COPD治療の標準薬となっているチオトロピウム(商品名:スピリーバ)はハンディへラー(ドライパウダー製剤)とレスピマット(MDI:定量噴霧型製剤)の2つの吸入製剤を持つ。しかしながら、近年レスピマットにおいて死亡率増加の可能性を指摘するpooled analysisが発表された。そのため、COPD患者を対象としたチオトロピウムレスピマットの安全性および有効性に関する大規模試験TIOSPIR(TIOtropium Safety and Performance In Respimat)が行われた。New England Journal of Medicine誌にて報告されたその結果(http://www.carenet.com/news/head/carenet/36078)について、9月8日、2013年欧州呼吸器学会(ERS)にて、米国ジョンズ・ホプキンス大学のRobert A.Wise氏より発表された。
TIOSPIR試験は無作為二重盲検、スピリーバレスピマット2.5μgおよび5μg vsスピリーバハンディヘラー18μg の3アーム、ダブルダミーで行われた(レスピマット2.5μgは試験用量)。各群とも治療開始後6週目と12週目に評価し、その後は12週ごと2~3年間にわたり評価した。
プライマリエンドポイントは、死亡率(スピリーバレスピマット2.5μgおよび5μgのハンディヘラー18μgに対する非劣性)。および初回COPD増悪リスク(レスピマット5μgのハンディヘラー18μgに対する優越性)であった。
患者条件は
・40歳以上の男女
・10pack-years以上の喫煙歴を有する
・COPDと診断されている
・FEV1/FVC 70%以下
・予測FEV1 70%以下
・ハンディヘラー、レスピマットとも吸入可能
などであった。また、実臨床に近い状況とするため、抗コリン薬以外のCOPD基礎治療薬は許可された。
一方、COPD以外の肺疾患、4週間以内の増悪、不安定な心臓疾患を有する患者(6ヵ月以内心臓発作、心筋梗塞、1年以内の致死的なうっ血性心不全、不整脈)、不定期なステロイドの使用例などは除外された。
2010年5月から2011年4月までの期間に患者登録され、50ヵ国1,200施設以上の医療機関で実施された。無作為割り付け対象は、17,183例で、治療17,135例であった。3群間の患者背景に差はなかった。治療期間の中央値は835日(約2.3年)と長期にわたった。
<結果>
全死亡率はレスピマット2.5μg群 7.7%、レスピマット5μg群 7.4%、ハンディヘラー18μg群 7.7%で、対ハンディヘラー18μg群のHRはレスピマット2.5μg群 1.00(0.87~1.14)、レスピマット5μg群 0.96(0.84~1.09)であった。レスピマットはいずれの用量でもハンディヘラーとの非劣性が認められた(inferiority margin 1.25)。
死亡例のうち心血管系による死亡は、レスピマット2.5μg群 2.1%、レスピマット5μg群 2.0%、ハンディヘラー18μg群 1.8%で、対ハンディヘラー18μg群のHRはレスピマット2.5μg群 1.17(0.90~1.53)、レスピマット5μg群 1.11(0.85~1.45)であった。なお、不整脈の既往のある患者の死亡は、レスピマット2.5μg群 13.1%(HR 1.02)、レスピマット5μg群 10.6%(HR 0.81)、ハンディヘラー18μg群 12.9%で、対ハンディヘラー18μg群のHRはレスピマット2.5μg 1.02(0.74~1.39)レスピマット5μg群 0.81(0.58~1.12)であった。
増悪については、レスピマット2.5μg群49.4%、レスピマット5μg群47.9%、ハンディヘラー8μg群48.9%で、レスピマット5μg群対ハンディヘラー18μg群のHRは 0.98(0.93~1.03)、p=0.42と同等の結果であった(2.5μg群は49.4%、HR 1.02 [0.96~1.07])。
以上の結果から、チオトロピウムレスピマット2.5μgと5μgはチオトロピウムハンディヘラー18μgと同等の安全性と有効性プロファイルを有する事が示されたとWise氏は述べた。
また、テキサス大学のAntonio Anzueto氏は、期間中に開催されたプレスセミナーにて、以下のようにコメントした。
「過去のPooled Analysisは期間が長くなく、対象患者数も十分とはいえない。今回の1万7千例を超える患者を2年以上追跡したTIOSPIRの結果は、過去の報告結果とは一線を画すものだといえる。さらに、世界50ヵ国、1,200施設という非常に多様な患者を対象にした点はCOPDの多様性を反映しており、また実臨床の薬剤の使用も許可したという点で、Real Worldを反映している試験だといえよう。レスピマットの簡便性は患者にとっても恩恵であり、今回の試験結果で使用の障壁は下がる可能性がある。ただし、この試験結果がすべての患者をカバーできるわけではない、医師は各々の患者のリスクを評価して薬剤を使用すべきである」。
(ケアネット 細田雅之)