第57回日本リウマチ学会総会・学術集会(4月18~20日、京都)の特別講演として、京都大学iPS細胞研究所 山中伸弥氏のビデオ出演、および「iPS細胞を作製したのは彼ら」と山中氏より紹介された3人のうちの1人である高橋和利氏の講演「iPS細胞研究の進展」があり、研究の方向性や今後の目標について発表された。
最初に、山中氏が、医師となって整形外科に入局したときに、担当した重症のリウマチ患者さんがみるみる悪化し、なすすべがなかったことが研究者の道に進むきっかけになったというエピソードや、ノーベル賞を同時受賞したジョン・ガードン氏の功績、iPS細胞の概要などを紹介した。また、同研究所の10年間の達成目標として、「基盤技術の確立と知的財産確保」、「再生医療用iPS細胞の樹立と供給」、「再生医療臨床研究の開始」、「難病・希少疾患の治療薬の開発」の4つを掲げた。
次に、高橋氏から、iPS細胞の性質や作製方法など基本的な紹介のあと、iPS細胞による創薬開発への応用について、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬の探索を例に挙げ、説明した。これまでは、マウスの疾患モデルを利用して有効な物質を特定しても、ヒトには効果が得られない、という開発リスクがあった。ALS患者の神経細胞で調べることができればいいが、細胞の入手は困難である。そこで、ALS患者から1~3mLの血液を採取しiPS細胞を作製すれば、ALS患者と同じ遺伝情報をもった神経を多量に得ることが可能となり、疾患の原因や病態を詳細に調査できるようになる。また、何万種類もの薬剤の評価が可能となる、と高橋氏は説明した。
再生医療については、患者自身のiPS細胞を作製していたのでは移植までに最低6ヵ月を要するため、iPS細胞をストックして供給するシステムの構築が進められている。
材料の細胞組織としては、皮膚ではなく、ボランティアの人々から採取しやすい臍帯血や末梢血を用いる方向にあるとのことである。ドナーのリクルートは、まずフェーズ1として、日本人の30%をカバーできる10株を目標とし、それに必要な1,000人に声をかけていくという。これが達成されれば、フェーズ2として、日本人の90%をカバーできる150株を目標として200万人に声をかける必要がある。これを達成するためには臍帯血バンクや日赤事業などとの連携が必要になる、と高橋氏は述べた。
最後に、高橋氏は今後の目標として、スピードを重視して可能な限りベストと思えるものを作っていきたい、と語った。
(ケアネット 金沢 浩子)