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「厳格な血圧コントロール」と「腎機能の改善」によって糖尿病合併高血圧例の予後が改善 -Challenge DM study CKDサブ解析より-

提供元:ケアネット

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公開日:2008/06/06

 

CKD治療のポイントは「厳格な血圧コントロール」と「腎機能改善」





5月31日、第51回日本腎臓学会学術総会において梅村敏氏(横浜市立大学大学院医学研究科病態制御内科学)は、腎機能の低下と不十分な血圧コントロールが糖尿病を合併した高血圧症例の心血管系イベントの発症を増加させることを示し、血圧コントロールと腎保護の重要性を訴えた。
これは『Candesartan antiHypertensive Assessment for Long Life Enrolled by General practitioners - target on hypertension with Diabetes Mellitus (Challenge-DM) study』に参加した16,860例(有効性評価対象症例数)のうち、登録時から酵素法によって血清クレアチニン値を測定していた4,799例を用いたCKDサブ解析の結果によるもの。

Challenge-DM studyは、糖尿病を合併した高血圧症例にカンデサルタンをベースとした治療を施行し、平均2年5ヵ月追跡した観察研究であり、総イベントは突然死、脳血管系イベント、心血管系イベント、脳・心血管疾患系イベント、重篤な不整脈、重篤な腎障害、その他の血管障害と設定された。

eGFRが60mL/min/1.73m2未満をCKDと定義した場合、糖尿病を合併した高血圧症例4,799例中、1,704例(35.5%)が登録時にCKDであった。

糖尿病合併高血圧にCKDを併発すると、心血管系イベントの発現がさらに高率になる




CKD群では非CKD群と比べると、総イベントが有意に多く発現した。これをCKDのステージ分類別にみると、ステージ4(eGFR15以上30未満)群で14.6%と総イベント発現率が高く、ステージ3(eGFR30以上60未満)群と比較すると有意に高かった。

CKDの放置は心血管系イベントの発症を招く




また、「登録時におけるCKDの有無」と「経過観察時におけるCKDの有無」によって、「登録時も経過観察時もCKDが認められなかった群(無→無群)」、「経過観察中にCKDが発症した群(無→有群)」、「経過観察中にCKDが改善した群(有→無群)」、「登録時も経過観察時も継続してCKDが認められた群(有→有群)」の4群に分けて解析した。「有→有群」は「無→無群」より有意に総イベント発現率が高く(p<0.001)、「無→有群」も発現増加傾向が認められた(p=0.055)。これらCKD発症の有意な危険因子は、狭心症の既往歴、閉塞性動脈硬化症の合併、糖尿病性網膜症の合併、高尿酸血症の合併、登録時の収縮期血圧であった。

CKDは早期発見によって寛解が期待できる




CKD例のGFRはカンデサルタンをベースとした治療によって、2.4mL/min/1.73m2改善し、ステージ3ではGFR が3.2の改善が認められ、一方、ステージ4では3.4低下した。登録時のGFRに関わらず、経過観察時と登録時のGFRの変化量が0以上であった群を「腎機能改善群」、0未満であった群を「腎機能悪化群」として解析した結果、「腎機能改善群」で「腎機能悪化群」より総イベント発現率が低下傾向にあった(p=0.068)。

さらに降圧目標の達成(130/80mmHg未満)/非達成を加えて解析すると、「腎機能悪化+降圧目標非達成群」で総イベントが最も高率で発現したが、「腎機能改善+降圧目標非達成群」も高い発現傾向にあり、降圧目標達成の再確認された。

以上、「Challenge-DM study CKDサブ解析」について発表された内容をまとめてみたが、ここからは既報の『CKDと心血管系イベントの発現』に関する知見より、今回発表されたCKDサブ解析も交えて考察してみる。

注目が集まるCKD




CKDは国民の約20%と高頻度に認められる疾患であること、末期腎不全の予備群だけでなく、心血管系疾患の予備群として重要視されるようになったこと、早期発見によって治療が可能なことから、近年、医学的な観点だけでなく、社会的にも注目されてきている。

CKDは心血管系疾患の予備群




CKDが心血管系疾患の予備群であることは、久山町研究においても示されている1)。久山町研究では40歳以上の一般住民2,634人を1988年から2000年にかけて12年間追跡し、CKD(GFR<60mL/min/1.73m2)の有無別に心血管系疾患の累積発症率を評価した。その結果、CKD例では心血管系疾患の発症が有意に増加することが示され、非CKD例に比べて1.4倍CKDの発症リスクが高かった。中でも虚血性心疾患の発症リスクは1.9倍高かった。今回発表されたChallenge-DM study CKDサブ解析は、一般住民だけでなく、糖尿病合併高血圧例においてもCKDが心血管系疾患の発症リスクを有意に高めることを支持するものであった。

腎機能が低下すればするほど、心血管系疾患が発症しやすい




米国の20歳以上の112万人を対象とした疫学調査によると、腎機能が低下すればするほど、心血管系イベント、総死亡、総入院のリスクが高まることが示されている。60mL/min/1.73m2以上の人より、ステージ4(15-29mL/min/1.73m2)では2.8倍、ステージ5(15mL/min/1.73m2未満)では3.4倍心血管系イベントのリスクが高まる2)。米国一般住民を対象にした別の疫学研究では、CKD例における心血管系疾患死は腎死よりはるかに高いことも示されている3)。今回の結果も、日本人の糖尿病を合併した高血圧例に対しても、CKDのステージが上がれば上がるほど、心血管系イベントを発現しやすいことを支持している。また、経過観察中に改善が認められなかった群では、認められた群より高率に発現していることが示された。

腎機能改善と厳格な降圧がCKD治療のポイント




ARBによって糖尿病性腎症の進展が抑制できることが明らかにされているが、RENAAL(Reduction of Endpoints in NIDDM with the Angiotensin II Antagonist Losartan)試験では心血管イベントや心不全の発症の抑制には、ベースラインのアルブミン尿量やARB投与6ヵ月後のアルブミン尿減少率が重要な因子であり、ARB投与6ヵ月後のアルブミン尿の変化量50%減少あたり、心血管イベントの発現リスクが18%、心不全の発症リスクが27%軽減されたことが報告されている4)。

また、PREVENT IT(Prevention of Renal and Vascular Endstage Disease Intervention Trial)試験では、微量アルブミン尿が認められる高血圧例において、ACE阻害薬とプラセボを比較した場合、ACE阻害薬による尿中アルブミン排泄量が50mg/24hより高かった群においてのみ心血管イベントの有意な抑制が認められている5)。

このように腎障害における心血管イベント抑制においては、ARBやACE阻害薬投与後のアルブミン尿減少の程度が重要な因子であり、今回の解析においては腎機能の改善だけでなく、血圧を130/80mmHg未満にコントロールすることの重要性を改めて示した結果と言える。
 
1) Ninomiya T et al:Kidney Int. 2005;68:228-236.
2) Go AS, Chertow et al:N Engl J Med. 2004;351:1296-1305.
3) Keith DS et al:Arch Intern Med. 2004;164:659-663.
4) de Zeeuw D et al:Circulation. 2004;110:921-927.
5) Asselbergs FW et al:Circulation. 2004;110:2809-2816.

(ケアネット 藤原 健次)