2010年4月22日、星陵会館(東京都千代田区)において自民党ワクチン政策に関する議員連盟主催の「子宮頸がんを撲滅するためのワクチン普及に向けたシンポジウム」が開催された。自治医科大学附属さいたま医療センター産科婦人科教授の今野良氏は基調講演に登壇し、子宮頸がんの病態、ワクチンによる予防とその普及における問題点について語った。
今野氏はまず、わが国における子宮頸がんを取り巻く状況を話題とした。子宮頸がんは検診などで早期に発見できれば、前がん病変である異形成の段階(0期)で円錐切除術を行って妊孕性を保つことや、子宮全摘術、場合によっては円錐切除術により根治が可能である。子宮頸がんのリスクファクターには免疫低下状態や喫煙などがあるが、検診を受けないことも問題である。30年前、日本は子宮頸がん検診の先進国であったが、現在の受診率は欧米と比較すると極めて低い。検診受診率が常に低い国では子宮頸がん発生率が年齢とともに増加する傾向があるが、現在のわが国の発生ピークはおよそ35歳であり、30年前の受診率の高さが40代以上の女性における発生率の低さに寄与しているのだろうとのことである。また、20~30代の発生率上昇に伴い、死亡率も上昇傾向にある。
一方、子宮頸がんの自然史はかなり解明されており、発生原因の多くはヒトパピローマウイルス(HPV)感染によることがすでに明らかとなっている。HPVは性交渉で感染し、女性の8割に感染歴があるとされるがほとんどは一過性であり、持続感染した場合に子宮頸がん発生のリスクとなる。タバコは肺がん発生のリスクを10倍高めるとされているが、ハイリスクのHPVである18型は子宮頸がんのリスクを500倍以上高めるという報告があり、がんの中でも抜きん出て相関が強いといえる。
これらを踏まえ、初のがん特異的予防ワクチンとして、HPVワクチンが開発された。HPVのタイプは多様であり、現在のワクチンは子宮頸がんの原因として最も高頻度に発見されている16型と前述の18型の感染を予防するものである。このワクチンを性活動前の女性に接種したところ、約70%の子宮頸がん予防効果がみられた。加えて今野氏は、検診受診率の高い国では子宮頸がん発生率が低いというデータを示しながら、ワクチンによる一次予防(対象は11~14歳女児)と、二次予防としての定期的な検診で子宮頸がんはほぼ撲滅できると述べた。
2009年4月のWHO Position Paperにおいては、「HPV関連疾患が公衆衛生上重要である」ことと「国家的なHPVワクチン組み込みを推奨する」ことが明記されている。また、わが国の12歳女児全員にワクチンを3回接種した場合の試算では、ワクチンの総費用は約210億円となる。対して、治療費は約170億円が節減でき、約230億円の労働損失額を加えると約400億円を抑えられ、全体では約190億円の費用削減となるため、医療経済的には便益がコストを上回るとのことである。
今野氏は、国を上げて国民の意識を高めている事例として、イギリスでテレビ放送されている子宮頚がんワクチンの啓発コマーシャルを紹介し、本講演を終えた。
(ケアネット 板坂 倫子)