ロコモ対策の充実で健康寿命の延伸を図る

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2015/09/14

 

 日本整形外科学会は、「健康日本21(第2次)における日本整形外科学会の取り組み―なぜロコモ対策が必要か?―」と題して、9月3日都内にてプレスセミナーを開催した。

 ロコモティブシンドローム(以下「ロコモ」と略す)とは、2007年に同学会が提唱した概念で「運動器の障害により移動機能の低下を来した状態」をいう。同学会では、運動器疾患により寝たきりなどの要介護状態になることを防止するため、積極的に検査、診療をしていくことで運動器機能の維持・改善を目指すとしている。

 セミナーでは、同学会の理事長である丸毛 啓史 氏(東京慈恵会医科大学整形外科 教授)が、「健康日本21」の概要、ロコモの概念と代表的な運動器疾患、ロコモ対策と今後の取り組みについて解説を行った。

運動器の維持で健康寿命を延長

 国民の健康増進のために国が定めた基本指針「健康日本21」では、運動器に関する具体的な目標が示されている。まず、国民のロコモ認知度を17.3%(2012年)から80%(2022年)に引き上げること、および足腰に痛みのある高齢者を2012年時点の男性218人、女性291人(対千人)から、2022年には同200人、260人(対千人)に減少させることである。策定の背景には、2060年に高齢化率が40%近くなる超高齢化社会を迎える前に、高齢者の健康寿命を延伸させることで、平均寿命との差を縮小させ、増大する一方の医療費・介護費用の負担軽減を図りたいという目的もある。

 それでは、健康維持にあたり、具体的にどのような疾患に注意すべきだろうか。65歳以上の有訴からみてみると、男女共に「腰痛」が第1位であり、運動器の障害を防止することが重要だということが判明した(2013年厚生労働省調べ)。2009年発表の運動器疾患の推定有病者数の調査では、変形性腰椎症が約3,790万人、骨粗鬆症(腰椎、大腿骨頚部)が約1,710万人とされ、これら運動器疾患は要介護になる原因疾患の25%を占め、第2位の脳血管障害(18.5%)を大きく引き離している。

 これらを踏まえ、世界に類を見ない超高齢化社会を迎えるわが国で、運動器疾患対策を行い、健康寿命の延伸を図ると同時に、いかに持続可能な社会保障制度の維持を果たすかが、課題となっている。

骨・関節・筋肉が弱るとどうなるか

 加齢や運動不足、不規則な生活習慣がロコモの原因である。骨、関節・軟骨・椎間板、筋肉・神経系の能力が低下することにより、骨なら骨粗鬆症、関節などであれば変形性関節症、筋肉ではサルコペニアといった運動器疾患を引き起す。

 とくに骨粗鬆症は、以前から知られているように骨折の連鎖が危惧され、ある調査によると、背骨から下を骨折した高齢者の5人に1人が歩行困難となる。にもかかわらず、骨粗鬆症で治療を受けている患者は男性で1%、女性では5%にすぎず、健診率の低さ、治療開始後の継続率の低さ、2次骨折予防への取り組みの不十分さが問題となっている。

 変形性腰椎症は、腰部脊柱管狭窄症へと進展し、腰痛や足の痛み、しびれなどを引き起す。しかし、日本整形外科学会の調査では、有病者の19%しか医療機関を受診しておらず、痛みなどが放置されている現実がある。そのため、痛みから運動を控えることでさらに運動機能が低下し、運動器疾患が進行、ロコモに陥るスパイラルが指摘されており、早期の受診と治療が待たれる。

 筋肉では、骨格筋量の低下により身体機能が低下するサルコペニアに伴い運動障害が起こる。主な原因は加齢によるものであるが、日々の運動とバランスの取れた食事で筋量・筋力の維持ができる。

 こうした疾患や病態は、適切な予防と早期の治療により、運動機能が改善・維持できることが知られている。今後も広く啓発することで、受診につながることが期待されている。

ロコモ対策の今とこれから

 2007年の「ロコモティブシンドローム」の提唱後、同学会では「ロコモチャレンジ」や「ロコモ アドバイスドクター」制度、「ロコモ度テスト」の発表などさまざまな啓発活動を行ってきた。なかでもロコモ アドバイスドクターは、全国で1,195名が登録し、患者への専門的な指導を行うなど活躍している。また、7つの項目でロコモの進度を測る「ロコモチェック」、3つのテストでロコモ度を測り診療へつなげる「ロコモ度テスト」、片脚立ちなどで運動機能改善を目指す「ロコトレ」の普及も同学会では積極的に行っている。

 2014年からは、新たに市民参加型のプログラム「ロコモメイト」を創設した。これは、規定の講習を受講後に認定を行うモデルで、現在1,581名がロコモメイトとしてロコモ予防の普及、啓発に努めている。

 最後に丸毛氏は、「先進国をはじめとして世界的に高齢化率が高まる中、ロコモ対策の推進により、高齢化社会のロールモデルとして、日本は世界をリードしていきたい」と今後の展望を語り、レクチャーを終えた。

関連サイト
 ロコモチャレンジ!(日本整形外科学会公認ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト)

(ケアネット 稲川 進)