化学療法後の切れ目ない医療の実践

提供元:ケアネット

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公開日:2011/04/06

 



2011年3月初旬、震災前の青森県三沢市にて第83回日本胃癌学会総会が開催された。大会3日目「化学療法後の切れ目ない医療の実践」と題したシンポジウムが行われた。このテーマは今回の会長である三沢市立三沢病院 坂田優氏の意向で主要演題として取り上げられた。


がん診療連携拠点病院での緩和ケアが診療報酬加算の対象となったが、その要件の一つである緩和ケアチームのあり方について臨床現場での問題は多く、熱い論議が展開された。


当シンポジウムは7人の演者が、基本講演と追加発言という形式で現場での取り組みについて発表を行った。

基本講演から




埼玉医科大学国際医療センター 奈良林至氏は、化学療法から全面的な緩和ケアに移行する時点で生じる診療の問題点を指摘した。わが国の固形がん治療は、診断から終末期にいたるまで外科医が担うという状況が永年続いていた。現在は、腫瘍内科医、放射線腫瘍医、緩和ケア医が併診するスタイルとなりつつあり、診療の経過のなかに多くの医療者が関わるようになったものの、化学療法から全面的な緩和ケアへの移行期については依然として診療の切れ目が顕著であるという。

一般病棟で診療を選ぶか緩和ケア施設での診療を選ぶかは、患者の選択が重視されるべきである。しかし、実際には十分な情報がないまま短時間で患者は自分の将来を決定しなければならない。一方、医療者側も多くの人間が関わる中で、患者の病状や希望について十分な確認が行われていないといえる。医療者は、緩和ケア移行前から情報を共有し患者が納得して方向を決定するに十分な情報を提供する必要があると述べた。

都立駒込病院 佐々木常雄氏は、終末期もがん薬物治療を継続するという診療形態が標準化する可能性と、それに対応できない現状の課題を指摘した。近年、分子標的治療薬では病状が進行しPD(progressive disease)となった後も薬剤投与を継続することで生存率向上を示すエビデンスがいくつか出てきている。一方、患者側からも化学療法が効果を示さなくなった後も治療を望む声は多く聞かれる。このように薬物治療の進化によるエビデンスの出現と患者の要望を考えると、終末期も薬物を用いた切れ目のない医療を提供する必要が出てくると予想される。しかし、現行のホスピスなどでは抗がん剤治療について制度上の制限があり、この診療形態に適応することは困難であるという。近い将来、こういった治療の流れに対応する必要が出てくるであろうと述べた。

古川浩一氏インタビュー




講演後、追加発言シンポジストの一人である新潟市民病院 古川浩一氏に話を伺った。古川氏の施設は600床以上の大病院であり、がん拠点病院である。緩和外来はあるものの、がん診療医ではなく総合診療科での開設であり受診者は2名たらず。また、緩和ケア病棟がないという理由で、緩和ケア担当医はいても実際には外科医を含めたがん診療を担う医療者が緩和ケアを行い、終末期診療を担い最期を看取っている構造は従来と変わらない。他のがん拠点病院でもこのような施設は少なくはなさそうである。そこには、がん医療が抱えるいくつかの問題点があるといえそうだ。
 
患者中心でないチーム医療の落とし穴:
 緩和ケアの認知と普及は関係者の努力の甲斐あってめざましいものがある。その一方で、緩和ケアチームと称していても単なるグループとしての活動が中心となっていないだろうかと古川氏は指摘する。チームメンバーも“チーム”を作るために“召集”され、活動のための“活動”に重きが置かれ、患者中心に作られるチームであるはずが、初期の目的から離れて制度のために作られるチームとなってしまうことが危惧される。たとえば、緩和ケアチームチームの介入は活動を優先するあまり“イニシアチブを担い治療方針の決定を下すのは誰なのか所在がはっきりしない事態”が発生している。結果として、かえって患者の利益が損なわれたりすることはないだろうかと古川氏はいう。フラットな関係でもリーダー(司令塔)がいれば、情報が集約され適切な治療方針の決定ができ、不要なリスクも回避できる。地域のニーズや医療水準を加味した患者中心のチーム医療に回帰し、化学療法、緩和ケア、在宅医療といった枠を超えたより包括的なチームを再構築すべき段階が来ている。
 
他施設移行における問題:
 患者は“誰が自分を診てくれるのか”“頼れるべき人なのか”わからないまま施設を移らざるを得ない。これはいずれの施設に移行する場合も大きな問題であるが、なかでもホスピスとの連携には制度上の段差があり敷居は高いという。病院とホスピス転移の際の段差をどうするかが今後の大きな問題といえそうである。

一方、在宅医療との連携は良好である。古川氏の施設では在宅移行する場合、在宅診療医が各領域の担当スタッフを連れて来院し患者にあいさつをする。患者には“あなたの周りにはこんなに信頼できるスタッフがいて支えています”ということが目に見えてわかる。病院も在宅移行後の対応を保障している。患者にとっては初期の主治医との関係が途切れることなく心強いし、在宅診療医にとってはネットワーク時の障害である後方ベッド確保が保障される。古川氏は、「こういった取り組みを行うことで、参加者が増えネットワークができ、さらに切れ目なき医療モデルになると思う。とはいえ、現状ではまだまだ在宅ケアに取り組む多くの医療者の熱意に依存していることを忘れてはいけない」という。病院、ホスピス、在宅と連携して、今後ますますより充実した継続可能な制度設計をしていく必要があるといえる。

最後に古川氏は、「がん対策基本法は、この5年間を振り返り次の5年間をどうするかという段階にきている。現実の医療を鑑みながら患者中心のチーム医療の在り方を見誤ることなく次の5年を考えるべきでしょう」と語った。

(ケアネット 細田 雅之)