のあいさつ    土屋 了介氏(公益財団法人がん研究会 理事)■申込 氏名、所属、連絡先、レセプション参加の有無を記載のうえ、    事務局(lawjimu@hama-med.ac.jp)までお申込みください。●参考 医療法学の学習コンテンツ「MediLegal」はこちら http://www.carenet.com/report/series/litigation/medilegal/index.html

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新しい血糖コントロール目標値を発表! 第56回日本糖尿病学会年次集会を開催

5月16日より3日間、熊本市で開催された第56回日本糖尿病学会年次学術集会(会長:荒木栄一氏/熊本大学大学院 生命科学研究部代謝内科学分野 教授)において、新しい血糖コントロールの目標値(以下「新目標値」と略す)が発表された。新目標値は、HbA1cに集約され、次の3段階とされる。HbA1c 8%未満→治療強化が困難な際の目標HbA1c 7%未満→合併症予防のための目標HbA1c 6%未満→血糖正常化を目指す際の目標図1 「血糖コントロール目標値」改訂図画像を拡大する図2 2型糖尿病治療の目標と指針画像を拡大する新しい評価分類の策定にあたっては、従来の5段階分類が複雑な目標設定であること、EBMの理念にそぐわない「不可」などの否定的な言葉が使われていること、「優」という呼称にはリスクを考慮せずにHbA1cを下げるべきとの誤解を生む恐れがあることなどを鑑み、学会内で検討が行われた。さらに、近年発表されたACCORD、ADVANCEなどの大規模臨床試験に基づき「低血糖を起こさない血糖管理」を考慮した内容も加味され、策定されたものである。その中には、新目標値を患者と医療者が共に目指す糖尿病治療の目標とすること、HbA1cの国際標準化との整合性、非専門医にも理解・活用しやすいようにできる限り簡素化することというコンセプトが込められている。新目標値は6月1日より運用開始となる。会長の荒木氏は「早期から治療を開始し、HbA1c値7%未満を目指してほしい」と期待を語った。DPP-4阻害薬投与時は、体重増加に注意「低血糖を起こさない血糖管理」といえば、DPP-4阻害薬がすでに欠かせない存在だ。本学会でも多くの使用経験が発表され、効果的な併用薬や症例像が明らかになった。「相性の良い併用薬」への関心も高い。シンポジウム14「インクレチン関連薬の長期展望」では、BG、α-GIとの併用がSU薬と比較して血糖改善効果が高いことなどが報告された。「レスポンダー/ノンレスポンダー」という観点では、シタグリプチンの2年間の追跡調査から血糖コントロール不良群で体重が増加していたことが明らかになった。DPP-4阻害薬の治療効果を得るには、体重増加を来さないことが重要であり、体重増加が認められた際には、速やかな食事指導が有効といえそうだ。DPP-4阻害薬+インスリンで、一定の治療効果同様に、DPP-4阻害薬とインスリンの併用に関する検討結果も発表され、一定の治療効果が報告された。強化インスリン療法、混合製剤2回注射、BOT(Basal Oral Therapy)のいずれのインスリンレジメンにおいても、DPP-4阻害薬であるシタグリプチンの上乗せによりHbA1c値低下効果やCPI改善効果が高まるとの報告も挙がった。ただし、DPP-4 阻害薬がどのインスリンレジメンと相性が良いかに関してはさらなる検討が必要とされた。インスリンからの切り替えカットオフ値は?また、インスリンからGLP-1受容体作動薬リラグルチド(商品名:ビクトーザ)への切り替え試験の結果から、効果不十分な場合の主な原因として内因性インスリン分泌能低下が推測されることが明らかになった。同試験においてデルタC-ペプチド値 1.34ng/mLがカットオフ値として算出されており、今後も継続した検討が期待される。なお、会期中にGLP-1受容体作動薬のエキセナチド(同:バイエッタ)の週1回製剤「ビデュリオン」が発売となった。代表的な副作用である「嘔気・嘔吐」の発現率はバイエッタと比べて少ないとの報告も挙がっており、週1回投与によるアドヒアランス改善とともに臨床での活用が期待される。新薬も期待!SGLT2阻害薬、GPR40作動薬、GK活性化薬このほか、新規作用機序をもった薬剤も次々と登場予定だ。シンポジウム2「今後期待される新規糖尿病治療薬」においても複数の新薬が取り上げられた。原尿からのブドウ糖再吸収を減らし、ブドウ糖を尿から排泄させる、「SGLT2選択的阻害薬」は、国内申請中のイプラグリフロジン(アステラス製薬/寿製薬)、ルセオグリフロジン(大正富山)を筆頭に6品目が後期開発段階にある。その後に続く薬剤としてGPR40作動薬にも注目が集まる。G蛋白質共役型受容体(GPCR)の一つであるGPR40に作用し、グルコース濃度に依存してインスリン分泌を促す特性をもつ薬剤である。GPR40作動薬は低血糖の誘発リスクが低いインスリン分泌促進薬として期待されており、現在開発中の薬剤にTAK-875(武田)がある。そのほか、膵β細胞でのインスリン分泌能増強作用と肝での糖利用亢進作用を有するGK(グルコキナーゼ)活性化薬も研究が進んでいる。編集後記インクレチン関連薬の発売、ACCORDの結果などを経て、「低血糖を来さない糖尿病治療」の重要性は臨床現場でも一般化した。今回発表されたHbA1cの新目標値も、この考えに基づいている。すでに、血糖値はひたすら下げるものではなくなった。今後は、患者さん一人ひとりに合った治療目標を設定し、薬剤を効果的に使いながら血糖をコントロールしていく必要がある。会長の荒木氏は、「あなたとあなたの大切な人のために~Keep your A1c below 7%~」を合言葉に糖尿病の予防と治療の向上に取り組む、とする「熊本宣言2013」を発表した。われわれも、医療情報メディアの一端を担う者として、最新かつ適切な情報伝達を通じ、糖尿病治療の発展に貢献していくことをあらためて宣言したい。(ケアネット 佐藤 寿美/稲川 進)

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Vol. 1 No. 1 ACSの実態-PACIFIC Registry からわかったこと

宮内 克己 氏順天堂大学医学部循環器内科はじめに本邦における急性冠症候群(ACS)を含めた虚血性心疾患は、生活習慣の欧米化に伴い増加している。その予防や、発症した場合の急性期治療、および2次予防治療は日々実践されている。しかし、この領域における技術革新や薬剤開発は目覚ましく、診断法や治療法は日々変化し、薬剤あるいは治療法の有効性を検証する大規模臨床試験も世界中で施行されている。このような試験をまとめるかたちでevidence based medicine(EBM)は形成され、やがてガイドラインが作成される。したがって、進歩する医療から形成されたガイドラインを、そのときどきの治療実態や結果である予後を調査することで検証し、現状の問題点や今後の課題を見いだすことがわれわれには求められている。一方、ACSは冠動脈の不安定プラークの破綻とそれに続く血栓形成が主因となるが、こうした病態は全身の血管で発症しうることであり、脳血管で発現すれば脳梗塞、末梢動脈であれば急性動脈閉塞と診断される。すなわち、これらの疾患はそれぞれ独立の疾患ではなく、全身の血管に広がり、生涯進行するアテローム血栓症という臨床的症候(アテローム血栓性イベント)としての概念が確立してきた。従来、ACSに限定した調査は行われているが、他臓器のアテローム血栓性イベント再発の実態まで捉える報告は少ない。そこでアテローム血栓性イベントとその危険因子に焦点を当てた国際観察研究REACH Registryが施行され、わが国からも約5,000症例が登録され、世界との比較において新たな知見が得られた。また、日本の実臨床におけるACSの治療実態と、アテローム血栓性イベントの再発の実情を把握する目的で施行された観察研究がPACIFIC Registryである。本稿では、わが国におけるアテローム血栓性イベントの発症に関する前向き観察研究であるPACIFIC(Prevention of AtherothrombotiC Incidents Following Ischemic Coronary attack)について概説する。日本における急性冠症候群(ACS)を対象に、2年間の観察期間での治療実績や予後を観察するものである。日本人の予後-REACH Registry国際大規模観察研究1)で、対象疾患は45歳以上の確定した冠疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患(2次予防患者と文中では定義する)、または1次予防ハイリスク患者で、登録時の背景、治療内容、予後を追跡した。対象患者は6万人を超える大規模なもので、登録期間は7か月、44の国、参加医師は5,587名に及んだ。2003年12月から2004年6月までの間に67,888名(うち55,499名が2次予防、12,389名が1次ハイリスク患者)が登録され、5年追跡まで学会報告されている。登録時の患者背景をみると、冠硬化症単独が59.3%と大半を占めるが、冠・脳・末梢動脈疾患単独例は全体の80.8%であり、3者の合併は1.6%であった2)。1年後の予後を心血管死、心筋梗塞、脳卒中、またはこのイベントに入院を加えたものをエンドポイントにすると、2次予防患者は1次予防患者に比べ、1年、2年ともに有意に発症率が高率であった(4.7% vs 2.3%, p

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(54)〕 がん検診の正しい情報とは?

EBM(Evidence-Based Medicine)の領域では、医療介入がどれだけのベネフィットをもたらすかということを、NNT(Number Needed to Treat)という指標が使われる。NNTとは、患者さん1人がメリットを得るために、同様の患者さん何人に治療(介入)を行わなくてはならないのかを示す指数である。医学論文などでは、効果の指標として、相対リスクやハザード比などがよく使われ、◯%の患者に効果が認められたなどと示されるが、相対リスク減少率などは過大評価されやすく、またわかりにくい指標であるので、EBMの世界では、NNTがよく使用される。 今回のBMJに報告された研究は、NNTに時間の概念を加えて、1人のがん死亡を防ぐために何名の検診が必要で、そのベネフィットが確認されるまでどれくらいの期間が必要であるかを計算した結果である。結論は、乳がん検診や大腸がん検診では、受診者1,000人当たり1例の死亡を予防するのに(つまり、NNTが1,000)、約10年を要するというものであった。 近年、検診の意義を問う研究報告がいくつかなされている。乳がんマンモグラフィー検診で相当数の過剰診断がある(Jørgensen KJ et al. BMJ. 2009; 339: b2587.)という報告、米国予防医療サービス専門作業部会(the U.S. Preventive Services Task Force)による、乳がん検診の推奨年齢を従来の40~74歳(毎年)から50~74歳(2年に1度)に変更し、過剰診断というリスクに関して十分に認識すべき(US Preventive Services Task Force. Ann Intern Med. 2009; 151: 716-726.)という報告などがある。また、NEJM誌2012年11月22日号では、乳がん検診によって、早期乳がんが増えたのに対して、進行がんが減っていないことのアンバランスから、過剰診断がなされているのではないか、検診のベネフィットは少ないのではないか、ということを指摘している(Bleyer A et al. N Engl J Med. 2012; 367:1998-2005.)。 NNT1,000を妥当と判断したのは、1,000人に1人は過剰診断がなされているという報告(Nelson HD et al. Agency for Healthcare Research and Quality. 2009:1-89.)からであるが、言い換えると、乳がん・大腸がん検診を受けると、1/1,000の確率、0.001%の確率で10年後に乳がん・大腸がんで死亡することを防げるというものである。またその場合、1/1,000の確率で誤診もされてしまうということである。また、色々な合併症があり10年以上の予後が見込めない場合には、検診を受ける必要はないということになる。 日本はがん検診後進国であり、先進国の中では最低の検診率である。検診の啓蒙は大切なことであるが、全てのがんに検診が有効というわけではなく、限られたがんにしか有効ではない、しかもその利益を受ける者は、一部の者だけであるという正しい情報も伝えられる必要があると思われる。勝俣 範之先生のブログはこちら

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e-ラーニングEBM課程は研修医の知識やスキル向上に有用/JAMA

 臨床でのEBM教育について、世界保健機構(WHO)がWHO Reproductive Health Library(RHL)に組み込み提供しているe-ラーニングEBM課程は、低中所得国(LMIC)の臨床医の高い知識とスキルに結び付いていることが、WHO政策研究・国際協力部門のRegina Kulier氏らにより報告された。医療現場にEBM診療を文化として根付かせるためには、EBM教育を臨床に組み込む必要があるが、低中所得国では、EBM教育を受けた指導医が不足しており、EBM教育のための時間も確保されておらず、また自発的に学びたくても英語以外のデータベースへアクセスできる環境が整備されていないのが現状だという。JAMA誌2012年12月5日号掲載より。WHO Reproductive Health Libraryに組み込まれている総合e-ラーニングEBM課程を評価 Kulier氏らは、WHO Reproductive Health Libraryに組み込まれている総合e-ラーニングEBMコースについて、従来EBM教育法と比較した臨床的な知識、スキル、教育環境の効果について、2009年4月~2010年11月に国際クラスター無作為化試験にて評価した。試験は低中所得国7ヵ国(アルゼンチン、ブラジル、コンゴ、インド、フィリピン、南アフリカ、タイ)の産科・婦人科の卒後研修医を対象とした。 各単位のトレーニングを、WHO RHLを活用して無作為化し、学習の活性度と受講者を評価し(31クラスター、参加者123人)、RHLを利用したEBM課程の自発的学習者(対照群、29クラスター、81人)についても評価した。全単位にEBM経験値を教えるファシリテーターを配置し、学習課程は8週間で、ベースラインと4週時点で評価した。 評価対象となった試験完了者は、介入群24クラスター(98人)、対照群22クラスター(68人)だった。 主要アウトカムは、EBM知識の変化(スコア範囲:0~62)とスキルの変化(同0~14)。副次アウトカムは、教育環境[1(最強)~5(最弱)の5ポイントLikertスケールの指数]とした。向上した知識やスキルを活かす場も有意に改善 ベースラインの各評価群の年齢、研修期間、EBMに対する姿勢および知識は同程度であった。 試験後、介入群は対照群よりも、EBM知識の平均スコアは有意に上昇した。介入群43.1(95%信頼区間:42.0~44.1)、対照群38.1(同:36.7~39.4)で、補正後格差は4.9(同2.9~6.8、p<0.001)だった。 スキルについても有意に上昇した[9.1(8.7~9.4)vs. 8.3(7.9~8.7)、補正後格差0.7(0.1~1.3)、p=0.02]。 教育環境については全体スコアの改善では、有意な差はみられなかった[13.6(8.0~19.2)vs. 6.0(-0.1~12.0)、補正後格差9.6(-6.8~26.1)、p=0.25]。しかし、一般的なリレーションシップとサポートでは有意に改善がみられ[0.3(-0.6~1.1)vs. -0.5(-1.5~0.4)、補正後格差2.3(0.2~4.3)]、EBM適用機会も有意な改善がみられた[2.9(1.8~4.1)vs. 0.5(-0.7~1.8)、補正後格差3.3(0.1~6.5)、p=0.04]。

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第1話「病歴聴取のコツ、大事なことが3つ!」第2話「確定診断、シマウマ探しはほどほどに!?」第3話「このままでは心筋梗塞になりますか!?」 第1話「病歴聴取のコツ、大事なことが3つ !」【CASE】53歳 女性昨年、検診でコレステロール値がやや高いことを指摘されたため、以来1年間、食事に気をつけ、つとめて運動するなどしてきた。ところが、先日受けた検診の結果によると、コレステロール値は以前よりもむしろ上昇。「何か変な病気なのではないだろうか!?」と心配になり、外来を受診した。第2話「確定診断、シマウマ探しはほどほどに!?」第2話は、引き続き同じ患者さんによる鑑別篇です。患者さんとの面接時に重要なのは、的確に患者さんの思いを引き出すのと同時に、その患者さんに一体何が起きていて、どのような疾患の可能性があり、どのように確定診断に向かっていくか・・・ということ。今回は、鑑別診断に至るまでのプロセスと考え方、注意点やコツなどを勉強していきます。病歴聴取により得られた情報からさまざまな疾患を思い浮かべる瀧澤美代子先生。しかし、重要な疾患を落とすことなく、網羅的な鑑別疾患リストを作るにはどうすればいいか。そして、数ある可能性の疾患の中から確定診断にたどり着くためには、どのようなポリシーを基に、どのような手順を踏んでいくべきか。臨床現場に即したEBMの第一人者である名郷直樹先生が、現場で使える数々の「武器」を駆使して鮮やかに解説していきます。第3話「このままでは心筋梗塞になりますか !?」【CASE】53歳女性 2年前から高コレステロールを指摘され、食事運動療法を試みたが改善を見ず、不安を感じて来院。検査の結果、単純な高コレステロール血症と判明した。T-Chol 281、TG 84、HDL 43。さて、「先生、放っておいたらどのぐらいの確率で心筋梗塞になりますか」と尋ねてくる患者に対して皆様ならどう答えますか?

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第4話「このままでは早死にしますか!?」第5話「微妙な患者、危険な患者」第6話「現実的に考える!」 第4話「このままでは早死にしますか!?」【CASE】43歳女性 2年前の住民健診から高コレステロールを指摘され、食事運動療法を試みるも改善を見ず、不安を感じて来院。検査の結果、二次性の高コレステロール血症は否定され、単純な高コレステロール血症と診断された。T-Chol 281、TG 84、HDL 43。コレステロール値が高い=心筋梗塞などに罹る可能性が高いという話に、「では、私はわりと早死にするということですか?」と尋ねてくる患者さん。さて、どのように答えるべき?!"第5話「微妙な患者、危険な患者」【CASE1】総コレステロール値は280と高いけれども、それ以外のリスクはまったくないという患者さん。今回は、これまでの講義をふまえて、名郷先生ご自身が患者さんに説明している風景を披露します。 【CASE2】転勤に伴い、はじめて来院された患者さん。総コレステロール値は194と正常範囲内ながら、肥満、喫煙、心臓病の家族歴、糖尿病など、複数のリスク因子をもっています。とはいえ、ここ3年間は食事・運動療法に真剣に取り組んできたこともあってHbA1cは7.5未満の値で安定し、体調もすこぶる快調とのこと。少なくとも高脂血症の治療は必要なさそうに思われますが、実際はどうなのでしょうか?"第6話「現実的に考える!」【CASE】転勤に伴いはじめて来院。過去3年間、糖尿病を患っているが、薬嫌いのため、食事・運動療法に真剣に取り組んできた。その甲斐あって、体重は10kg減少し、HbA1cはかつて8.5だったのが、現在7.1前後で安定している。体調はすこぶる良い。ただし、現在でも肥満あり、高血圧あり、喫煙者である、父親を心筋梗塞で亡くしているなど、リスクは高い。T-Chol.194、TG 84、HDL 43。"

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1>頭痛2>女性の下腹部痛3>糖尿病 1>頭痛片頭痛の患者さんは非常に多く、トリプタンの登場以来治療は様変わりしてきていますが、問診・診察の重要性に変わりはありません。限られた診察時間のなかでも髄膜炎などの深刻な疾患を見逃さず、適切な診断と治療を行うための問診・診察の要点を中心に解説していただきます。【症例】32歳男性。15歳頃から月に0〜3回程度の頻度で片頭痛のある患者さん。当日も朝起きたときから片頭痛があった。痛みの性状や程度はいつもと同じくらいで、「ガンガンするような感じで、頭を割って中身を出したい」とのことです。いつもの頭痛薬(エキセドリン)を飲んでも効かないので横になって再び眠りにつき、昼過ぎに再度起きたときにもやはり同じ痛みがあり、夜になっても治らないため19時頃に救急外来を受診。2>女性の下腹部痛虫垂炎の疑いがある患者さんをもとに「ベイズの定理」を学習していきます。 ベイズの定理とは、大まかに言えば「何かが起こる可能性を、その事柄の過去の発生頻度を使って推測する」という理論で、EBMの基幹をなす考え方のひとつです。近年では、Google、Microsoft、Intelなどが、このベイズの定理を利用したアルゴリズムで高い成果を達成していることでも注目されています。番組では、このベイズの定理を簡単な計算だけで、あるいは全く計算しないで日常診療に生かしていく方法を伝授します。【症例】65歳と25歳の女性患者さんが登場。前日から右下腹部痛があり、救急車で来院。しかし、あなたはそのとき重症患者を診ていてしばらく手が離せません。バイタルは安定しているとの報告だったため、とりあえず採血と腹部CTをオーダーしました。これらの検査、特にCTの結果によって、どのように「虫垂炎らしさ」が推移するのかを見積もってみてください。3>糖尿病糖尿病などの慢性疾患の場合、薬効のあるなしといった「サロゲートエンドポイント」ではなく、虚血性心疾患や脳卒中といった危険な合併症を減らすという「トゥルーエンドポイント」をきちんと把握して治療にあたることが重要です。糖尿病に関するエビデンスといえばUGDPやUKPDSなどが有名で、結果も含めてよく知られていますが、実はそれらを仔細に検討すると、意外な治療法が大きな選択肢として導き出されることがわかってきました。本編を見れば、日常の糖尿病診療に新たな視点がもたらされるはずです【症例】50歳男性。検診で糖尿を指摘され外来を受診。HbA1cは7.8。やや肥満あり、血圧やや高め。父親が心筋梗塞により50代で死亡している。モノフィラメントテスト正常、尿中微量アルブミン陰性。タバコは1日20本×30年間吸っている。

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Dr.能登のもう迷わない ! 臨床統計ここが知りたい ! !

第1回 「EBMとはなんだ?」第2回 「単純明快!臨床統計学の基礎」第3回 「診断編① これでスッキリ!感度と特異度」 第1回 「EBMとはなんだ?」Evidence-Based Medicine(EBM)は、不確実な医療の現場において臨床判断をする際にエビデンス(臨床研究による実証)を活用するアクションです。このシリーズではEBM の実践法とそのために必要な臨床統計学について理論・数式ではなくイメージを通じて簡潔明快に解説していきます。第1回はEBM の正しい理解と実践法から始まりEBM の真髄に迫ります。EBM ではエビデンスの質の評価をし、エビデンスに振り回されることのない患者中心の医療を目指します。「患者に始まり患者に帰着する」ことを忘れてはいけません。エビデンスを適確に素早く読むワザや、EBM 実践法のコツなど、実用的な内容をお送りします。第2回 「単純明快!臨床統計学の基礎」「統計挫折者、全員集合!!」初心者にも分かりやすいと大好評の、数式を使わない臨床統計学の入門シリーズ。第2回は、EBM実践に必要な臨床統計学の基礎を体系的に解説します。多くの方にとって統計学は難解でとっつきにくい印象があるでしょう。それは実地教育実践者からの説明を受けたことがないからだと思います。数値は臨床的枠組みのなかで初めて意味を持ちます。よりよい医療のための活きた臨床統計学総論と相関について簡明に解説します。第3回 「診断編① これでスッキリ ! 感度と特異度」数式を使わない臨床統計学入門シリーズ。第3回のテーマは、「感度」と「特異度」。国試のために一夜漬けして覚えたもののすぐに忘れてしまったという方も多いのではないでしょうか。医療には不確実性が伴いますので、診断にはどうしても誤診を避けられないのが現実です。「感度」と「特異度」は検査特性の指標ですが、統計学的定義や式を覚えただけでは意味がありません。「感度=見落としの少なさ」と「特異度=過剰診断の少なさ」といった臨床的な枠組みの中で初めて意味を持つのです。診察に応用することで検査の限界を知り、かつ無駄な検査を避けるだけでなく、検査の選び方や判定の仕方が確実に身につきます。今回もイメージで理解できる簡明で実用的な解説をお送りします。

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